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第111話

 どのくらいの時間こうして降下しているのかもう分らない。ただ、連絡するのを忘れるぐらいには、ルドベキアは冷静ではなかった。


 誰にも言わぬまま、ただただ下降していく。やがて行き着いた先、純白の鎖が刺さる場所には、タステの特徴である白い石。街並みを構成する白がある。それが瓦礫のように積み重なっている場所に鎖が刺さっていた。


 そこに降り立ったルドベキアは、ゆっくりと辺りを検分する。


 ルドベキアが立っているそれ、鎖の刺さっているそれは、このタステの神だったものだ。


 白い石でできた巨兵。それが今、無残にただの瓦礫と化している。


 鎖を確認すると、まだ神の魔力を吸い取っているらしく脈動している。こんな姿になっていてもやはり神といったところだろうか。こうして、数十年魔力を吸われていてもまだ莫大な魔力が残っているのだから。


 そんな神から魔力を吸い取っている純白の鎖は、ルドベキアにはどうしようもできない。ただ、この神になら手を出すことができる。


 動くこともできず、魔力も吸われてなにもできない神を、ルドベキアは空間ごと切り刻む。あまりにもあっさりとした作業は、ただの解体作業だ。


 切り刻み、神が死ぬことで吸い取ることのできる魔力が無くなった鎖は音を立てて砕け散る。その破片は落ちることなく溶けてなくなる。



 光が爆ぜる。それは、奈落の底にいたルドベキアまでも照らす光だった。


 タステを一瞬光が飲み込む。普通に生活しているのなら、気づかない。気づいたとしても気のせいだと済ませる程度の。


 ただ、そう思わない人間もいる。それが、魔法使い達だ。


「なにがあった‼」

「イエーラ様が……!」


 タステの魔法使い達は自体の深刻さを理解すると同時に、どうすればいいのかと動くのが早かった。



「なにー⁉」


 一瞬の光にアサリナが箒を慌てて止める。


 なにか尋常ではないことが起こったことを理解する。これは悠長なことを言っている暇は無く、急いでルドベキアの安否を確認しなければならない。


「今光ったよね?」


 アオも眉根を寄せている。


「うん。急がないと!」


 そう答えると、アサリナは全速力で再び箒を走らせる。


 風を切り、グングン速度を上げてタステを目指す。


 アオも姿を消すことに集中して、箒から振り落とされないようアサリナに掴まるのだった。



「なにか、嫌な予感がしますね」


 タステからの光は届いていないが、魔法使いの塔で待機しているラグルス、ニゲラ、クレピスの三人はなにかを感じ取ったのだろう。三人は顔を見合わせる。


「僕らも出た方がいいだろう」

「はい、向かいましょう!」

「分かった。気をつけてな!」


 アサリナ達の連絡を待たずに、ラグルスとニゲラもタステへと向かうことにするのだった。

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