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第62話

「おっ、戻ってきたか」

「おかえりなさい」

「ただいまー。はあー疲れたあー」

「ありがとう、無理させて」


 帰って来るや否や、その場に倒れ込むアサリナを、裁縫道具を直したラグルスが背負う。


「帰ってきていきなりだが、帰るぞ。この時間ならアイツも帰っているはずだしな」

「アイツ?」

「アイツだ。アイツの料理は美味いぞ」


 アイツって誰だよと思ったアオだが、美味い料理ということで早く帰ろうとする。


 アサリナが休養で魔力は回復すると言っていた。早く美味しいご飯を食べ、しっかりと休んでほしいところだ。


 アサリナを背負ったラグルスは杖を取り出すとそれを振る。杖の先から金の粒子が出てきて、それがアオ達の周辺から、上空の階段がある場所まで広がる。


「では上がります」


 そう言って杖を上に振ると、アオ達の身体は上空へ落ちていった。階段に直撃する直前、再びラグルスが杖を振ると、身体は止まり、浮かんでいる状態になっていた。


「なにしたの……?」

「重力操作です」

「なにそれ怖い」

「私の得意魔法です」


 そう言ってラグルスが杖を振ると、身体は重力によって動かされ、四人は階段の上に降り立つ。


「さあ、帰りましょう」


 杖で空中をノックすると、空が割れ塔へと続く階段が現れる。こうして、アオの杖探しは、特に波乱が起きることなく終わるのだった。



 四人が戻って来た頃には、太陽は沈んだ直後らしく、そしてやはり夕食時だったこともあり、食堂へ向かうことにした。


 螺旋階段から現れた道を通る時、なぜか昼間のように明るい廊下を通りながら、アオはこの魔法使いの塔で一番偉いルドベキアに聞くことにした。


「なんで明るいの? ていうかこの今のスペース、外からじゃ見えなかったんだけど」


 アオの質問に帽子を脱いでいたルドベキアは後ろに流している鮮黄色の髪を撫でて答える。


「魔法だ」

「ほんとなんでもありだね」

「ルドベキアは空間操作系統の魔法が得意なんですよ」

「ほんとになんでもありじゃん……‼」


 アオの驚いた表情にルドベキアはまんざらでもない表情を浮かべる。


「なに鼻の穴を膨らませてるんですか。気持ち悪い」


 最後にそう言い放ったラグルスが扉を開く。


「だからオレは言ってやったんだよ、お前らの思い通りにはならねえぞって」

「その結果迷惑を被るのは僕だってことを理解してほしいんだけどな」


 食道には先客がいたらしい。


 中にいたのは二人の男だった。一人は、昼に来た時には無かったキッチンで、フライパンを使ってなにかを焼いていた。


 もう一人は椅子に座ってずれた眼鏡を直していた。


「全員揃っていますね」


 その二人は、アオたちが入ってきたことに気づくと手を離す。


「紹介します。あの座っているただの眼鏡はニゲラ。そこで料理をしているのはしぶといで有名のクレピスです」


 ラグルスが顎をしゃくって二人を紹介してくれる。


 なんか扱いが雑いなあ、とアオは内心思いながら会釈する。


 ニゲラは青い髪を持つ黒目の線が細い青年で、クレピスはぼさっとした桃色の髪、淡いピンクの瞳をした人懐っこそうな少年だった。


 二人はすでに話を聞いていたのか、特に驚いた様子もなくアオを受け入れてくれた。まるで以前から共に過ごしていたかのような対応だ。


「先に飯だな」


 受け入れてくれるのならこちらも遠慮しなくてもいいかと席に着こうとする。


「全員揃ってなんて久しぶりだよな!」


 食事を作ってくれているクレピスが嬉しそうに言う。


 さっき言っていた料理が上手いアイツとは、クレピスのことなのだろう。


「もうちょっとでできるから待っててくれよな!」


 そう言いながらクレピスはフライパンを動かす。よく見ると、なにも無いところから火が出て、それで熱しているようだ。


 ルドベキアが椅子を出し、六人座れるようにする。そのうちの一つに、ラグルスは未だダウンしているアサリナを座らせる。


「なんだ、魔力切れか」


 そそくさと一番端の席に移動したニゲラが鼻を鳴らす。


「心配しているのなら素直に心配すればいいんじゃないんですか?」


 そんなニゲラに冷たく言い放ったラグルスは、ニゲラの隣の席に腰を下ろす。すると、ニゲラは限界までラグルスから離れる。


 アオはその様子をなにか察した様子で見ながら、一応関りのあるアサリナの隣に座る。


 そのアオの隣、ニゲラの正面にルドベキアも座る。


 必然的にアサリナの前にはクレピスが座る予定になる。


 そうこうしているうちに料理ができたらしく、ルドベキアが用意したであろう、いつの間にか目の前に出て来ていた食器の上にクレピスが盛り付けてくれる。


「待たせたな」


 作った料理はイモ料理だ。しかし、香辛料が効いており、また割れたイモから湯気が昇る。その香りがアオの腹の虫を刺激する。


「ああ……いいにおーい……」


 テーブルにぐったりとしているアサリナも、食欲をそそる香りに満足そうな笑みを浮かべる。


 全員に盛り付け、いよいよ食事の時間になる。


 いただきます――そうやって食事が始まる。


「さすがクレピス。ただのイモなのにここまで美味しいものを作るとは」

「ニゲラの目が良いからだよ。美味いイモを使えば美味いもんを作れる」


 朝言っていたイモ好きはニゲラのことらしい。クレピスに褒められ、ニゲラは満更でもなさそうな様子。


 アサリナは最初の一口だけクレピスに食べさせてもらい、それ以降は回復したのだろう。自分で食べていた。


「どうだ、口に合うか?」


 アオはクレピスにそう聞かれたため、素直に美味しいと答える。誇張抜きで美味しかったのだ。このイモは恐らくジャガイモに相当する物だろう。そのイモの美味しさを存分に引き立てる調理法だしなにより、そのイモ自体もやはり美味しいのだ。


 そりゃよかったと、クレピスが嬉しそうに微笑む。


 そうして食事がひと段落終えると、ルドベキアがおもむろに口を開いた。


「クレピス。この後、アオの杖を作ってやってほしい」

「いいけど、結構急いでんの?」

「早い方がいいだろう」

「ふーん、まあいいや。了解」


 さっきルドベキアに預けていた素材をアオは受け取る。


 この後、クレピスに加工をしてもらい杖の形にするらしい。疲れていれば後日でも大丈夫だと言ってもらったが、アオはできるだけ早くスイを探しに行きたいため今日でも大丈夫だと答えた。


 夕食の時間は終わり、片付けはラグルスとニゲラがやるということになり、アオは回復したアサリナと共にクレピスに杖を作ってもらうことにするのだった。

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