一切の緑が無くなった世界にただ一つ、内に緑を閉じ込めた建物が建っている。
つなぎ目の無い半球状のガラスの中には、世界各地の植物が生い茂る。
原生林のような自然なものではなく、人の手が加えられて『綺麗』と言えるものだ。
とっくに世界からは天然の日除けは消えているが、このガラスの中に生い茂る木々が降り注ぐ太陽の光を遮ってくれる。
「心地良いわね……」
そんなガラスの中で、手に深緑の布表紙の本を持った一人の女性が、背後に聳え立つ木にもたれながら空を仰ぎ見る。
木々の擦れる音すらしない静寂の中で、今はその女性の呼吸だけが聞こえる。
その女性は真珠のように白く長い髪を耳にかけて本を開く。本の中には色とりどりの世界が広がっている。今はもう、その全てが失われてしまった。
本を読むたびに、心がちくちくと針に刺さされるように痛む。それなら止めればいいのに、止められなかった。
もう間も無く終わってしまうこの世界で、最後の最後まで美しかった頃の世界を忘れたくない。