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第54話

 後から行くと言ったルドベキアを置いて、ラグルスに続いてアオとアサリナは食事を取りに行く。


 再び長い螺旋階段に出てきた三人は階段を下り始める。


「ここって何人住んでるの?」


 魔法使いが住むというこの塔は街で一番の大きさを誇っている。ということは、かなりの人数の魔法使いが住んでいるのだろう。


「五人です」

「え、少な」

「アオを入れて六人だね。悪魔憑きなんて、そんなほいほい見つからないからねー」


 ほいほい見つからないと言っているが、アオが知っているだけで二十七人はいる。


「わたしも魔法使いなんだ」

「とーぜんじゃん。魔法使ってたし。身なりからして悪魔憑きだから捨てられたって感じだし」


 アオが使ったのは魔法ではなく仙術なのだが、仙人が言っていた通り、仙術に類するものがあるらしい。この世界ではそれを魔法という呼んでいるのだろう。


「確かに。そうだ、わたし服ほしいんだけど」


 アオがこうなったのは、服が欲しいからだ。


「それはご飯を食べた後です」

「やった。貰えるんだ」

「当然です、あなたには魔力のコントロールを覚えていただかなければなりませんから」


 そんな話をしていたところで、ラグルスが足を止める。ローブから三十センチぐらいの棒を取り出すと、先程アサリナがやったように壁の前で振る。またしても日が差す廊下が現れる。構造的には他の部屋も同じなのだろうか。


 進んだ先には両開きの扉があり、それを開くと、暖かな暖色の光が三人を出迎えた。


 この部屋はなにも無かったさっきの部屋とは違い、飲食ができるように椅子やテーブルなどが置いてあり、落ち着いて過ごせるような部屋になっている。広めのリビングといった様子だ。


「ご飯はここで食べられます。食事は自由に、あるものを使って作っています。買い出しは当番制、二日に一回の頻度ですね」


 といっても、キッチンのようなものは見当たらない。食事を摂ると言ってもどう調理をするのだろうか。


 それに、食材が置いてある場所が見当たらない。


「食材が無いよね」

「ありますよ」


 ラグルスが棒を振ると、壁の木いくつか剝がれた――ように見えたが、壁面収納になっているらしく、食材の入った棚が現れた。


「保管庫になっているんです」


 保管されているといっても、入っているのは――。


「イモばーっかりじゃーん」


 茶色いイモが棚に入っている。


「いつもイモばっかり?」

「そういう訳ではないんですけど……買い出し係の好みですね」


 今回買い出しに言った人物がイモ好きだっただけらしい。


 二人はげんなりしているが、空腹のアオにとっては食事にありつけるということだけありがたいことだ。


 料理はラグルスがしてくれるとのことで、アオとアサリナは大人しく席に着いた。


 調理器具が無いのにどうやって調理するのかと見てみると、ラグルスの持つ棒から火が出たり水が出たり、なんかよくわからない間に盛り付けられていた皿はどこから出したのかと思ったが、恐らく壁面収納からだろう。


「どうぞ」


 そう言われて目の前に置かれた料理を見て、アオは懐かしい気持ちになる。懐かしいと言ってもそれ程前ではないのだが、盗賊団にいる頃のアオもイモばかり食べていた。


「いただきまーす」

「いただきます」

「いただきます」


 皿に乗っているイモは、蒸し焼きになっており、ホクホクしていて美味しかった。味もイモの甘みがあり、なにもつけなくても美味しい。


「さすがですね。イモ好きなだけあっていいイモを買ってきています」


 イモは一つがこぶし大あり、それがそれぞれ三つと、間違い無くお腹が膨れる量だ。


 しばし無言の食事時間が過ぎ、再び会話が始まったのは、三人が食べ終えてからだ。


「食べたし、アオの服だね」

「そうですね。私の部屋へどうぞ」


 ルドベキアが来ていないようだが、まあ扱いを見れば放っていても大丈夫だろう。


 先程同じように、螺旋階段へ出る。今度はさっきまでと違い上へ向かう。


 途中、ローブととんがり帽子を身につけたルドベキアと会ったが、先に食べたと伝えて別れた。悲しそうだった。


 ラグルスの部屋も、他の二部屋と同じく、日が差す廊下を抜けた両開きの扉だった。


 部屋の中は、まるでクローゼットのようだった。といっても、全てローブだ。全体的に黒い部屋だ。


「あなたに合うサイズの服はこれなんてどうでしょう」


 そう言ってラグルスは、ローブではなく、その中に着る服や下着を渡してくれた。


「え、着替える?」

「当然です。サイズが合っているかどうか分からないじゃないですか」

「先にお風呂入りたい」


 渡された衣類はどれも綺麗なものだ。そうなれば、体を綺麗にしてから着たいというのは贅沢だろうか。


 アオだって今日出会った人の前ではこういったことは言わないのだが、なんか勝手に仲間にされているしで遠慮しなくてもいいかと思っていたのだ。


 ラグルスは眉を顰めると壁を指さす。よく見ればそこはローブでは隠れているだけで扉があるらしく、その先に浴室があるのだろう。


 ローブに隠れているだけで、この部屋には机やベッドなどのもある。


「ありがとう」


 早速アオが浴室だろう場所へ入る。中は洗面所になっているが、この世界では上下水道がないのだろうか。水が流れる場所はあっても蛇口のような水が出る場所は無い。おかしいと思いながらその先に続く扉を見つける。そこを開いたアオは固まる。


「……なにここ」


 そこは、人が一人しか入ることができない、本当に小さな石造りの部屋だった。そしてよく観察すると、床に排水口を見つけた。見たところシャワー室のような気がするが、その肝心のシャワーがないのだ。


 アオは一度外へ出てラグルスに聞く。


「水ってどこから出るの?」

「出せばいいんですよ?」

「どうやって?」

「魔法です」

「無理でしょ」

「え?」

「え?」

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