越えるべき山の麓までやって来たアオとアサリナ。一度箒を止め、離れたところで休憩をとる。
「この山を越えた先、どーなってるかあたしも分からない」
アサリナは真剣な顔で話し始める。
ここから先どうなっているのか、話は聞いたことあるが、見たことは無い。
そのことをまずアオに伝える。
「でも、そう変わらないらしいよ。ちけーとか、植物とかは色々違うとはきーてるけどね」
「動物も変わるのかな?」
確かにスズメはこの地域にはいない動物だったはずだ。
「変わるだろーね。あとはー、どーぶつ以外にも、物騒な場所はあったりするらしーから、そこはちゅーいしてね」
治安が悪い場所はあるということだ。注意がは、動物だけでなく、人間相手にも必要ということだ。
特段気をつけることといえば、そういう所ぐらいだろうか。行く前にそうだと思っていても、実際に行ってみなければ分からないだろう。
一応、なにが起きても大丈夫なように心の準備はしておくアオである。
スイがいるであろう祭壇まで、距離だけで見れば後二日程で到着することができる。果たして、予定通りに進むことができるのか、なにかトラブルに巻き込まれるのだろうか。
これまで巡った世界での経験上、なにかアオに対して不利なことが起きるはずだと踏んでいる。それらしき出来事は未だに起きていない。それが起きるのはスイを見つける前か後か、それに加え、スイの『哀』の感情を解放するにはどうすればいいのか。
アオ自身のこと以外にも考えることは多い。それらを同時に考えるなんてできやしない、目の前にあるものから順番に片づけるだけだ。
「分かった。じゃあ行こう」
「りょーかい。山を越えたら、こまめにきゅーけい挟むから心配しないでねー」
二人を乗せた箒が、アオの仙術により姿を消して飛び発つ。
すっかり集中モードに入ったアオを確認すると、アサリナはギリギリ山道が見える高さを維持して、山越えを始めるのだった。