最初は真上にあった太陽が今は斜め上に移動している。
あれからずっと歩いているがなにも見つからない。ただ乾いた風が吹いているだけだ。
やはり水すら流れていないのかと、ガラスドームの中で沸いていた水を貯めた水筒から喉を潤す二人。
なにも無い終末世界にもかかわらず、あのガラスドームの中には二人で生活するには十分な環境が揃っていた。
この世界は、碧が今まで巡ったどの世界よりも未来の文明なのだろうか。今までで一番進んでいると思っていた『喜』の世界よりも進んでいる。その『喜』の世界での技術がもっと進歩すればこうなっていただろうと想像できる物もあった。食べ物なんてそうだった。あのガラスドーム内で育つ果物や野菜は食べていたし、肉などその他の食材、その調理などは一つの機械で賄われていた。『哀』の世界での魔法のように、なにもしなくても食べ物を生んでくれるし調理もしてくれる。
高度に進んだ文明は魔法と大差ないという言葉が碧の記憶に残っている。
もしかして、人々は滅びる前に他の星に移住したのかもしれない。
水も湧き、浄水もできる。まるでこうなった時のため、人が暮らせるように何者かが用意したみたいに。
その設備のおかげで、碧と翠は今まで生きることができた。それでも、この世界自体が終わってしまうと無駄になる。
「ねえ、翠。この世界が間もなく終わるって……なんでわたしたち分かるんだろ?」
「どうしてでしょうね。私も分からないわ。でも、確実にこの世界は終わるわ」
「怖い?」
「怖い……のかしら。碧といられなくなるのが怖いけど」
世界が終わるということは、自分達は死んでしまうということなのだ。でも、翠は死んでしまうということよりも碧と一緒にいられなくなることが怖いというのだ。
「大丈夫だよ。ずっと一緒にいられるから」
それは翠にとっては根拠の無い言葉だ。でも、碧は心配無いと自信を持って言える。その自信満々に碧を見た翠は、碧がそう言うのなら大丈夫なんだなと心が落ち着くのを感じる。
「それなら、怖くないわ」
「よかった」
しかし、碧は怖いのだ。この世界が無くなってしまう前に、翠の感情を解放しなければならないから。ただ、翠の心に恐怖が無いということで『楽』の感情を解放するのはかなり楽だと思う。
「じゃあさ、残り少ないんだし楽しもうよ!」
「ええ、そうね」
当ても無く、ただ彷徨っているだけでも、碧と翠は互いに笑い合う。