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第56話

 身につける物を一通り貰うと、アオは自身の部屋となる場所へ案内された。


 あとアオに必要な物は杖らしく、それの準備のため、少しの間待っていてほしいとのことだ。ついでに街へ出た時に自分の部屋に必要な物の確認でも済ませておくようにとも言われている。


「じゃーあ、また呼びに来るねー」


 アサリナが部屋を出ていくと、ようやくアオは一人になれた。


 間取りはラグルスの部屋と同じで、簡素なベッドと机があるのみだ。必要最低限の物があれば別になにも買わなくてもいいかと思いながらベッドに身を投げ出す。


「……なんか変な感じ」


 この世界のアオは、ベッドなんかで寝たことが無く、いつも硬い岩の上や、敷いていたとしてもそれは藁だったため、このようなベッドは柔らかく身体が痛みそうにない。しかし、今までの世界のベッドと比べると、粗悪で比較するのも無駄だ。


 身体は快適で問題無いが、気持ち的にはあまり良くない。


「布団は買おう」


 金は持っていないがなんとかなるだろう。


 部屋の中は静かで、一人でいると妙に落ち着かない。しかし、集中するにはうってつけの場所だ。


 アオはここで仙人に連絡を取り、今持っている情報を伝えて整理しようと決める。


(聞こえる?)

『おお碧か。どうじゃ、上手くいっておるか?』

(今のところはね)

『翠のことはなにか分かったか?』

(いやまだ。早く探しに行きたいんだけど、すぐには動けそうにないかな。とりあえずこっちの世界で分かったことの整理に付き合ってほしい)


 そう言ってアオは今現在持っている情報を仙人に伝え、情報の整理を始める。


『なるほどのう……魔法と仙術は似ているが全く違うものということじゃな』


 当初、それら二つは殆ど同じものだと思っていた。しかし、さっきのシャワー室での出来事で、それは違うものだということが分かった。


 細かく見ればどうなるか分からないが、さっきの例で言うと、魔法はなにも無いところから、魔力を使い水を生み出す。そして仙術は、既にある水を操る。


 仙術に関しては魔力のようなものは必要無い。


 しかし、アオには魔力があるらしい。


(わたしの魔力が――って話もよく分からないし。なんか魔法って魔力使うらしいし)

『その差は気になるのう。アオの使う仙術は魔法と似ているが、その魔力というものを使って使用している訳でもないじゃろうしのう』

(このことって正直に話した方がいいのかな?)


 一応悪魔憑きに分類されているアオでも、同じく悪魔憑きのアサリナ達になら話しても大丈夫な気がする。


『余計な混乱を招くかもしれんが……』

(いやあ……なんか、いけそうな気がする。別の世界から来たって言っても大丈夫な気がする……)


 ルドベキアが分かりやすい、あの子供っぽさ。アオは最初の世界で、それの心当たりがある。


『そこまで信用を置ける仲間に出会えたんじゃな』

(どうだろう……)


 仙人の言葉にアオは微苦笑を浮かべる。


 確かに、良くも悪くも、あの三人は嘘をついているようには見えない。ただ、まだこの世界のことは分かっていないし、アオの目的はスイを見つけることなのだ。


(今までの世界から、一気に広くなった気がする)

『そうなのか?』

(うん……。最初は翠と二人だけ、まあ他にも人は出てきたけどね。そして次は海の中、地上の城、どれも限られた範囲。それで今回、一気に世界が広がった)

『ワシの時はそうではなかったんじゃが、なにか意味があるのかもしれんのう』

(翠の意志――みたいな感じの?)

『そうかもしれん。いい機会じゃ、その世界で仙術を使えるよう修行でもすればいいんじゃ』

(うーん……確かに……)


 翠の身体は仙人が見てくれている。その仙人と、この世界では連絡を取ることができる。地獄にある翠の魂の欠片も無事ということだ。


 それに、地獄に行けば、あの恐ろしい鬼と対峙する可能性もある。翠ならどうにでもなるだろうが、仙術をまともに使えない碧なら相手にならない。だからこの世界で修行するのもいいかもしれない。


(それもいいかもしれない。でも、失敗したら元も子もないからスイを探すのは急ぐけど)

『そうじゃな』


 ホッホッホと仙人が笑う。相談できる相手がいるということは安心できることだ。今までの世界と違って、スイと離れた状態でのスタートだ。アオ自身も気づかぬうちに負担がかかっていただろう。


 そして仙人と話をしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。


(あ、来たっぽい。また連絡する)

『気をつけるんじゃぞ』

「はーい」


 アオの返事に、ゆっくりとドアが開く。


 そこから覗いたのは白くふわふわした髪と、鮮やかな緑色の瞳を持つ少女であるラグルスだ。


「お待たせしてすみません、準備ができました」


 杖の準備ができたのだろう。素直にアオはラグルスについて行く。部屋から出て螺旋階段へと向かう。


「次は杖ですが、その前に」


 ラグルスはローブを広げてアオに差しだした。あの真っ黒のローブだ。しかし、よく見ると少し違っていた。黒一色だと思われたローブの袖には草冠を思わせるような深緑の刺繍が入っている。


「とある機能を付与してみました。着てみてください」

「えぇ……」


 渋々受け取ったアオ。アサリナが、ラグルスは色々と機能を付けてくれると言っていたし、どういった機能を付けたのだろうか。


 訝しげに袖を通してみると、さっき着た時との違いがすぐに分かった。


「わっ軽い」

「軽さに加え、防御機能も付与してます。剣や槍なんて効きませんし、大抵の攻撃魔法も効きません。圧倒的防御力です!」


 軽くて防御力も上がる。それなら貰わないなんて選択肢は無い。

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