ひとつふたつと月日は巡る。
目まぐるしく、あっという間に過ぎ去った三年であった。
「
「そなたは覚えが良いと、教師たちからも評判は聞いておる」
「畏れ多いことに存じます」
すっかり虹霓国に馴染んだ鳳梨。
身に纏うのは五雲国の衣ではなく、虹霓国の白装束。
神職の装いだ。
「
「寂しくなるな」
榠樝は本心からそう呟いた。
この三年で、二人は厚く友情を育んだ。
それは両国の確かな架け橋となるだろう。
「わたくしも寂しゅうございます。ですが、そうも申してはおられません。未だ五雲国の大地は揺れ動き、嘆きも悲しみも根強く残っておりますれば、わたくしは王族として、それを鎮めなければなりません」
何年掛かることだろう。
十年、二十年。
もしかしたら次の代にまで及ぶかもしれない鎮魂の祈り。
「力添えできることがあれば、何でも申されよ」
「ありがとう存じます」
鳳梨は目を細めた。
榠樝と御簾越しでなく対面するようになって、一年と半分。
長いような短いような。
過ぎてみれば瞬き程の間しか経っていない気がするのに。
「兄が」
「うん」
「兄が主上をお慕いする理由が、わかった気が致しました」
渋面になる榠樝に、鳳梨はくすくすと笑った。
そう。
わかってしまった。
榠樝がどれだけ素晴らしい為政者なのか。
どれだけ皆に慕われているのか。
それが、どれほどの努力によって成されているものなのか。
榠樝が国の為に、どれほど心を砕いているのか。
虹霓国のことだけでなく、五雲国のことまでをも。
榠樝が五雲国の王后となってくれたなら、これほど心強いことはないだろう。
けれど。
鳳梨は首を振る。
そう。
わかってしまったから。
「主上は、虹霓国の女王であらせられます。五雲国へは、来て頂けませんね」
拗ねたような物言いだけれど。
静かな諦めと悲しみの混じった声音。
榠樝は誤魔化さずに微笑んだ。
「すまぬな。私にも譲れぬものがあるのだ」
五雲国の留学生たちを送る宴は盛大に執り行われた。
そして。
今日、一行は王都
鳳梨は榠樝に最後の挨拶をし、軽やかに去って行った。
また参ります、と晴れやかな笑顔を見せて。
「
関白、蘇芳深雪は少しだけ寂しげな榠樝を見、
榠樝は気付いて檜扇で顔を隠した。
「これからが本番とも言える。鳳梨どのが居た間は五雲国の動きは静かだったが」
「人質のようなものですからな」
要らぬ混ぜっ返しに、榠樝は鼻の頭に皺を寄せた。
「意地の悪いことだ、関白」
「畏れ入ります」
「誉めてないぞ」
「
こほん、と榠樝はひとつ咳払いをする。
「これから五雲国の動きは活発化するだろう。鳳梨どのに全国行脚し鎮魂慰撫を執り行うよう助言はしたが、秋霜が、いや、五雲国の朝廷が、か。素直に聞いてくれるかはわからぬ」
「問題は無いかと存じます」
「随分楽観的だな。意外だ」
深雪は静かに唇の端を引き上げた。
「お二人はよき友情を育めたかと。鳳梨どのが主上を裏切る真似は致しますまい」
「これまた意外だ。鳳梨どのがそう思ってくれていたとて、周りが許すかはわかるまいに」
深雪は目を細め、唇の端を引き上げる。
「主上は、一段と
「誉め言葉と受け取って置こう」
ともかく、と深雪は遠くを見る目をした。
「ひとまずは安堵しても宜しゅうございましょう。