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第67話

「見つからねえですね……」

「アオ姉ちゃん、どこ行ったんだろ……」

「団長……!」


 山の中にある洞窟の前、月明かりのみが闇夜を照らす中で、年齢もバラバラの二十七人の男女がいた。


 そしてその中で一番年長である、団長と呼ばれた青年が口を開く。


「分っかんねえなあ、野暮用って訳じゃなさそうだったし……、俺に見つかった時、急いで逃げやがった」


 軽薄な口調だが、その奥には困惑が見て取れる。


 今まで共に過ごしてきた仲間が、突如いなくなったのだ。それも攫われたなどでは無く、アオ自身の意思によってだ。


 全員で捜索をしているが、足取りは掴めない。


「それにあの空気――」


 そこまで言って青年は口を噤む。このことを言っていいのか。アオの纏っていた空気が変わったこと、それにあの動き。今までのアオは青年よりも運動能力は劣っていたはずだ。それでも、ここにいる自分以外の誰よりも能力は高かったが、自分なら追いつけたはずだったのだ。


 まるでアオ自身が変わってしまったかのような、そんな気さえしていた。


「ここを抜け出しても行く場所があるのかって話だけどな……」


 この盗賊団は行く当ての無い、捨てられた子供達でできたものだ。そしてアオもその一人なのだ。


 考えても分からない、アオになにがあったのか、なにを考えているのかが分からない。


「アオ姉ちゃん、なんでいなくなったんだろ……」


 不安な気持ちを吐露する者もいれば――。


「アオが脅されたって線は考えられねえですか?」


 アオの身になにかあったのかと心配する者もいる。


 答えは分からない、だが青年には思い当たる節があった。


「……悪魔憑き」


 それは、自分が親から捨てられた際に言われた言葉だ。幼少の記憶ながら、言葉は鮮明に聞こえている。その時の、親のなにかに耐えるような声と一緒に。


「それって……」

「そうだ。俺らみたいに、変わっちまった奴らのことだ」

「でもそれって! おれらを捨てる口実だろ!」


 この場にいる誰でも聞いたことのある言葉、ただここにいる者は悪魔憑きとして捨てられたことに不満を持つ者が多い。


 その理由は単純、知らないからだ。


 悪魔憑きは変わってしまった者、それは知っているが、それがなにを意味するのか、そうなればどうなるのか、その末路を知らない者が多い。いや、知っている者が少ないのだ。


「助けないと……」

「それは分かってる、けどなチビ共、変わっちまったアオを見つけたとして、抵抗されたらどうする? 急ぐのはいい、けど闇雲に行ったって返り討ちにされるだけだ」

「だからってなにもするなって――」

「アオの捜索はする」


 少年の声を遮るように青年が言う。


 心配するなと、そういった意味を込めて。


「ただ、もうこの山にはいねえと思う。だから、山を出る」


 その言葉に、周囲がザワつく。


 それもそうだ。親に捨てられ、山の中で過ごしてきた自分達が山を出るのだ。外での暮らし方を忘れた訳ではないが、以前と同じ暮らし方ができないということは知っている。


「外に出るのは全員じゃあない。その間、誰が家を守るって話だからな」


 青年はそう前置きをして、どうするのか、これからの計画を語り出すのだった。

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