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第82話

 既に日は沈み、街灯もなにも無い、一面に闇が広がる街道で、ラグルスとクレピスはいた。


 周囲は闇に呑まれた中でただ一つ、音だけが昼間以上に騒がしい。


「う る さ い で す ね」

「ス ズ メ だ か ら な」


 スズメを追い返すため、ソーエンスから飛んできた二人。チュンチュンうるさいスズメの鳴き声にかき消されないように声を張り上げて会話をする。


「私が 魔法で スズメの 進路を 止めます」

「じゃあ オレ は スズメの 進路を 返れば いいん だな」

「そう です おね が い しま す」


 大声を出すのが疲れたのか、クレピスは親指を当てるだけ、二人の周囲は魔法で照らしているため、姿は互いに見えている。


 荒い呼吸を繰り返すラグルスは頷き、杖を振って得意の重力操作の魔法を使い、上空へと落ちていく。


 スズメの数が少なければ、ラグルスの重力魔法だけで対処できるのだが、今回みたいな数だと、もう一人誰かに手伝ってもらわなければならない。


 二人の作戦は、まず、ラグルスがスズメの群れの動きを止め、クレピスがその動きの止まっている群れの、進む向きを入れ替えるというもの。


 空中に立ったラグルスが片目を閉じ、飛んでくるスズメの群れを視界に入れる。そして杖を構え、視界に入れた群れを端から端まで杖でなぞる。するとスズメの群れは、羽ばたいているが全く進まない、その場で停滞するという摩訶不思議な状態になる。


 そしてすかさずクレピスが杖を振る。杖から出た光がその場で羽ばたく群れを囲う。ラグルスがまばたきをした頃には、スズメの進行方向は反対を向いていた。


「仕上げです」


 最後にラグルスが杖を大きく、ボールを投げるように振る。


 そうすると、スズメの群れは正反対に、来た道を引き返していくのだった。


 地上に降りてきたラグルスは肩を回しながら、クレピスを労う。


「お疲れ様です、助かりました」

「いいってことよ。まっ、ルドベキアがやればすぐ終わったんだろうけどな」

「暇をしていたので良かったですよ、私は」

「そうだな。じゃあまた暇をしに帰るか」


 クレピスがラグルスに砂糖菓子を渡しバイクに跨る。


 スズメの糞の処理まではやらなくても大丈夫だろう。もしやれと言われても、それはスズメの群れが完全にこの地域からいなくなった後だ。


 後ろに乗ったラグルスの合図で、バイクは行きよりも遅い速度でソーエンスへと戻るのだった。

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