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第59話

 ここでアオは奇妙なことに気づいた。先程の火山地帯は暑かったが、汗は全くかいていないのだ。火山の真上に行った時、顔だけは少し焼けるように熱かったが、顔以外は全くだった。


 それをアサリナに聞いてみると、アサリナは得意げに答えてくれた。


「それはこの魔法使い一式のおかげだね。このローブと帽子と靴が覆っている範囲は、火山地帯でも暑くないし、雪山でも凍えることは無いんだー」

「顔は?」

「顔は覆ってないから暑いし寒い。でも多少はマシになるよー」

「凄い便利じゃん」

「見た目だけじゃなく、機能性も十分」


 もしラグルスが気を使ってくれなかったら、今ごろアオは丸焦げになっていたかもしれない。


 後でしっかりラグルスにお礼を言おうと決める。


「この機能性もラグルスのおかげ」

「なるほど」


 それなら尚更礼を言わなくてはならない。


 そうやって、火山地帯から抜け出した二人、水辺に近くでアサリナは近くに箒を止めた。


「ちょーっときゅーけいしよっか」


 急いでないと言えば噓になるが、焦ってもどうにもならない。素直に頷いたアオは箒から飛び降りて休憩を取ることにする。


 アサリナは箒の毛を無くして杖にして振った。


 光の粒子が杖の先から出て、その光の粒子が消えると、そこには一つの缶が現れた。


 どこでもないところから現れたそれに、アオは目を見開く。


 さっきのラグルスの使った落下抑制のように現象を引き起こすのかと思えば、こうして実態を出している。アオの知っている仙術にそういうものは全く覚えがない。


 知れば知るほど、仙術と魔法はかけ離れていることが分かる。


「どうなってるの……?」

「魔法」

「なんでもありなの? 魔法って」

「まー、なんでもありだね、魔法だし」


 なんでもありとはどこまでありなのか。ものによれば世界すら滅ぼしかねない力だ。


「明確に想像できれば大抵のことはできるよー」


 そう言って現れた缶を開く。中から出てきたのは黄金色をしたクッキーだった。


 ということは、今アサリナは缶に入った黄金色のクッキーをイメージしたと言いうことだろうか。


「これは作り置きを取り出しただけだけど」

「なんだ、魔法で生み出したのかと思った」


 魔法で生み出していないにしても、なにも無い場所から取り出したということも凄いが。


 仙術と魔法を同列に扱うことをやめたアオである。


「アオも使えるようになるよー」

「どうかなあ」


 二人はクッキーを食べながら話している。


「できるよー、魔力持ってるんだし」

「じゃあさ、なにか今のわたしでも使える魔法ってあるの? それか、杖が無いと使えないの?」


 今のところ、アサリナもラグルスも杖を使って魔法を使っている。水も杖から出したし、今回の光の粒子も杖の先から出している。


「いや、杖が無くても使えるよ。ただ杖があった方が便利で手軽。ルドベキアは使ってないけど」

「え、そうなの? じゃあなにか教えてよ」


 使えるのなら少し試してみたい。


 仙術と魔法は全く別物だが、その使い方は共通しているかもしれない。


「んー。じゃーあ、まずは風の魔法から」


 立ち上がったアサリナが杖を構える。


「まずは杖あり」


 すると杖の先から突風が噴き出す。風が音を立て水面を突破する。水しぶきが飛び上がる。


「次は杖無し」


 今度は杖離し、なにも持っていない手を前に突き出す。


 僅かにアサリナのとんがり帽子の鍔が持ち上がったかと思うとアサリナの突き出された手から先程と同じ突風が噴き出した。その風も、さっきと同じように水面を突破する。


「ちょーっとすんなりとはいかないけど、威力も消費魔力も変わらずに使えるんだよ。次はアオの番」

「なるほど」

「コツは体内にある魔力をしゅーちゅーさせて、手から突風を出すイメージだけ」


 仙術の風は、自然にある風を操るのだが、魔法の風は体内の魔力を使って外に向かって出すというものだ。これも仙術と魔法の違いだ。


 ただ、どちらも集中しなければならないという点は共通している。


 アオはアサリナに倣って手を突き出す。体内の魔力というが、その魔力の存在をアオは知らない。ただ、魔力は持っているためどうにかなるだろうと考える。こうやって魔法を行使してみることにより、自覚できるのかもしれない。


「身体の中になーんか力を感じるから、それを移動させて手にしゅーちゅーって感じ」


 そう言われてアオは目を閉じて集中する。周囲に吹いている自然の風は操ることはできそうだが、体内にある魔力はまだ感じない。


 いつまで経っても、動かないアオに、アサリナは腕を組む。


「魔力がダダ漏れてるせいかなー……? ねえアオ、身体の周囲になにか感じない?」

「身体の周り?」

「うん、アオの、魔力がダダ漏れだからかもしれない」


 アオは自分の身体の周りに意識を向ける。するとそこになにかあるような感覚を覚える。これがその魔力というのだろうか。


「あ、これかも」

「じゃーそれを集めて、思いっきり風を出す感じで!」


 感じたそれを少しずつ突き出した手に集める。手に力が集まっているのを感じるアオは、強くイメージをする。さっき見たような突風を。


「いけそう……!」

「じゃー合図に合わせて! 三、二、一、打って!」


 アサリナの声に合わせて、アオは手から突風を噴き出すイメージを強くする。


 するとそのイメージ通りに突風が噴き出し、水面を突破し水しぶきを上げる。


「わっ、出た!」

「おー! すごいじゃーん‼」


 集中力が切れ、その場に尻もちを着くアオで。そんなアオをアサリナは手を顎に当てて見ている。

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