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◆第26話

 ラズリとかいうストリーマー?の意味深長な言葉に、モヤモヤしながらも……俺たちは寝泊まりする旅籠を探し歩いた。

 旅籠自体は、結構見つかったのだが……。二部屋空いている所は見つからなかった。どうやらラズリの配信範囲というのは、俺らでいう、ネットの広大なプラットフォームではなく、限られた場所でしか配信されない。すなわち、ラズリのファンは、彼女の配信を見るためにこの街に来て一泊する人もいるのだとか。

 と、いうわけで……。


「お前と一夜を明かすとは……わたしは終わったな」


 すっかり夜の帳を下し、妥協して二人一部屋で泊まることになり、部屋に立ち入った瞬間、リコはそう言った。


「別に何もしないわ」


「お前はわたしの下着で発情する。信じられない」


「それは、お前に興奮しているんじゃない。お前のパンツに興奮しているんだ」


「何が違うというんだ……」


 あの純白のパンツが、俺の琴線を刺激する。そこに”リコの”という枕詞がついたところで、何もない──はずだ。


「まあ、作戦会議のため同じ部屋のがやりやすい、と自分を洗脳するしかないな」


「……それは今後の動きってことか」


「当たり前。ラズリはアリスについて、何か掴んでいるようだ。是非詰問したい」


「普通に聞こうぜ。詰問するな」


「ふっ、このわたしがどうしてニンゲンに。ほうき星村のヤツら以外は──」


「あーそれはもう分かった。……というかさ、お前はアリスについて何も知らないのか? 魔王だったんだろ?」


「うん。アリスは変わってる──と言われていたからな。常に孤独でいることを好む──らしい。仲間も部下も必要とせずな──という言い訳を抜きにすると、わたしは魔王になろうかと思ってた瞬間に城を追い出されたから、四天王のことはあまり知らない」


「使えねぇ」


 というか、”魔王になろうかと思ってた瞬間に追い出された”とか結局、こいつは魔王じゃないのか。もう、こいつの言うことがよく分からない。何者なんだこいつは。


「使えないとかお前に言われたくはない。実際、アリスが強大な力を持っているということは、周知の事実だったけど……どんな魔法を使えるかは、広まっていなかった」


「なるほどな。じゃあ、ラズリとやらに接触して話を聞くのは賛成だが、どうやって探し出すかだな」


「ファン──と言うんだったか? ラズリのことに詳しそうなヤツに聞くしかないだろ。あーあ、わたしに力があれば魔法で簡単なのになぁ。エーテルの鍵が壊れてなければなぁ」


「言っても仕方ないだろ。ってか、エーテルの鍵を壊したのはお前の身内のメイドだ。お前が尻ぬぐいすべきだろ。ちなみにそれはそれって言ったらぶん殴る」


「おい! わたしの必殺技を禁止するなッ!」


「クソみたいな必殺技だな……」


 何はともあれ、ラズリのファンに話を聞く──というのが、現実的か。いわゆるガチ恋しているファンならば、犯罪すれすれになりそうな情報も知っているヤツもいるだろ。これは俺の世界の知識だが。

 俺はリコに、明日街で聞き込みをすることを提案する。それにリコも納得した。

 そして、今日のところは、大いに疲れているからと自己申告したリコの言葉に……明日に備えて、休むことにするのだった。



 リコと入れ替わりで、俺は大浴場へと向かう。エーテルの鍵は何があっても盗まれてはいけないため、交互に入ることにしたのだ。


「……ここだな」


 青の暖簾がかかり、周囲の温度が上がっている空間。子供でも、大浴場であることが分かるだろう。

 リコに与えられたストレスも流そう……そんなことを思いながら、暖簾をくぐった。

 すると……。

 一人の女の子と、視線が重なった。メガネの奥の目はほとんど長い前髪に隠れているが……かっと瞳孔が開かれたのが分かる。そして、その目をぱちくりとさせる。

 その理由は……なるほど。

 彼女が、一糸まとわぬ姿であるからだろう。


「なっ、なっ──」


 魚のように口をパクパクとさせる彼女。

 そして……。


「護身術ッッ!」


 そう叫びながら──その白くしなやかな脚で、俺に金的を食らわせた!

 地面に倒れ身悶える俺。亀が甲羅にこもるように縮こまり、我が半身を両手で抑える。


「ま、待て……俺は確かに、青の暖簾をくぐった……だのに何故……っ」


「は、はぁ!? 青の暖簾なんだから、女湯に決まってるじゃないですか!」


「嘘だろ!?」


 いや、しかしそうか! これもまた前世で刷り込まれた偏見……青い暖簾が男湯であるという常識は、異世界では通用しないということか……!


「あたしの豊潤に熟した禁断の果実、見ましたね……」


「官能小説みたいな表現……」


 というかパッと見、結構な貧乳に見えたが……。

 痛みに身悶えながら、確認すべき顔をあげる。すると、腰まで伸びるピンク色の髪を揺らしながら、頭を踏まれた! が、貧乳であることは確認できた!


「……っ、まさかあなた、あたしの秘密の花園を覗こうと……ッ!」


 またもや官能小説みたいなことを言いながら、彼女はぎゅっと俺の頭を踏みつける。これに昂るヤツは居そうだが……俺はそうじゃない。素直にめちゃめちゃ痛かった。


(こんな古典的なスケベイベントにも、これほどの苦痛が……ッ!)


 アンラッキースケベ──やはり代償が大きい。

 地面に口づけさせられながら、俺はなんとか謝罪の意を述べようと口を開く。

 そんな時だった。


「え……」


 周囲を光が包み込む。

 どうやらその光源は──俺の背中から降り注いでいるように見えた。


(俺のリュックから──何故──こ、これは……)


 エーテルの鍵だ。盗まれないようにどっちかの手元に置いておこうと、交代で風呂に入るとリコと決めたが、俺はどうやら着替えを詰めるとき、外に出すのを忘れたのか……。いやそれより、どうして、壊れたはずのエーテルの鍵が──。

 そう、俺の脳内が混沌とする中……。


「え……え、え、えぇ!? な、なんで!? ど、どうして!?」


 慌てふためく彼女の声が脱衣所に充満し、俺の頭が解放される。


「い、一体何がどうなって──」


 未だ強くジンジンとする下腹部の痛みを我慢して、俺は起き上がる。

 すると──またもや謎が深まる光景が広がっていた。

 全裸少女の姿が──まったく別の人間の容姿に変わっていた。

 ピンク色の髪は、青に……メガネは外れ、髪のボリュームも全体的に少なくなっている。

 変わってないのは……貧乳だけだった。


「え……君は……」


 そう、彼女は……。


「ラズリ──?」


 確かに、街で空に映し出されていた、ストリーマーラズリだった。

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