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第64話

 地下室は広大な部屋になっており、目の前に広がる広場、その先にはなにで作られたかこの距離では分からないが、人の上半身を模した物が並んでいる。


「ここで魔道具の試用ができる。この塔の中で一番頑丈な部屋だぜ」


 同じく梯子を使わず飛び降りてきたクレピスが教えてくれる。


 アサリナは広場の中心に立つと杖で床を叩く。


 するとアサリナの周りに、床から人の上半身を模した物が現れた。


「あれも魔道具の一種、粘土でできている的ってとこだな」


 少し離れてろと言われたアオはクレピスの隣にやって来る。


「アオー! とりあえず見ててー!」


 アサリナが今から実演してくれるらしい。


 ここなら存分に暴れられるとのことだが、まだ魔力が回復しきっていないのに大丈夫だろうか。


 それを忘れているのか、それとも心配いらないのか、アサリナは杖を構える。


 そして杖で床を叩き振り抜く。


 アサリナの周りに等間隔で並ぶ的、その間を縫うように炎が走る。


 それぞれ的を囲った炎が消える様子は無く、それどころか、包み込もうと燃え盛る。


 この魔法使いセットのおかげで無事だが、これが人間相手に使ったとなると、あまりの熱さに灰になっているのではないかと思う。


 もう一度アサリナが杖を振ると、今度は風が生まれ、その風が炎を纏い火災旋風となり、その中にある的を締め付ける。


 そんな高火力に耐えられる的では無いらしく、火災旋風が霧散すると、的も灰となって消えてしまった。


「相変わらずすげえな」


 感心したように呟くクレピス。


「どう?」


 アサリナがアオに感想を求めるように見てくる。


「やっぱり魔法って凄いね」


 仙術でこれ以上のことやってのける翠を間近で見てきたため、特になにも思わないがそれでも無から炎や風を生み出せる魔法は凄いと素直に思う。それに、それを操るアサリナもなかなかのものだ。


「そうでしょー! じゃー次はアオの番だよ!」


 もとよりアオの杖の試用のためにやって来たのだ。


 元気そうなアサリナと交代するアオ。


「でも、的が無いよ」

「それなら問題無いぜ」


 クレピスの言葉の後、地面からさっきと同じ、人の上半身を模した的が現れた。時間が経てば元に戻るらしい。


「なるほど」

「思いっきりやっちゃってー!」


 アサリナの声援を受けながらアオは広場の真ん中に立つ。


 アオが使うのは魔法でもなく、仙術でもない。いや、半分は仙術のようなものだったか。


 とりあえず、この杖を使って、この身体能力で的を叩き壊すことだ。


 杖を握る手に力を込める。やはり手に馴染む、何年も使っていたと錯覚してしまう程、アオの手や、力の入れ具合に馴染むのだ。


 アオはまず深呼吸をする。身体能力云々には、別に集中力などは関係無いのだが、今回試してみたいことをやってみる。


 アオの持っている魔力、それを杖に集めるのだ。


 なにも持っていなければ、魔力を集めるのにかなりの集中力がいるが、杖に集めるだけならば、それ程集中しなくても大丈夫だという。


 本当にその通りで、特に苦労することなく魔力が杖に集まった。アサリナはこの魔力で炎や風、水を出していたのだが、アオはそれをしない。


「魔力を杖に集めるのは上手くいったみたいだねー」


 その様子を見ていたアサリナがホッと息を吐く。


 アサリナ達は常に魔力を杖に集めて、いつでも使える状態にしてある。そうやって魔力を杖に集めれば、即座に魔法を使うこともできるし、杖も魔力によって強くなる、それに加えてアオの場合、ダダ漏れの魔力が全て杖に集まり、漏れ出る魔力が無くなるのだ。


 それだけアオの魔力が少ないのだが、特に魔法にこだわりの無いアオにとっては特に気にすることではないのだ。後はそれを維持できるかが問題だ。


 もしその維持ができなければ、できるが分からないが、クレピスに維持ができるように調整をしてもらおうと思っている。


(このまま動くと、維持が難しいかな……でも、それなら)


 アサリナ達には息をするようにできる杖に集めた魔力を維持することは、アオにとっては難しいことだった。


 それならば、維持をする魔力を無くしてしまえばいいのではないかとアオは考えた。


 明確に想像できれば大抵のことはできる――アサリナの言葉を思い出す。最初はアサリナのように水や風、炎など、そういったものしか出せないのかと思ったが、ラグルスの重力操作魔法、ルドベキアの空間魔法など、色々とバラバラで本当になんでもありだと理解した。


 仙術とは違い、想像できればなんでもできる魔法。その魔法を使うことが仙術の修行に繋がるか分からないが。


 アオは杖を振りかぶって思いっきり的に向かって振り抜く。


 そして杖の頭の部分が的に当たる瞬間――。

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