──ラズリが聞いたのは、こんな感じラピ。
ラズリのファンの一人が、なんか、悩みがあったみたくて……それを、もう一人のファンが相談されていて──あぁ、その人たちは、同担拒否じゃないから、安心するラピ。
『何を安心するんだよ。ってか同担拒否って言葉もあるのかよ。この世界の文明進みすぎな』。
ワケ分からないこと言って、口を挟むなラピ。
それで、その、アリスのことを聞いたらしい。
まあ、アリスは有名で、ラズリも強い魔族ってことは知ってたけど……本当に、それだけ。戦う力のない人からしたら魔族なんて、災害みたいなもんだし、あんま興味ないからね。
『ふんっ。魔族の力は、人間と歴然の差だからな』
チビ、お前も口を挟むな。……というか、なんでそんな魔族の肩を持つの?
『何を隠そう、わたしは魔王だからな!』
『隠せ隠せ! 話がややこしくなるだろ!』
え、ホントウなの……? まあ、今はいいや。ラズリのターンだし。
『いいのかよ……結構な爆弾発言だぞ』
まあとにかく、アリスのことはよく知らなかった。話のネタにしても、数字稼げなさそうだったし眼中になかった。
だけど、アリスが人間を失踪させてるって話を聞いて。それが、最初に話した悩みがあるっていってた人で……。
『失踪……?』
うん。
それで思った。あ、これなら数字になるヤツだって。
『ファン聞いたら泣くぞそれ』
世の中金だからね、ぐへへへへ。
それで、アリスの情報を調べるようになったんだけど……そこで、ファンから面白い話を聞いた。
──悩みがあるって言ってた人はアリスに、救われたらしいって。
『救われた?』
そう。あぁ、勇者である君からしたら、いい気はしない言葉かもね。
実際、ラズリもそうラピ。ラズリだって、金のためにみんなの心に寄り添い、救いたいストリーマーだから。
『お前と一緒か!? いや、俺もモテたいって気持ちで勇者してるから同じ……なのか?』
それで、さらに調べると……どうやらアリスは、いわゆる宗教的な手法で人間の心を掌握しているらしいの。
タチが悪いのは、その信仰心は個人の思想からくるものではなく、魔法で強制的に──洗脳しているかもしれないということ。
『……魔法の力で、救済されたという気にさせている、ということか』
そう。それは正直、ラズリも不愉快極まりないラピ。だって、誰を”推す”かというのは、自分で決めることだから。
『ま、いわゆる推し活ってのも、一種の信仰心からくるものではありそうだが……強制するのはいただけないな』
……勇者、なんか君が元居た世界もこっちと文化似てるラピね──まあとにかく、そういうこと。
ラズリのファンを無理やり”推し変”させるのは、腹立たしい。
『推し変……つまり、ファンを奪われて恨んでるということか』
そりゃそうでしょ? ……で、話を戻すけど。
それで、ラズリは色々知ってたってわけ。ホント、いいネタ手に入ったラピ、ぐへへへへ!
『お前、金の話になると変な笑い方するのな』
そこでさ、勇者……と、チビ。ラズリに協力しない?
『誰がチビだ。それに、わたし達──わたしがお前に協力してやるんだ』
『言い直すな。俺も含めろ。一応パートナーだろうが』
いやいや、こんなおっきなネタ提供してあげてるのにどの口が言うラピ~? 本来なら、金一封くらい貰ってもいいくらいぐへへへへっ。
『気色の悪い笑い方。こんなのが人気とか、世も末』
チビ、クソみてぇに口悪ぃラピね。
『威厳があると言う。というか口悪いのはお前』
そんなこと言っていいラピか? ラズリは、まだ話してない情報あるラピよ~?
『意地汚いヤツ。よしお前、こんなヤツに頼るのはやめよう』
『いや待てリコ、ラズリに協力してもらうべきだろ』
『どうして。わたしのことをバカにするヤツなんかに』
『そんなことより情報のが大事だからだ』
『やっぱお前キライ。……けど、なおも早くアリスに接近するには、お前が頭を下げるしかないか』
『俺に全部なすりつけるな。……そういう訳でラズリ、こんな俺達だが、協力させてほしい』
いいラピよ。それなら取引成立。今からラズリと君たちは、ビジネスパートナー。
『事実そうだとしても、ビジネスパートナーって口にされるとそんないい気分はしないな』
じゃあ、早速情報を──と言いたいところだけど、今日はもう遅い。夜更かしは美容の敵だから、明日、起きたらラズリの部屋に来て。
*
そして翌日。俺たちは、ラズリの部屋に集まった。
「昨日の配信でも言ったけど、ラズリはアリスの根城に突撃配信する予定。だから、この街を北上して、王都アウストラを目指そうと思ってるラピ」
ラズリがそう、目的を話す。
「それはいいが、洗脳する魔法を使ってくるのだろう? 俺らも洗脳されてしまったら、どうしようもないだろう」
「そこは勇者なんだからどうとでもなるでしょ」
「しかし、エーテルの鍵が壊れて──いやそういえば、ラズリの変身をといたのか」
なるほど。真っ二つになってはいるが、力は完全に失ってはいないということか。だがそれで、あのチェーンソーメイドより強いという四天王に通用することはなさそうだが……。
「だけど、わたしを元の姿に戻す魔力もエーテルの鍵にはない。役には立たないと思う」
リコも同じように思ったようだ。
「ふーん。勇者って、案外弱いんだ」
「ストレートだな。だから、エーテルの鍵を修復したいんだ。その方法を知ってるかもしれないのが、ラマレーンという聖霊らしくてな。そのアリスの根城付近で行方不明になっているという話で……」
「ラマレーン──やっぱり」
ラズリが口端を持ち上げる。この反応……ラマレーンを知ってるのか?
「そのラマレーンが、ラズリが言ってなかった情報ラピ。ほら、聖霊と勇者は密接な関係にあるっていうでしょ? そのネタで君たちを釣ろうとしたの」
「なるほどな」
「実はね、ラマレーンは──アリスに捕らえられているって噂がある」
「……何?」
「ラマレーンはどうやら、姿を消すちょっと前まで、王都に来てたらしい」
そう言って、居住まいを正すラズリ。二の句を継ごうとしたとき、リコが口を挟んだ。
「そんなこと知ってる。なぜならアリスの元に導き、陥れたのはこのわたしだからな!」
リコはドヤ顔だった。また話が面倒なことになりそうなので無視する。
「だけど聖霊が殺されたってなるなら、王都は大騒ぎになるでしょ?」
それを察してくれたのかは分からないが、ラズリもリコを一瞥だけして話をつづけた。
「それはピンとこないな。俺はこの世界の文化に明るくない」
「わたしも。なんとなく騒ぎ立てそうだけど、ニンゲンがどうとか知ったこっちゃない」
俺とリコは首をかしげる。ラマレーン──聖霊とやらが殺されて、どうなるかなど想像もつかない。こういっちゃアレだが、リコに騙されるレベルのヤツらしいからな。
「……チビはともかく、君、ホントウに勇者?」
はぁ……とため息をつくラズリ。なるほど。俺たちは、ラズリにだいぶおんぶにだっこになりそうだ。
「とにかく、王都とかココで話題になってない時点で、ラマレーンが生きてる可能性は高い。ラズリは無理だけど、ラマレーンの魔力を感じ取れる人も王都には沢山いるだろうしね」
「へ~他者の魔力を感じ取れるもんなのか」
「……君が古くから伝わる勇者なのか、ホントのホントに疑問なんだけど」
「俺もそれは自覚している。……とにかく、ラマレーンが生きてる可能性があるのなら、早いとこアリスの根城に行くべきなのか」
もっと情報が欲しいところだが……エーテルの鍵が直る可能性が潰れてしまっては、元も子もない。
俺がラズリの目を見て頷くと、彼女も頷き返す。
「うん、おっけー。チビもそれでいい? ……イマイチ君の立ち位置は分かんないけど」
「え、全然聞いてなかった」
「飽きてるラピ!?」
「わたしは何でもいい。アリスに会えるのなら何でもね。そしてアリスに会って、こう言ってあげる。わたしに四天王の座を譲る──ってね」
「チビ、君が魔族ってのは冗談じゃないんだ──いや昨日魔王って言ってなかった? 四天王でいいラピ?」
「それはそれ」
「どれはどれラピ?」
そう、話は一応纏まり……? アリスの根城に向かうために、俺たちは、まずは王都アウストラを目指すことになった。今日中に到着することを目標にした。
(……ところで、異世界とか過去とかに行く映画とかよくあるが──主人公順応早すぎじゃないか?)
最初からよく分からなかったが、中流域に来て、俺の世間知らずは深まったような気がした……。
(とりあえず王都で5人くらいは可愛い彼女を作ろう)
ただその目標だけは、見失わずに心に強く抱いていた。