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 冬。

 五雲国ごうんこく南方では、雪は滅多に降りはしない。

 しかし今年の冬は殊更に寒い日が続いていた。


 旱魃はまだ続いている。

 乾いた風は肌を切り裂くように冷たい。



 減税を理由に革命軍を去った民も多かったが、米の不作で舞い戻って来た者もまた、多かった。

 今年は前年にも増して、稲が貧弱であった。

 充分に実らないどころか空穂に近く、軽く頼りない稲穂ばかりで。


 税を減じられたとしても、腹を満たす程の米は無い。

 結局、安穏と暮らせる場所など、彼らには無いのだった。



 やはり苔星河たいせいがを中心に、新たな国を興すしかない。

 そう思った者が数多く。

 しかし、飢えと寒さには耐えられず。


 革命軍とは名ばかりの、行き場のない者たちの寄せ集め。

 脆い群衆となっていた。



 そんな折、革命軍の中心人物が次々と寝返り、または暗殺される事件が起こった。

 朝廷の放った密偵によるものである。


 寝返れば処刑を免れる。

 また今を逃せば二度とその機会は無いと、家族の罪は問わないと。


 そう囁かれ、揺らがぬものが居るだろうか。

 彼らは農民。

 戦うために訓練された兵士では無いのだから。



 そうして、脱落者が続出する。

 頼りとしていた者の裏切りは、戦意を喪失させるに十分すぎるものだった。


 今寝返れば、命は助かる。

 家族も見逃される。


 ならばこの機を逃す訳には行かないと。


 櫛の歯がぽろぽろと欠けていくように。

 革命軍は崩壊していった。



 一方の禁軍は勢いを増していく。

 五雲国全体が不作とはいえ、革命軍と違い兵站へいたんがしっかりとしている分、士気が高い。



 だが、予想しえない事態も起こった。

 虐殺が起こったのだ。


 元は混乱によるものだった。

 戦場から逃げる革命軍の兵と、避難をしていた成州の民とが入り乱れ、混沌とした状況に陥った群衆に、都護府軍が誤って斬り込んだのだ。


 前に禁軍。後ろに都護府軍。

 進むも退くもできはしなかった。


 混乱は拡大し、被害は増大。

 その場は見るに堪えない惨状となった。



 戦場の土は血を吸い、赤黒い泥濘ぬかるみと化した。

 小川は血に染まり、どす黒く流れる。


 至る所に折り重なる無数の屍。

 血と肉の腐敗する臭いが風に乗り漂ってくる。


 飢えた獣たちが夜な夜な徘徊し、戦死者を貪る。



 耐えられる者は少なかった。




 ついに革命軍は壊滅。

 春を目前に、残党が成州各地へと散った。




 そして春を待ち、残党狩りが行われることとなる。


 苔星河を生かして捕えよ。

 それこそが最大の目的である。



 都護府軍、禁軍ともに容赦は無かった。


 賞金や恩赦を餌に、潜伏する者を密告するのはかつての仲間。

 山野に潜む者たちが次々と発見され、狩られる。


 街の門前には首級くびが並び、晒される。




 苔星河は遂に捕えられ、王都康安こうあんへと移送された。



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