「ここら付近は安全だから好きに動いてくれても構わんが、遠くに行くときは気をつけろ。魔物みたいな敵はいないが、遠くに行くほど険しくなる。まあ、俺は平気だがな」
「なーんてこと言ってるルドベキアは放っておいて、探しに行こーよ」
アオの背中を押しながらアサリナが言う。
「そうだね、じゃあ箒乗せて」
「おっまかせー!」
快く承諾したアサリナは、杖を箒に変える。アオもそれに乗せてもらいながら置いてかれるルドベキアと、一緒に行ってくれるのか分からないラグルスを見る。
「私は待ってますよ。アサリナがいれば大丈夫でしょうし」
ということなら二人で出発だ。
「じゃーあ行ってきまーす」
そう言って箒が飛び立ち――少し先の花畑の中心で止まる。振り返るとまだルドベキアとラグルスが見える。
二人共、既に自分の世界に入っているらしく、ラグルスはどこからか出した道具で刺繡をしており、ルドベキアはその様子を退屈そうに見ていた。
「近いなあ」
とりあえずそれだけを言ったアオ。すぐに花畑に生えている木の方を向く。
木と言っても、その背丈はアオの身長程しかない。
「どう?」
「特に」
「じゃー次!」
再び箒に乗ると、今度は反対の方向へ進む。ルドベキアとラグルスの上を通り抜けて向かうのは木々がアーチを作っている場所だ。
そのアーチの中を通ると、それは繋がっているらしく木々のトンネルになっていた。
風が葉を揺らす音を奏でながらそのトンネルを走り抜ける。すると出てきたのは木々のドームだ。
天井からは陽の光が差し込む。その差し込んだ先、ドームの中央には、周りの木とは違い、曲がることなく真っ直ぐに伸びた、幹の太い木が生えていた。
そして箒で中央に近づきながら、アオは気になっていたことを聞く。
「今更だけど、なんで太陽があるの?」
「あたしも知らなーい」
ここが別の世界になっている、誰かが創り出した世界、そのような答えを期待したのだが、返ってきたのはその言葉だ。
「えぇ……。本当に安全なの?」
「安全だよ。あたしもラグルスもこの世界で杖手に入れたし。まーあ、詳しいことはルドベキアが知ってるよー。だから安全」
アサリナが知らなくてもルドベキアが知っているのなら別に大丈夫かとアオも納得する。ルドベキアがここは安全だと言っていたからだ。
この場所の木もピンとこなかった。次はどこを目指すべきか。近くから潰していくか、それとも適当に動き回るか。運命を感じるということは、しらみつぶしに探しても意味が無いような気がする。
「次はさ、遠くの方に行ってくれない?」
「分かったー。方角はてきとーなとこ教えてねー」
さっき通ったトンネルを引き返す。トンネルから出ると、アオはアサリナにお願いして、上空まで上がってもらう。箒を握る手が手汗でじっとりしてきたが構わない。
見下ろすと、更に広がった世界が見える。遠くの方には火山があったり雪山、砂漠なども見える。ただ、そのどれも違うような気がする。
「運命感じるって遠くからでも感じるの?」
「えー? どうだったかなー……。一目見てこれだ! ってなったような気がするけど……」
「じゃあ近づいた方がいいのかな」
「どーせならそうしよっか。遠くに行かないとダメなのは変わらないし」
「じゃああっちの火山の方に向かって」
「りょーかい!」
言うが早いがアサリナは箒を火山方面に走らせる。その速度は凄まじく早く、すぐに火山が大きく見える距離までやってきた。その場所からは既に気温は高くなっている。それでも気にせず、アサリナの箒は火山を目指す。
「そもそもさ、火山地帯に木って生えてるの?」
「生えてたよー」
「見たことあるんだ……」
アオの心配は杞憂だったらしく、周りに一切植物の無い火山地帯でも杖になる木は生えているらしい。
ただ、生えている場所によれば人は近づけそうにないが。
「でもー、いきなり火山だなんて、アオって結構過激だよね」
「どこが」
そう言いながら、アオはなぜ火山を真っ先に選んだのかを考える。
ドクドクと脈打つマグマを見下ろしながら、頭の中に浮かんできた地獄の光景。マグマのような、血の池があるらしい地獄。そういった共通点から火山を選んでしまったのだろうか。
といってもこの火山地帯は、地獄とはまったくの無関係だ。
「なんとなく」
「運命ってそーいうものだからねー」
「そうだね」
と話している内に、高く聳え立つ火山までやってきた。
「この中に生えてるんだ」
アオは箒を上昇させ、てっぺんまでやってきた。
火山のてっぺんからは身を焦がす空気が上がってきている。顔を背けながらアオはなんとか火山の中を見る。
赤く輝くマグマの中、存在をアピールするかのように真っ青な木が生えていた。その木だけ周りの温度が低くなっているのだろうか、少しの草木が周囲に生えていた。
「どう?」
「違う」
「じゃー次!」
違うのならこの場に長いする必要は無い。箒は素早く火山地帯から抜け出す。