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第96話

 馬車に乗り、途中にある町を経由しながら、モルフ、シャオ、イリカ、サナレの四人は何事も無くタステまで辿り着くことができた。


 トラブルなんて起きず、計画通り辿り着けたことに一同は顔を合わせ笑い合う。


 この調子なら上手くいく。アオだって見つかる。


 タステの入り口は巨大な門が等間隔で並んでおり、その前を多くの兵士が見張っている。


 モルフ達が扮した行商人以外にも、旅の芸人や吟遊詩人、旅行者など数が多い。


「すげえ人の数だな」


 モルフのボヤいている隣ではシャオは懐かしそうな、寂しそうな表情を浮かべる。


 これだけ多種多様の人間がいるのに、なぜ自分はその中から捨てられてしまったのか。一時的にだが、戻ってこられて嬉しい反面苦しくもある。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫」

「大丈夫そうには見えないけど。まっ、その気持ちはシャオだけじゃないよ」


 後ろからそういうのはイリカだ。イリカの隣には沈痛な面持ちのサナレがいた。


 この感情は自分だけじゃないのだと、少しシャオの気持ちは軽くなる。そしてこの気持ちをサナレにも分けてあげようと、敢えて声に出す。


「おれにとっては、みんなが家族だし、別になんとも思わないよ」


 その言葉にサナレは顔を上げて微かに微笑む。


 モルフはその頭をくしゃっと撫でて笑うのだった。



 タステの巨大な門をくぐると、人々の活気が肌を打つ。入ってすぐには、様々な露店が広がっており、そこで買い物をする人も多い。


 審査を受け、許可が下りると中に入れる。モルフ達は難なく中に入ることができた。それも当然で、武器など、人々を脅かす物を持っていないしそういう気持ちも無い。


 馬と荷台は預けて、四人は固まって歩いている。


 あまりの人の多さにはぐれないよう注意を払い、そしてアオを探しながら人の流れに乗る。


「これじゃあ分かんねえな」

「中に進むと落ち着くと思う」

「じゃあとりあえずそこまで行くか」


 人の多さに意識の半分以上は自分達がはぐれないように向けてしまうため、効率がいいとは思えない。


 ここは一度人混みから抜け、聞き込みなどをした方がいいのかもしれない。


 シャオを先頭に、モルフはイリカとサナレの手を引き、進み始める。


 少し中に入ると活気は少し納まり、建物も白い石造りの物が増える。二階建て以上の建物が軒を連ねる光景は、シャオにとっては懐かしい物であり、モルフ達にとっては始めて見る光景だった。


 雑踏を抜けると変わったのは目に見える光景だけではない。近くから水の流れる音が聞こえる。


 そういえば、遠くから見たタステには四方から大きな河が伸びていた。流れを見るにタステの中心に向かっているのだが、その水がどこに行くか、それに疑問を挟む人間はいない。


 少し歩くと大きな水路が現れる。


「わあ。綺麗」


 白い街を走る水は、光を反射して周囲の白を輝かせている。


 今まで見たことの無い光景にイリカは感激し、サナレも眼を輝かせている。


 その微笑ましい光景を見ながら、モルフはその近くに建っている石像を見る。


「なんだぁ?」

「イエーラ像だよ」

「なんだそれ」


 モルフの疑問にシャオが答える。


 それが聞えたサナレとイリカもやって来る。


「それ、向こうにもあったよ」


 イリカが指した方を見ると、目の前にある像と同じ物があった。


「なんでも、祈れば願いが叶うんだって」

「じゃあアオが見つかりますようにって祈れば見つかるの⁉」

「うーん……叶ったところ見たこと無いけど」

「それで見つかりゃいいけどな、祈らず探すしかねえよな」

「でも祈るだけならいいでしょ? イリカ祈ってみる。ほら、サナレも祈ってるし」

「好きにすりゃあいいか」


 微苦笑を浮かべたモルフがその光景を後ろから見守る。


 シャオもせっかくということで二人の隣で祈っている。


「祈るだけならただか」


 そう呟き、モルフもアオが見つかるようにと目を閉じ祈る。


 ――やけに大きく聞こえる水に流れるが聞える。


 それに違和感を感じて目を開ける。目の前にはシャオとサナレとイリカがいる。誰も欠けていない。おかしいのは周囲だ。


 人がいないのだ。やけに水が流れる音が聞こえると思えば、原因は街を歩く人々がいなくなったからだ。

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