次の日。
(一昨日に採ったキノコは食べきったほうがいいな。それから保存用と食べる用にキノコをそれぞれ採ってきて。桜桃や桃も追加で採ってきておこう。姉さんはまず近くで採取をさせたいから、私は少し離れたところに行ったほうがいいな)
焼きキノコが完成し、先に食べる。姉の分は器に盛っておく。
朝食を終えた林杏は川に行って飲み水を汲んでくることにした。自分のものと姉の筒を持っていく。着いやのでついでに顔を洗うと、それほど太陽は高くないのにも関わらず、水はぬるかった。
洞くつに戻ると姉はまだ横になっていた。よほど疲れていたのだろう。まだ寝かせておこう。先にキノコを採ってくることにした。林杏は薪の枝で地面に文字を残す。たき火の前ならわかるだろう。
『キノコを採ってきます。器の焼きキノコを食べて待っていてください』
林杏は準備をして、キノコを採りに行った。
洞くつから山頂へ向かって10分ほど、足元だけでなく頭上の枝などにも気をつけながら歩く。
(ええっと、こっちのキノコはお腹を壊したからだめ。あっちは苦くて食べれたもんじゃなかったし。……お、おいしいのみっけ)
林杏は紫色のキノコを見つけると、この山に来てから作ったカゴに入れた。このキノコは見た目に反して、うまみが強くて大変おいしいのだ。
(そういえば故郷にもこんな色のキノコあったな。あれは揚げたらおいしかったけど、このキノコは焼いたほうがおいしかったから、また焼きキノコにしよっと)
最初にこのキノコを鍋に入れたときに、キノコ汁が紫色になってしまった。キノコそのものはおいしいのに、見た目で食欲が減退してしまい、少々悲しい思いをした。
ほかにも明るい茶色でまん丸なキノコや、枯れ木に生えている小さくまとまっているキノコなどを採取した。
(だいぶ採れたな。この辺りには桜桃や桃はないみだいだし、そろそろ戻るか)
林杏は洞くつに戻ろうとしたとき、さらにキノコを見つけた。そのキノコは大きくて傘が黄色く、干してもキノコ汁にしてもおいしい。そんなキノコがなんと群生しているではないか。
(これは、今採らないでいつ採るのか)
林杏は足を止めて、目的のキノコをカゴに入れた。おかげでカゴいっぱいのキノコが採れた。
林杏が洞くつに帰ってくると、姉は起きていて焼きキノコを食べているところだった。
「戻りました」
「おかえりなさい。すみません、寝てしまっていて」
「いえ、大丈夫ですよ。そうだ、キノコの後処理をしてみませんか?」
「後処理、とは?」
姉が首を傾げた。林杏は採ってきたキノコ1つカゴから出し、説明した。
「キノコというのは、どうしても土や落ち葉などがついています。それらを取って食べたり保存食用に干したりするんです。海辺に住んだらあまりキノコを採ることはないでしょうが、山があるところに住んで採るようになったら必要な処理です」
「わ、わかりました。やってみます」
「では、川に行きましょう」
林杏はキノコを持って姉と共に川へ向かった。
川に着くと林杏はさっそく姉に土の落とし方を教えた。
「1番いいのは桶を用意して、その中に水をはっておくことですが、今回はないので岩を利用しましょう」
「岩? どうやるんですか?」
「集めて川の中に囲むように置いて、いけすを作るんです。そうすれば流れがせき止められた状態で水が溜められます。溜めたところに前もってキノコを入れておけば、土などがとれやすくなるんです。今回は私が岩を積みましょう。どんどん運んできてもらえますか?」
「わかりました」
林杏は
(ここ、エビいるんだ。じゃあきっと魚もいるはず。今度からは魚釣りをしてもいいのかもしれない。……いや、魚を待っているあいだにほかの食糧が採れる。でも魚が食べられるとすごくありがたいんだけどな)
ふと林杏は故郷のことを思い出した。故郷の男児たちは川に釣りに行っていたが、網を持って川の中を歩いて、なにか獲っていたのだ。
(網さえあればなんとかなるか。でも余分に服は持ってきてないしなあ。里に下りて買うこともできない。……取っ手のないカゴを編んで棒とくくりつけて、網っぽくするか?)
林杏は岩を積みながら考えた。姉は一生懸命に岩を運んでいる。途中から自身で岩を探すのをやめ、姉が運んできた岩でいけすを作った。
(よし、決めた。魚やエビを食べよう。そのための網を編んで作ろう)
林杏は密かに決心を固め、岩を積んだ。
なんとかいけすができると、林杏は中にキノコを入れた。
「手を使って汚れを落としましょう。川の流れを利用しながらこすったり爪を使ったりすると、とれますよ」
林杏はそう言って手本を見せた。姉も林杏の真似をしてキノコの汚れをとる。2人は黙々とキノコを洗った。
太陽が高くなり、気温が上がってきた。日光が林杏の頭を焼くように照らす。
(あっつい)
林杏は腕まくりをした。姉を見ると髪を上げることなく、袖の長い服で作業を続けている。額から汗が流れるこの温度で、長袖と長い髪。
(大丈夫かな? まあ暑かったら自分でなんとかするか)
林杏はキノコを洗い続けた。