「気に入ってくれたみたいで安心しました」
アオの表情を見て、ホッと息を吐くラグルス。
「これならいいかも。ありがとう」
「それと頭を守るための帽子です」
「え、あ、うん。ありがとう」
これで頭も安心だという風に頷くラグルス。帽子にも草冠のような刺繍が入っている。頭も心臓と同じく大事だ、守ることができる物があるのはありがたい。
こうして、アオも魔法使いの装いになった。魔法は使えないが。
満足気に頷いたラグルスが、螺旋階段を下り始める。どこになにがあるのか全く覚えていないアオだが、今度の場所は憶えられそうだと自信を持って言える場所までやって来た。
螺旋階段を下りきる。出口が無いのは奇妙だが、塔の底に辿り着いた。
ラグルスはローブから杖を取り出すと石造りの床を軽く二回叩く。
その直後の出来事にアオは驚きの声を上げた。
床が割れ、その先に続く階段が現れたのだ。そしてその先はまるで屋外のように明るく、驚いたアオの頭を混乱させる。
「どういうこと……⁉」
「魔法ですから」
「便利な言葉……」
魔法というのはなんでもありなのだろうか。
階段を下り始めるラグルスの後を、なんとか追いかける。階段を下りると、そこは全く別の世界が広がっていた。
螺旋階段はそこに浮かんでおり、途中で途切れている。そしてアオの身体が外の世界に出た時、割れたはずの床が巻き戻されたかのように元に戻る。
空中に浮く螺旋階段という、なんとも奇妙な状態になっているのだ。
「ここって?」
「杖を作るための木が生えている場所ですね」
「なんで……?」
ラグルスの言っていることがあまり理解できない。てっきり、杖も衣類と同じく沢山あるものだと思っていたのだ。
「それは当然、人によって合う物と合わない物がありますから」
「そうなんだ」
「さ、行きましょう。アサリナとルドベキアも待ってます。飛び降りましょう」
「え、嘘――うひぇあ⁉」
ラグルスに腕を掴まれ、そのまま共に階段から飛び降りることとなったアオ。
空中浮遊しようにもいきなりのことで集中できず、ただ情けない声を出しながら地面に向かう。
「さすがにこの高さから飛び降りて着地するのは無理がありますから――」
そう言ってラグルスは杖を振る。杖の先から光の粒子が広がる。すると、落下速度が落ち、ゆっくりと地面に向かいだした。
「これで問題ありません」
「心臓に悪い……」
今の出来事でぐったりと身体を曲げるアオ。なんとも情けない体勢で落ちている。
そのまま景色を楽しむ余裕も無く、地面に膝から着地したアオは手を地面に着く。
「死ぬかと思った」
「だいじょーぶ?」
「魔法を使わなくても、その靴を履いていたら三日程足が痺れる程度なんだがな」
どうやら、アオが見ていなかっただけで、着地地点には先に行っていたアサリナとルドベキアもいたらしい。
「ルドベキアは黙ってください」
「事実を言ったまでだろ」
そこからラグルスとルドベキアの言い合いが始まり、それをよそにアサリナがアオの背中をさすっていた。気分は悪くないため、すぐに立ち上がったアオは、改めて今自分がいる場所を確認する。
建物や街道のような人が存在している証拠が無く、かといって険しい自然ということでもない。穏やかな、どこまでも広がる自然だ。
少し先には花畑があり、反対には木々が重なりアーチを作っている場所があり、また違う方向には綺麗な湖が広がる。自然という括りで見れば一つだが、細かな要素はそれぞれで大きく異なる。ただ、そんな中でも共通しているのが、恐らく中心に相当する場所に周りとは明らかに雰囲気の違う木が生えていた。木の種類は低かったり高かったり、太かったり細かったり。細かな違いはあるが、どれもなぜか目を引き寄せられてしまう程の存在感を放っていた。
そんな木が生えている場所が遠くにも見え、アオが確認できるだけでも八つある。
「あの木が、杖の材料ってこと?」
アオの言葉に、ラグルスとルドベキアは言い合いを止める。
「そうだ。この場所には、ああいう杖の材料になる木がいくつも生えている」
「その中から、あなたがピンときた木を選んでください」
「ピンときた木……?」
「うんめーを感じるやつだよ」
「運命……ねえ……」
それなら簡単に見つけられそうだ――と考えたアオだったが、すぐに思い直す。悩む手間が無くなると思ったが、裏を返すと、その運命を感じる木を見つけるまで終われないということだ。そもそも魔法の使えないアオが運命を感じる木が存在するかどうかも怪しい。
(もういっそこのまま事情話そうかな。なんかいける気がするし)
「ホントにだいじょーぶ?」
考え込むアオに、まだ調子が悪いのかと思ったアサリナが声をかけてくれる。
「大丈夫だけど……まあいっか、探しに行こう」
事情を話すのはもう少し後でも大丈夫だろう。
そう考えたアオはとりあえず早く見つけてしまおうと準備するのだった。