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第61話

 それから、何度も木がある場所へやって来たが、そのどれもがアオにピンとくるものではなかった。


 なぜかこの世界では太陽の位置は変わらない。もしやここにいる間は時間が進まないのではないかと思い、それを聞いたら、この世界に昼と夜の区別はないだけで、元の世界の時間は過ぎるとのこと。


 この世界にやってきた時間から考え、今はもう夕方になっているだろうとアサリナが言っていた。


 戻る時に使う残り魔力量を考えて、もう次が今日のラストチャンスになるだろうと言われたアオ。


 最後にと選んでやってきたのは大地にぽっかりと開いた深く大きな穴だった。


 そのあまりの深さに、その下はまた別の世界が広がっているのではないかと考えてしまう。


 アサリナが箒をゆっくりと降下させていく。次第に日の光が届かなくなった頃、アサリナはローブから一輪の花を取り出す。


 その花に息を吹きかけると花びらは光を放つ。


「うわ、凄い」

「日花っていうだー」

「音だけは火花だね」

「いちおー火花っていう花もある」

「ややこしい」


 ともあれ、これで暗い中も問題なく進むことができる。


 底まで降下した二人は早速探索を始めることにする。幸いにも道は一つしかなく、その道を進めば木が生えている場所があるだろう。


 二人は足元に気をつけながらどんどん進んでいく。ルドベキアがこの世界は地形にさえ気をつければ問題無いと言っていたし、恐ろしい生き物に襲われる心配も無い。


「あ、あった……」


 容易く奥地までやって来ることができた。


 そこには一本の木が生えていた。高さはアオの身長より少し高い程度。伸びた枝には、碧色の実と翡翠色の実が宝石のように輝きを放って生っていた。見た瞬間直感した。


「これだ」

「おっ、うんめー感じちゃった?」

「うん。たぶん」


 アオはその木の幹に手を当てる。やけに手になじむその木をそっと撫でる。


「じゃ―持っていこーか」


 アサリナは早速杖を木に向ける。


 綺麗で切ってしまうのが勿体ないが、これをアオの杖にするのだ。


 アサリナもアオの感情が分かるのだろう。


「だいじょーぶだよ、後でその木の実を使えば」

「うん、分かった」


 アオは下がる。木を切るのはアサリナに任せることにした。だが、いったいどうやって木を切るのだろうか。


「こういう時は、水の魔法を応用して――」


 アサリナの杖から水が一瞬弧状に飛び出す。


「水で切っちゃえばおっけー」


 ズズっと倒れた木をアオは支える。切られた断面は綺麗だった。


「魔法って便利だね」


 木を抱えながら、アオが感心したように言う。この風も水も無い場所では、たとえ翠であっても同じように切ることは叶わないだろう。


 魔力が少ないし事情も話したため、杖はいらないと思っていたが、自然が限られる場所では、なにも無い所からものを生み出せる魔法は重宝するはずだ。


 アサリナが木の実を全て取り、切り株の上に乗せる。


 すると不思議なことに、全ての木の実が切り株に吸い込まれ、そこから新たに木が伸びたのだ。


「ほらね、だいじょーぶだって言ったでしょ」

「ほんとだ」


 もはや驚く程ではない。ただ元と同じ綺麗な姿に安心した。


 そうして二人は穴の底に戻ってきた。


 日花の光は弱まり、もうすぐで消えてしまうことが見て取れる。後は上昇するだけなのだが、ここでアサリナは申し訳なさそうに言う。


「アオとその木を乗せて上がると、帰る時に飛ぶ魔力が残ってないかもー」

「え、それって大丈夫なの?」

「アオを乗せなければなんとかギリギリ。休めば魔力は徐々に回復するんだけどねー」


 申し訳ないと頭を下げるアサリナに手を振りながら、アオは問題無いと言う。アオは空中浮遊ができるのだ。それを使えば、アサリナの箒に乗らなくてもこの穴から出ていくことができる。


「仙術って便利……」

「わたしは浮かび上がるので精一杯だけどね」

「それならだいじょーぶ! 帰る分の魔力はあるから!」


 そういうことで、木を抱えたアオは集中する。身体が浮かび上がる。それと同時に、箒に乗ったアサリナも上昇を始める。


 随分とゆっくりだが、アオは無事に穴の外に出ることができた。


 そのまま、アサリナに箒に乗せてもらい、二人はラグルスとルドベキアのいる場所へと戻るのだった。

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