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第53話

「さっさと説明するべきです。なにも知らない子をからかうなんて、そんなんだからいつまでもちんちくりんなんですよ!」


 声を荒げながら、その人物はさっきまでアサリナが立っていたアオの隣までやって来た。


 アサリナと同じく黒いローブに黒いとんがり帽子。しかしよく見るとアサリナとは違い、ローブととんがり帽子に金色の星型のブローチが付いている。


 それは、白くふわふわした髪を持つ少女だった。背丈はアオよりも少し低く、アサリナよりも高い。少し垂れた目は、今は不機嫌そうに細められ、鮮やかな緑色の瞳で蹴り飛ばした扉を見ている。


 新たな登場人物に、いよいよ逃げ出そうかな、なんて考えていたアオだったが、新しく現れた少女に腕を捕まれていて逃げることができなかった。


 アサリナとルドベキアにこうして怒っているということは、少なくともあの二人よりかまともなのかな、とアオは期待を込めておとなしくすることにした。


「魔力コントロールもできない子を見つけて保護をしたと聞いてもしやと思いましたが、どうしてあなた達はそんななにも知らない子をからかっているんですか‼」

「いや待てラグルス、俺は場を和ませよう思ってだな。ほら、この世界の話ってややこしいだろ?」

「あたしも同じく‼」

「それなら休憩を挟むなり質問をしてもらうなり他にやり方があるでしょう!」


 今隣にいる少女はラグルスというらしい。


 そのラグルスが二人にお説教をしている間、アオはとりあえず仙人に連絡することにした。


(前途多難……かもしれない)

『なにに巻き込まれたんじゃ?』

(さっき服が欲しいから、仙術で風を操って人を運ぼうとしたんだけどね。ほら、お礼に服貰えるかもしれないから)

『確かに良い案だとおもうが、それは碧以外の場合じゃな』

(だからぶっつけ本番は危ないと思って、一人で試してみたんだよ? 結果はぶちかまして終わりだったけど)

『冷や冷やさせるのう……』

(草刈りして終わりだったよ。そしたらさ、なんやかんやで魔法使いを名乗る人たちが来て、わたしのまりょくがどうたらって話になってるんだよね。そのついでに今世界でのことを、わたしの記憶よりも詳しく教えてくれた。かなりこの世界ややこしそう。早く翠に会いたいのに……)

『まりょく……? ワシにもよう分からんの』

(仙人も分からないかあ、じゃあまた連絡する)


 アオが仙人と話し終えると同時に、ラグルスがアオの方を向いて言った。


「あなたからも言ってやってください!」

「なにがあったの……?」


 気がつけば、アサリナとルドベキアが目の前で正座していた。仙人との会話に集中していたため、なにがどうなってこうなったのか分からない。


「あたしらにお説教するんだったらさー、アオに説明の続きをしたほーがいいと思うんだよね」

「じゃあさっさと説明すればいいじゃないですか」

「あ、はい。でも悪いのはルドベキアだし、説明するのもルドベキアだからね」

「ルドベキア」

「……分かっている」


 どうやら真面目に話してくれるらしい。なにがあったのか全く分からないが、話してくれるならそれでいい。


「俺達が悪魔憑き、という話だったな。悪魔憑きにはな、魔力を持つ者が多いんだ。恐らく、魔力が心身に影響を与えるんだろうな。そして、その魔力が生贄に求められている物だ」

「本来、悪魔憑きとなった者達は親の手によってに引き渡されます。けれど、稀に我が子を守ろうと、悪魔憑きとなった子供を捨てる親がいるんです」

「それ、子供は暴れるんじゃないの?」


 思春期の子供を捨てるとなると、間違い無く暴れてしまうはずだ。そんな簡単に捨てることなんてできるのだろうか。


「勿論暴れますね。多くの子供はその後の消息は不明ですが」

「……なるほど」


 アオは今の話で気づいたことがある。自らが所属していた盗賊団、その結成の経緯を。


 盗賊団は全員、親に捨てられた子供達だ。当時は家族に捨てられた哀れな子供――としか思っていなかったが、そういった経緯があるということは初めて知った。


 ここで一つ、悪魔憑きとアオ達捨てられた子供が繋がった。


「その中央っていうのはなに?」

「この大陸の中心には大陸で一番大きな都市がある。都市の名前はタステ。この大陸を流れる大きな河川が流れ着く先になっている。タステは二つの区画に分かれていてな、城塞都市の周りを大きな街が囲っている。その城塞都市側が俺達の言う中央だ」


 その特徴を聞いて、アオは昨日の夜、空高く浮かび上がって見たあの都市を思い出す。あの時見たのがタステということだろう。その中で真ん中の城がある区画を中央と分けて言っているということはなにかややこしいことがあるのだろう。それがスイの居場所と関わりがなければいいのだが。


「山を越えた先にある都市のことだね」

「知っているのか?」

「見たことあるからね」

「そうか」


 ここで話は一区切り。再びアオのお腹が鳴る。そういえばお腹が空いているのだ。


 アサリナに会わせたい人がいると言われてここへ来て、話が長引いて今に至る。


「まだお昼ではないですがご飯にしましょうか。どうせアサリナとルドベキアは朝食も食べていないでしょうし」

「そーだね。あたしもお腹へったし」

「そうだな。俺も腹が減った」


 ということで、話の続きは食事の後にすることになった。

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