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◆第28話

 ──ラズリが聞いたのは、こんな感じラピ。

 ラズリのファンの一人が、なんか、悩みがあったみたくて……それを、もう一人のファンが相談されていて──あぁ、その人たちは、同担拒否じゃないから、安心するラピ。


 『何を安心するんだよ。ってか同担拒否って言葉もあるのかよ。この世界の文明進みすぎな』。


 ワケ分からないこと言って、口を挟むなラピ。

 それで、その、アリスのことを聞いたらしい。

 まあ、アリスは有名で、ラズリも強い魔族ってことは知ってたけど……本当に、それだけ。戦う力のない人からしたら魔族なんて、災害みたいなもんだし、あんま興味ないからね。


『ふんっ。魔族の力は、人間と歴然の差だからな』


 チビ、お前も口を挟むな。……というか、なんでそんな魔族の肩を持つの?


『何を隠そう、わたしは魔王だからな!』


『隠せ隠せ! 話がややこしくなるだろ!』


 え、ホントウなの……? まあ、今はいいや。ラズリのターンだし。


『いいのかよ……結構な爆弾発言だぞ』


 まあとにかく、アリスのことはよく知らなかった。話のネタにしても、数字稼げなさそうだったし眼中になかった。

 だけど、アリスが人間を失踪させてるって話を聞いて。それが、最初に話した悩みがあるっていってた人で……。


『失踪……?』


 うん。

 それで思った。あ、これなら数字になるヤツだって。


『ファン聞いたら泣くぞそれ』


 世の中金だからね、ぐへへへへ。

 それで、アリスの情報を調べるようになったんだけど……そこで、ファンから面白い話を聞いた。

 ──悩みがあるって言ってた人はアリスに、救われたらしいって。


『救われた?』


 そう。あぁ、勇者である君からしたら、いい気はしない言葉かもね。

 実際、ラズリもそうラピ。ラズリだって、金のためにみんなの心に寄り添い、救いたいストリーマーだから。


『お前と一緒か!? いや、俺もモテたいって気持ちで勇者してるから同じ……なのか?』


 それで、さらに調べると……どうやらアリスは、いわゆる宗教的な手法で人間の心を掌握しているらしいの。

 タチが悪いのは、その信仰心は個人の思想からくるものではなく、魔法で強制的に──洗脳しているかもしれないということ。


『……魔法の力で、救済されたという気にさせている、ということか』


 そう。それは正直、ラズリも不愉快極まりないラピ。だって、誰を”推す”かというのは、自分で決めることだから。


『ま、いわゆる推し活ってのも、一種の信仰心からくるものではありそうだが……強制するのはいただけないな』


 ……勇者、なんか君が元居た世界もこっちと文化似てるラピね──まあとにかく、そういうこと。

 ラズリのファンを無理やり”推し変”させるのは、腹立たしい。


『推し変……つまり、ファンを奪われて恨んでるということか』


 そりゃそうでしょ? ……で、話を戻すけど。

 それで、ラズリは色々知ってたってわけ。ホント、いいネタ手に入ったラピ、ぐへへへへ!


『お前、金の話になると変な笑い方するのな』


 そこでさ、勇者……と、チビ。ラズリに協力しない?


『誰がチビだ。それに、わたし達──わたしがお前に協力してやるんだ』


『言い直すな。俺も含めろ。一応パートナーだろうが』


 いやいや、こんなおっきなネタ提供してあげてるのにどの口が言うラピ~? 本来なら、金一封くらい貰ってもいいくらいぐへへへへっ。


『気色の悪い笑い方。こんなのが人気とか、世も末』


 チビ、クソみてぇに口悪ぃラピね。


『威厳があると言う。というか口悪いのはお前』


 そんなこと言っていいラピか? ラズリは、まだ話してない情報あるラピよ~?


『意地汚いヤツ。よしお前、こんなヤツに頼るのはやめよう』


『いや待てリコ、ラズリに協力してもらうべきだろ』


『どうして。わたしのことをバカにするヤツなんかに』


『そんなことより情報のが大事だからだ』


『やっぱお前キライ。……けど、なおも早くアリスに接近するには、お前が頭を下げるしかないか』


『俺に全部なすりつけるな。……そういう訳でラズリ、こんな俺達だが、協力させてほしい』


 いいラピよ。それなら取引成立。今からラズリと君たちは、ビジネスパートナー。


『事実そうだとしても、ビジネスパートナーって口にされるとそんないい気分はしないな』


 じゃあ、早速情報を──と言いたいところだけど、今日はもう遅い。夜更かしは美容の敵だから、明日、起きたらラズリの部屋に来て。



 そして翌日。俺たちは、ラズリの部屋に集まった。


「昨日の配信でも言ったけど、ラズリはアリスの根城に突撃配信する予定。だから、この街を北上して、王都アウストラを目指そうと思ってるラピ」


 ラズリがそう、目的を話す。


「それはいいが、洗脳する魔法を使ってくるのだろう? 俺らも洗脳されてしまったら、どうしようもないだろう」


「そこは勇者なんだからどうとでもなるでしょ」


「しかし、エーテルの鍵が壊れて──いやそういえば、ラズリの変身をといたのか」


 なるほど。真っ二つになってはいるが、力は完全に失ってはいないということか。だがそれで、あのチェーンソーメイドより強いという四天王に通用することはなさそうだが……。


「だけど、わたしを元の姿に戻す魔力もエーテルの鍵にはない。役には立たないと思う」


 リコも同じように思ったようだ。


「ふーん。勇者って、案外弱いんだ」


「ストレートだな。だから、エーテルの鍵を修復したいんだ。その方法を知ってるかもしれないのが、ラマレーンという聖霊らしくてな。そのアリスの根城付近で行方不明になっているという話で……」


「ラマレーン──やっぱり」


 ラズリが口端を持ち上げる。この反応……ラマレーンを知ってるのか?


「そのラマレーンが、ラズリが言ってなかった情報ラピ。ほら、聖霊と勇者は密接な関係にあるっていうでしょ? そのネタで君たちを釣ろうとしたの」


「なるほどな」


「実はね、ラマレーンは──アリスに捕らえられているって噂がある」


「……何?」


「ラマレーンはどうやら、姿を消すちょっと前まで、王都に来てたらしい」


 そう言って、居住まいを正すラズリ。二の句を継ごうとしたとき、リコが口を挟んだ。


「そんなこと知ってる。なぜならアリスの元に導き、陥れたのはこのわたしだからな!」


 リコはドヤ顔だった。また話が面倒なことになりそうなので無視する。


「だけど聖霊が殺されたってなるなら、王都は大騒ぎになるでしょ?」


 それを察してくれたのかは分からないが、ラズリもリコを一瞥だけして話をつづけた。


「それはピンとこないな。俺はこの世界の文化に明るくない」


「わたしも。なんとなく騒ぎ立てそうだけど、ニンゲンがどうとか知ったこっちゃない」


 俺とリコは首をかしげる。ラマレーン──聖霊とやらが殺されて、どうなるかなど想像もつかない。こういっちゃアレだが、リコに騙されるレベルのヤツらしいからな。


「……チビはともかく、君、ホントウに勇者?」


 はぁ……とため息をつくラズリ。なるほど。俺たちは、ラズリにだいぶおんぶにだっこになりそうだ。


「とにかく、王都とかココで話題になってない時点で、ラマレーンが生きてる可能性は高い。ラズリは無理だけど、ラマレーンの魔力を感じ取れる人も王都には沢山いるだろうしね」


「へ~他者の魔力を感じ取れるもんなのか」


「……君が古くから伝わる勇者なのか、ホントのホントに疑問なんだけど」


「俺もそれは自覚している。……とにかく、ラマレーンが生きてる可能性があるのなら、早いとこアリスの根城に行くべきなのか」


 もっと情報が欲しいところだが……エーテルの鍵が直る可能性が潰れてしまっては、元も子もない。

 俺がラズリの目を見て頷くと、彼女も頷き返す。


「うん、おっけー。チビもそれでいい? ……イマイチ君の立ち位置は分かんないけど」


「え、全然聞いてなかった」


「飽きてるラピ!?」


「わたしは何でもいい。アリスに会えるのなら何でもね。そしてアリスに会って、こう言ってあげる。わたしに四天王の座を譲る──ってね」


「チビ、君が魔族ってのは冗談じゃないんだ──いや昨日魔王って言ってなかった? 四天王でいいラピ?」


「それはそれ」


「どれはどれラピ?」


 そう、話は一応纏まり……? アリスの根城に向かうために、俺たちは、まずは王都アウストラを目指すことになった。今日中に到着することを目標にした。


(……ところで、異世界とか過去とかに行く映画とかよくあるが──主人公順応早すぎじゃないか?)


 最初からよく分からなかったが、中流域に来て、俺の世間知らずは深まったような気がした……。


(とりあえず王都で5人くらいは可愛い彼女を作ろう)


 ただその目標だけは、見失わずに心に強く抱いていた。

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