「私は……このままでいいのでしょうか?」
セフィリアの問いかけに、レイとカイルは答えない。
これは独白だ。セフィリアが胸に秘めていた感情のひとかけら。だからふたりは、黙ってセフィリアの言葉に耳を傾ける。
「レイも、カイルさんも、リュカも……みんなたくましく、すてきな男性になっていくのに、私自身はなにも変わらない気がして」
9年も年月がたてば、変わることはある。
しかし外見が大人になっただけで、自分の本質はなにも変わっていないのではないか。近頃のセフィリアはそう思えてならなかった。
「そもそも邪龍を倒すためとはいえ、みなさんに曖昧な態度を取っていることが、気にかかってしまって……」
「つまりきみは、俺たちに愛されるばかりの日々に、疑問を感じている。そういうことだな?」
「……はい」
セフィリアは本来、レイと想いを交わしている。
その上で、邪龍への対抗手段として、カイルやリュカオンとも婚姻という名の誓約魔法を交わしている。
それこそ、セフィリアがずっと気にかかっていたこと。
「俺たちが守るから、お嬢さまはなにも心配しなくていいんですからね……っていうのは、ちょっと違ったみたいですね」
カイルが苦笑まじりにセフィリアの頭をひとなでする。
「むかしから籠の中の鳥、愛でられるだけの花のままではいようとしなかったもんな、きみは」
カイルが気づいていたように、レイもセフィリアが本当に望んでいることを汲み取っていた。
「きみ自身の手で邪龍を倒したいと。そういうことなんだろう? リア」
「はい。私はみんなに頼るばかりではなく、私自身も強くなりたいんです」
そうと口にしたとき、セフィリアの胸にすとんと落ちるものがあった。
(そう、私だってたいせつなひとたちを守れるように、強くなりたかったんだわ)
胸の奥に押し込められていた本当の気持ち。それを、セフィリアもようやく見つけ出すことができた。
「大丈夫だ。きみはきみの望むようにすればいい」
「レイ……」
みなまで言わずとも、レイはセフィリアの心情を理解していた。
むかしからそうだ。「星を観に行こう」と誘ってくれたときからずっと、彼は手を引き、導いてくれる。
じんわりとぬくもりが胸に広がるのをセフィリアが感じていると、頭上でひとつ嘆息がこぼれた。
「わかりました。お嬢さまの好きにやってもらってかまいません。その代わり、あなたを愛する気持ちだけは、否定しないでくださいね?」
すこしスネたようなカイルの物言いがなんだかおかしくて、セフィリアは笑ってしまう。
「ふふ……ありがとうございます、カイルさん……っん」
言葉の終わりを待たず、焦れたように唇を重ねられる。
「ん……んっ」
何度かついばまれたのち、カイルの吐息が移動し、セフィリアの左の首すじにちくりとした感触がある。
「マーキングは、しておかないとね」
カイルは熱をおびたかすれ声でささやき、からだを離す。
すると今度はレイがセフィリアへ覆いかぶさってきた。
「兄さんだけずるいからな」
と何食わぬ顔で言ってのけたレイは、噛みつくようにセフィリアの唇を奪う。
「んっ、ふ……レイ……んんっ」
間髪をいれず口内にぬるりとした舌が侵入し、セフィリアはあっという間に前後不覚にさせられてしまう。
「リア、愛してる」
「ひゃあっ」
カイルとは反対側、右の首すじに鋭い牙をやわく突き立てられ、セフィリアは悲鳴をあげた。
「とりあえず、お嬢さま、また悪夢を見ないように、今夜は俺たちが寝かしつけてさしあげましょうか」
「そうだな。激しい運動でもすれば、ぐっすり眠れるかもしれない」
「えっと……カイルさん、レイ……えっ?」
なにを言われたのか、セフィリアはすぐに理解できない。理解したら終わりなのかもしれない。
「『愛の力は世界を救う』ってやつかな」
「えぇえっ!」
大真面目にそんなことを言ってのけたレイはともかく。
この後セフィリアの身になにが起きたかは、彼女のみぞ知る。