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第63話

「もう元気になったの?」

「全快じゃないけどねー」


 さっきまでぐったりしていたとは思えない軽快な動きのアサリナ。


「アサリナが魔力切れになるなんて、結構長い間探し回ってたんだな」


 前を歩くクレピスが言う。


「半日ぐらい? まー箒に二人乗ればねー」

「魔力量多いの?」

「アサリナの魔力はかなりの多いぜ。まあ、一番多いルドベキアには敵わないけどな」

「それを抜きにしたら一番多いよー」

「へえ」

「ちなみにアオは一番少ない」

「だと思った」

「なんだ、てっきり魔力がダダ漏れだから、多いのかと思ってた」


 振り向いたクレピスの目が僅かに開かれる。


(イチゴミルクみたいな瞳の色だな)


 そんなことを考えながら肩をすくめる。


「まーあ、アオはまだなーんにも知らないから。早く行こーよ」


 アサリナがクレピスの背中を押して進んで行く。


 今から向かう場所は工房らしく、そこで杖の加工と使用感を確かめられるということらしい。


 また螺旋階段の途中で止まり、クレピスがローブから、ラグルスの物と同じ大きさの杖を取り出して壁を叩く。


 もう慣れた流れで、その先にある部屋に入る。


 部屋の中は石造りになっており、作業台やひとつ前の世界で見たような大きな釜があったり。加工の他、調合などもできるような場所だった。


 クレピスがアオの杖の素材を作業台に置いて考える。


「どうしようか……形の希望とかあるか?」


 そう聞かれてアオは考える。今この世界で見た杖の形は、アサリナの使う大きい杖と、ラグルスとクレピスの使う短い杖だ。


「形の違いってなにかあるの?」

「それはあたしが説明しよーう。大きい方は箒になる!」

「そうだな、簡単に言うとオレやラグルスみたいに小さな杖は細かな魔力操作に向いてるんだ。それで、アサリナみたいに大きい杖は細かな魔力操作に向いていない」


 アサリナの言葉を無視してクレピスが簡単に説明してくれる。アオもアサリナの言葉は聞き流している。


「細かな操作に向かないっていうのは……」

「魔法の種類ってやつだな。分かりやすいようにアサリナとラグルスで例えるけど。アサリナは魔力量が多い、そして得意な魔法はシンプルな火や水や風とか箒で飛ぶとかだ。これなら、細かい魔力操作をするもんじゃない。逆にラグルスの得意な重力操作は、緻密な魔力操作が必要だ。それに、オレらの着ているローブとか色々と便利な機能を付与する時とか、丁寧な仕事をするには、細かな操作が得意な短い杖が向いてるってことだ」

「細かい操作苦手だからねーあたしは」

「ちなみに燃費はどっちの形状でも変わんないぜ」

「じゃあ大きい杖だね」

「即答だな」

「まあね」


 一度経験しているし、仙術を使うのが苦手なアオには細かな操作の必要な魔法なんてものは使えない。それに、そんな大それたものを使えるほどの魔力量なんて無い。


「お揃いだねー」

「じゃあ大きな形だな。見た目はどうする?」

「振りやすければそれで」

「……どう使うつもりだ?」

「武器として」


 アオは杖で相手を叩く動作をする。


「そうか……いやまあ、丈夫な物だから大丈夫だと思うけどよ」

「アオってけっこーぶとー派だよね」

「武闘派の自覚は無いけど、使えるものは使いたいし」


 スイを見つけるためだ。


 後は特に細かな調整のことを聞かれたが、大体が見た目に関係するためなんでもいいということでお願いした。


「すぐできるから、待っててくれ」


 作業台に寝かしてある素材の木に向かってクレピスが杖を構える。


 その杖を振って、まずは大まかに切っていく。ちなみにこの切断は、風の魔法の応用らしい。切るという行為にしても、今クレピスが使った風や、アサリナのように水で切るなど種類があるようだ。


 それから熱せられた鉄のような、赤く発光した杖の先で杖になにかを彫っていく。


「ただ切るだけじゃないんだ」

「そーだよ。ラグルスとクレピスは魔力操作上手いからねー。色々と機能を付与することができるんだー」

「機能を付与ってどういうこと?」

「うーん……なんだっけなー……」

「魔道具ってやつだな」

「あっそうそれ! まどーぐ!」


 一通り形を整え終えたクレピスが杖を確認しながら答えてくれる。


 杖の形はアサリナの物とは少し違い、アオの記憶の中では仙人の持っていた、頭の部分がが丸くなっている杖だった。


 やっと見覚えのある杖の形にアオは少しホッとした。


「魔道具?」


 そしてその魔道具である杖を受け取ったアオは首を傾げる。


「大小関係無く、魔法の要素が永続的に付与された物のことだな。オレらの着てるこのローブって軽いだろ? それはラグルスが重力操作の魔法をローブに付与してくれたんだ。この刺繍がそれだ」

「……なるほど」


 便利な物ということは分かった。


「という訳で、地下で試してみるぞ」


 クレピスが部屋の隅を指で指す。そこだけ床の色が違い――というか木になっており、外すことができそうだ。


「あ、魔法じゃないんだ」


 先に行ったアサリナがその木を持ち上げる。


「先行ってるねー」


 そして、手を振ってその穴に飛び込んだ。


 アオもその場所へ行くと、その下は明るく、梯子がかかっていた。


 そこでアオはそういえば――と思い出す。


 この靴は高い所から飛び降りても大丈夫だと言っていた。一回それを試してみようかと思い、アオもそこから飛び降りた。


 着地と同時に衝撃が来るかと思ったが、そんなことは無くまるで柔らかいクッションに飛び込んだような柔らかさだった。それなのに歩く時は普通の靴のように硬くなる。


「わっ、凄い」

「こっちだよー」

「わっ、凄い」


 アサリナの声をした方を向くと、また同じ言葉を吐いてしまった。

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