歩いても歩いても変わらない景色。
二人は当ても無く彷徨っているだけだ。なにも無くても、それで心が乱されるなんてことは無い。
「なんにもないね!」
「ふふっ、そうね。私達、どこで終わるのかしら」
歩き続けて、太陽が更に傾いても二人は笑顔で会話を楽しんでいた。
それでも翠の『楽』の感情が解放されることはなかった。
なにが駄目なのか。単純に考えると翠は心の底から楽しんでいないということなのだが、翠に限ってそんなことがあるのだろうかと碧は不安になる。
碧は翠と一緒にいられて心の底から楽しいのだ。それはさっきの翠の発言から、翠も同じなのだろう。なにかが足りないのだろうか。
考えても分からない。でもどうアプローチしすればいいのか分からない。
今までの経験上、どこで翠の感情が解放されるのかは解っているつもりだ。
だから大丈夫だと信じたい。でもこのまま、こうしていても大丈夫なのだろうか? という不安は拭えない。
「翠はさ、なにかしたいことって無い?」
「碧とずっといること。かしら」
即答だ。
それを聞いた碧は嬉しくて満面の笑みを浮かべる。こんなにも嬉しいことは無い。
「わたしもずっといることが一番したいことだよ!」
こんなにも心の内は同じなのに、どうして翠の感情が解放されないのだろうか。
「翠はさ、今心の底から楽しんでる?」
「楽しんでいるわよ? 急にどうしたの?」
碧の質問に目を丸くする翠。その表情はかなり珍しいけど、それと同様に碧も目を丸くしてしまう。
楽しんでいるのなら、もう感情が解放されるはずだ。いつもみたいに、ガラスの割れる音がするはずなのだ。
風が砂を転がす音と、二人が地面を踏みしめる音しか聞こえない。
最後の世界、今までの経験を持ってしてもこの状況は意味が分からない。
翠が心の底から楽しんでいるのなら、今度こそできることが無い。
もうこのまま世界が終わるのを待つだけだ。
できることが無い碧は、もうなにも考えず、ただ翠と共にいることを楽しむことにした。