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第110話

 タステへ向かう人選は、まずアオとアサリナが姿を消して向かい、その後状況によってラグルスとニゲラが動くことになった。


 モルフは子供たちを不安にさせないように待機で、クレピスは残り、塔を管理する。状況によって魔道具での支援も行うということに決定した。


 二人一組での行動とのことで、各グループにはアオとアサリナが旅に出る時持って行った革袋を持たせている。これを使って情報を伝えたり、支援を受けたりするのだ。


「じゃーとりあえず向かうね」


 まだ日は高いが、アオのおかげで時間なんて関係無く姿を消すことができる。アオがいなければ動くのは人目が少ない夜だっただろう。


「ほら、アオも乗ってー!」


 塔の屋上にやって来た七人。先に出ていく二人を見送る。


 スイから離れるのが名残惜しいアオはなかなか箒の後ろに乗ろうとしない。


「アオ、行ってらっしゃい。気をつけてね」

「……うん」


 いつまでも動かないアオをスイは送り出す。そうやってようやくアサリナの後ろに乗ったアオ。


「じゃー行ってくるね」

「アサリナ、気を付けろよ」


 ニゲラが真っ先に送り出す。それに続いてラグルス、クレピス が送り出す。


 アオもスイに手を振って箒は塔の頂上から飛び立つ。


 タステまで、箒で飛べばそれ程時間はかからない。飛び立つとすぐにアオ達がいた山に着く。その山を越えると、遠くに広大なタステの街が見える。


 あの時見た街だと、淡泊に思ったアオはアサリナに話しかける。


「目指すのは真ん中の部分?」

「そー。あのお城みたいな? 大聖堂みたいな?」

「てかあれなんなの? 王様住んでるの?」


 アオはタステの中央にそびえ立つ白い建物を見る。


「そういうのは住んでない……と思う。タステで一番偉い人ってイエーラって人だし」

「知らないの?」

「とーぜん。だって関わりたくないもん」


 アサリナ達がタステの魔法使いと関わりたくない気持ちも、今のアオなら理解することができる。


 スイを助けた祭壇での戦い。そこへやって来たあの魔法使いの女。性格的にも難がありそうで、かなり面倒な人間だった記憶がある。幸いにも口程にも無かったが。


「……分かる」

「あんなのがいっぱいいるんだよ」

「やっぱ帰ろう」

「そうはいかないんだよねー!」


 ルドベキアが帰って来たのなら向かわずに済むのだが、未だ連絡が無いとなればこうして様子を見に行くしかないのだ。


「だからー、アオは姿を消していてね」

「スイがいるからやりたくないんだけど」


 結局スイに謝ることはできていない。


 これ以上罪を重ねるのかと、アオは葛藤していたが、そうしないと早く帰ることができず、そして無事に帰られるかどうかも分からない。


 だから渋々、本当に嫌だが、アサリナに腕を回して姿を消す。


「まだだいじょーぶだよ」

「は?」


 急いで離れるアオ。タステが大きな街なため、かなり離れていてもすぐそこに思えてしまう。


「なんなの?」

「怒らないでー!」

「なんで笑ってんの」

「なんでだろー」


 アサリナには、この時間がとてつもなく楽しいものなのだ。


 状況が状況のため、楽しんでいる場合ではないのだが、この時間は特にできることが無い。それなら、今この時間を楽しんでもいいのだと思う。


 初めて出会った時、杖を探した時、旅を始めた時、徐々に近づく距離に、アサリナは喜びと楽しみを感じていた。そして、アオの目的を果たして、また少し離れてしまった気がした。


 それでも、こんなやり取りをしていると、なにも関係は変わっていないのだと実感する。


 スイに嫉妬している訳ではないのだと思う。ただ、スイだけでなく、たまにでもいいから、自分を見てほしい。


 一緒に旅をした仲間なのだから。


 ただ面白くないだけ。アオのことは好きだけど、それはアオがスイに向ける好きとは違う。なぜなら、アオに抱きしめられても、ドキドキはしないから。


 アサリナはこれまで見せつけてられてきた仕返しにローリングする。箒が横に回転して突き進む。


「あははははは!」

「危ないって!」


 必死に箒にしがみつくアオを振り落としてやろうと激しく揺らし、回る回る回る。


 やがて気が済むと、箒は再びまっすぐに飛ぶ。これ以上続けると、肝心な時にまともに動けなくなる可能性があるからだ。


「ほんっとになにやってんの⁉」

「ごめんごめん、もーすぐだからもーしないよ」


 アオの視線に刺されながらひとしきり笑い終えたアサリナは、ふと真剣な口調で言う。


「じゃーそろそろ準備してほしーかな。あっ、そういえば腕輪着けてないよねー?」


 そう言われて、アオは自分の腕を見る。帰ってきてから魔力を封じる魔道具は着けていない。


 ソーエンスにいれば別に魔力を漏れさせていてもあまり問題は無かったから着けていなかったのだ。


 今回も、中央に自ら乗り込むのだから封じる必要は無いとのことで着けていない。


「着けた方がいいの?」

「ううん、着けないほーがいい」

「あ、そう」


 それ以上アサリナは理由を言わなかった。


 修業の結果、仙術の扱いは向上したが、それでも魔力は漏れているのが現状だ。姿を隠しても、魔力が漏れているのなら相手はそこに誰かがいるのだろうと気づくことができる。姿は見えないがそこには誰かがいる。この状況で相手を攪乱してやろうと思っていたのだ。少し騒ぎを起こせば隙が生じる。それを狙ってのことだった。


 そうこうしていると、もう姿を消すべき距離までやって来た。


 合図を受けたアオは、なにも言わずに姿を消し始めるのだった。


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