食事を終えて、風呂で身体を洗い着替えを与えた山賊達を塔の広い部屋に軟禁することにした。
そしてあの中でのリーダー格の少年に話を聞き、山賊達の目的を知ったルドベキアは、一人自室で唸っていた。
どうして今まで人的被害を出していなかったのに、いきなり人的被害を出したのか。それも事故ではなく故意にだ。
その目的を聞いて納得はしたが、それにより新たな疑問も生まれた。
いなくなった仲間を探すために中央のタステへと向かった。
山賊達のいた山から見える中で、一番大きな街がタステだったのだろう。しかし規模は全く及ばないが、ソーエンスだって大きな街だ。そして距離はソーエンスの方が近い。それなら、最初にソーエンスを探せばいいのだが、あの場所からソーエンスは死角になっており、上空から見るでもしないと見えないのだ。
タステへ向かったのは全員で四人。その中に正真正銘のリーダーが入っている。
山賊の頭が直々に出るなんて、そのいなくなった仲間は随分と大切にされていたのだろうか。いや、あの結束を見るに、誰がいなくなってもそうなるだろう。
そして、いなくなった仲間を探す。ではなぜいなくなったのか。それを聞いても知らないとの答えが返って来た。
別に非人道的なことは行われていない。捨てられた者どうしが手を取り合い生きていく。あの山賊はそういう集団だ。
生活が嫌になったから? それならそう話せばいい。そうできない理由があるのかもしれないが、その逃げ出した人物はそのことをなにも語らなかったらしいのだ。
ただ、魔力を漏らしていたところをアサリナに保護された。
他の世界から来たというその人物が、なぜ山賊の仲間なのか。
他の世界から来たというのは噓ではない。それは彼女の使う魔法とは違う術で証明されている。
詳しいことは本人に聞けばいいのだが、今現在本人はこの塔にはいない。もうそろそろ別の地域に入っている頃だろうか。
まだこの地域にいるのなら、魔法で呼び戻してもいいのだが、あの二人がもう恐らくいるであろう場所は魔法を使うことができない。正確に言えば、魔法使いだということがバレてはいけないのだ。
革袋から話しかけたいが、こちらはいつでも声が届くように袋の口を開いているのに対して、向こうは袋の口を縛っているだろう。連絡を取る手段が、向こうから来ない限り無いのだ。
人里離れた場所に転移して追いかけようとも思った、だがそれをするのは最終手段だ。
そこまで考え、ルドベキアは嘆息する。
そして壁に掛けられている額縁を見る。
まず追いかけるのは、アオとアサリナではなく、タステに向かっている山賊の四人だろう。
こちらは転移で接触を図ることができる。ただ、ルドベキアはまだそれをする気はなかった。
突然目の前に現れて話したとしても信じてくれないだろうし、なんなら仲間が捕らえていると聞いて激昂されそうだ。
ルドベキアの狙いは、四人が無事にタステに辿り着き、イエーラ像の前で祈りを捧げ、望みが叶い中央の魔法使いが捕らえに来たところを助け出すことだ。
それの方が喧嘩にならないだろうし、なによりカッコいい。
動き始めるまで後数日だ。それまでは、その山賊一行が無事にタステに辿り着けるよう、陰ながらフォローしよう。
「収穫ってなにー?」
アサリナの疑問は最もだろうが、その収穫の期待を少しだけしていたことを思い出して口を噤む。代わりに伸びている山賊を回収して動けないように縛っておく。
アオもそれを手伝いながら口を動かす。
「あの時、姿を消したままでも目が見えた。まあすぐに術が解けたけど」
「それって、しゅーちゅーしながら戦えたってこと?」
「うん。集中の範囲を広げた感じ」
「範囲を広げる?」
止まって考えるアサリナに、アオはその時のことを話し出す――。
「なーるほど」
一通り説明し終えると、アサリナは納得した様子だったが、すぐに眉を寄せた。
「結局どっちなのー?」
「え?」
「いやあ、最初は動きながら使えるよーにって感じだったけど、それが無理だったから使う時だけしゅーちゅーするのを目指したんだよねー?」
「それは……臨機応変に?」
「いやまー、いーんだけど」
「基本はその時全力で集中しないとダメだと思う。それができるのは戦っている時だけだと思うから」
「そーんなんだ。じゃーいっぱい戦わないとダメだよね?」
「そうだけど……」
実際それができるのかどうかは分からない。
スイがいるであろう祭壇に生贄を捧げるのまで二週間あるとはいえ、それは大体の時間だ。それに、アオ達がそこに行くまでは少なくとも三日はかかるらしい。なにが起こるか分からない旅路で、今みたいにわざと寄り道をしていると思わぬトラブルに巻き込まれて間に合わないのではないかと考えてしまう。
「まずは祭壇に向かわないと。なにが起こるか分からないし」
「そーだよねー。……うん、分かった」
アオとアサリナは、縛って完全に身動きを封じた山賊を山道に放置し、もう一度山の中へと戻って来た。
山の中なら見られる心配も無い。ここで姿を消し、また箒で飛ぶのだった。