ラグルスが街を走り回り、クレピスが残った全ての食材を使ってなんとか二十三人分の食事を作り終えた。それを見ていたのだろう、ルドベキア達が帰って来た気配があった。
その場にへたり込み、息を切らせている二人。帰って来た二人を出迎えることもできない。
それも知っているのだろう、しばらくしてルドベキアだけが食堂までやって来た。
「悪かったな、急に言ってしまって」
ルドベキアは魔法で食堂を広くしながら言う。
「本当に……急になんなんですか?」
「間に合うだろうけど、待たせたくないからさ……いやー大変だった」
「悪かったよ。飯を与えないとこっちが噛みつかれてしまう相手でな」
なにか含みのある言い方をするが、今のラグルスとクレピスにはそれにツッコむ気力は無い。精々立ち上がり、邪魔にならない場所へ移動することしかできない。
追加のテーブルとイスも用意したルドベキアが食堂の外へニゲラを呼びに出る。
もう一度ルドベキアが現れた時、後ろをついてやって来たのは、くたびれた服を着ている少年少女の集団だった。
その服装にラグルスは既視感を覚えながら、ルドベキアにどういうことか説明しろと目で訴える。
「山で好き勝手していた山賊だ。当人達は盗賊だと言っているが、まあどうでもいい。悪魔憑き達だ」
その言葉に、ラグルスだけではなく、クレピスも反応する。
「冗談……って顔じゃねえよな」
「悪魔憑きが、こんなにも?」
悪魔憑きなんて、そうそう現れる者ではないはずだ。そんな悪魔憑きが、まさかこんなにもいるとは。
年端の行かない少年少女が多い。確かに、悪魔憑きとなり、親に捨てられる年齢層だ。
そんな少年少女たちは警戒しているのだろう。しかし、空腹には抗えないといった様子で、周囲を睨むような目は何度もテーブル上の料理へと向けられていた。
「約束だし遠慮せず食え」
「毒は、入ってねえですよね」
顎を引いたまま、少年少女達の先頭にいた少年が言う。この中では一番年長だろうが、それでもまだ十代の半ばぐらいだろう。一応この中ではリーダーのような雰囲気があるが、態度からして、山賊のリーダーではないなとラグルスとクレピスは判断した。
そして毒入りかどうか、疑われるのは解らない訳でもないが、自分達の作った料理だ。ハッキリと言わなければならない。
「そんな物入れねえよ」「そのつもりなら、とっくに殺してますよ」
「おいラグルス……」
「本当のことを言ったまでですよ」
「オレもそうだけどよ」
少年を再び見ると、鼻を鳴らして顔を背ける。
無駄に噛みつこうとはしない。本人達も、ルドベキア達がその気になっていれば命が無かったことを理解しているのだろう。それ以降は大人しく席に着いてくれた。
「ほら、大丈夫だから、俺が隣に座ってやるからな」
何人かは固まって動けないでいたが、少年が優しく接してなんとか座らせる。
その間に、ルドベキアはニゲラとラグルスに風呂と着替えの準備をしてもらうように頼む。なぜ山賊相手にここまで丁寧にもてなすのか分からないラグルスだったが、ニゲラが素直に言うことを聞いているということは、真っ当な理由があるのだろう。
移動がてらニゲラに聞いてみようと、ラグルスは後を追う。
「とりあえず、冷めないうちに食ってくれ」
座ったはいいが、食事に手を付けようとしない少年達に食べるよう促すクレピス。
さっきの少年が、覚悟を決めた様子で一番最初に食べる。
「うまい……‼」
その声を聞いてから、他の少年少女達も手を付けだす。
ようやく食べ始めた一同に見て、ルドベキアがホッとしたように息を吐く。
今の内だと、クレピスがルドベキアにこれはどういうことなのかと聞く。
「遂に実害が出てな。それで俺達が出たんだが、山賊が全員悪魔憑き達だったって訳だ」
「こんなにいるもんなんだな」
「俺も初めてだ」
それに対し、クレピスは肩をすくめる。さっきのラグルスの質問の答えと変わっていない。
ルドベキアがそれ以上言わないということは、今話せる情報はもう無いのだろう。
これ以上聞けることが無いと解っているクレピスは、食事をしている少年少女達の観察を始める。
料理が口に合ったのだろう、一心不乱に料理を口に運んでいる。中には涙を流す子だっていた。クレピスはその光景をどこか微笑ましそうに眺めるのだった。