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41.キノコの下処理

 次の日。林杏リンシンは姉より先に目が覚めたため、朝食として焼きキノコを作ることにした。さすがに毎日同じ料理では飽きてしまうので、時折別の料理にするようにしている。

(一昨日に採ったキノコは食べきったほうがいいな。それから保存用と食べる用にキノコをそれぞれ採ってきて。桜桃や桃も追加で採ってきておこう。姉さんはまず近くで採取をさせたいから、私は少し離れたところに行ったほうがいいな)

 焼きキノコが完成し、先に食べる。姉の分は器に盛っておく。

朝食を終えた林杏は川に行って飲み水を汲んでくることにした。自分のものと姉の筒を持っていく。着いやのでついでに顔を洗うと、それほど太陽は高くないのにも関わらず、水はぬるかった。

 洞くつに戻ると姉はまだ横になっていた。よほど疲れていたのだろう。まだ寝かせておこう。先にキノコを採ってくることにした。林杏は薪の枝で地面に文字を残す。たき火の前ならわかるだろう。

『キノコを採ってきます。器の焼きキノコを食べて待っていてください』

 林杏は準備をして、キノコを採りに行った。


洞くつから山頂へ向かって10分ほど、足元だけでなく頭上の枝などにも気をつけながら歩く。

(ええっと、こっちのキノコはお腹を壊したからだめ。あっちは苦くて食べれたもんじゃなかったし。……お、おいしいのみっけ)

 林杏は紫色のキノコを見つけると、この山に来てから作ったカゴに入れた。このキノコは見た目に反して、うまみが強くて大変おいしいのだ。

(そういえば故郷にもこんな色のキノコあったな。あれは揚げたらおいしかったけど、このキノコは焼いたほうがおいしかったから、また焼きキノコにしよっと)

 最初にこのキノコを鍋に入れたときに、キノコ汁が紫色になってしまった。キノコそのものはおいしいのに、見た目で食欲が減退してしまい、少々悲しい思いをした。

 ほかにも明るい茶色でまん丸なキノコや、枯れ木に生えている小さくまとまっているキノコなどを採取した。

(だいぶ採れたな。この辺りには桜桃や桃はないみだいだし、そろそろ戻るか)

 林杏は洞くつに戻ろうとしたとき、さらにキノコを見つけた。そのキノコは大きくて傘が黄色く、干してもキノコ汁にしてもおいしい。そんなキノコがなんと群生しているではないか。

(これは、今採らないでいつ採るのか)

 林杏は足を止めて、目的のキノコをカゴに入れた。おかげでカゴいっぱいのキノコが採れた。


 林杏が洞くつに帰ってくると、姉は起きていて焼きキノコを食べているところだった。

「戻りました」

「おかえりなさい。すみません、寝てしまっていて」

「いえ、大丈夫ですよ。そうだ、キノコの後処理をしてみませんか?」

「後処理、とは?」

 姉が首を傾げた。林杏は採ってきたキノコ1つカゴから出し、説明した。

「キノコというのは、どうしても土や落ち葉などがついています。それらを取って食べたり保存食用に干したりするんです。海辺に住んだらあまりキノコを採ることはないでしょうが、山があるところに住んで採るようになったら必要な処理です」

「わ、わかりました。やってみます」

「では、川に行きましょう」

 林杏はキノコを持って姉と共に川へ向かった。

 川に着くと林杏はさっそく姉に土の落とし方を教えた。

「1番いいのは桶を用意して、その中に水をはっておくことですが、今回はないので岩を利用しましょう」

「岩? どうやるんですか?」

「集めて川の中に囲むように置いて、いけすを作るんです。そうすれば流れがせき止められた状態で水が溜められます。溜めたところに前もってキノコを入れておけば、土などがとれやすくなるんです。今回は私が岩を積みましょう。どんどん運んできてもらえますか?」

「わかりました」

 林杏はスカートすそを結んで短くし、靴を脱ぐと川の中に入った。川の中の岩を移動させると小さなエビが逃げていった。

(ここ、エビいるんだ。じゃあきっと魚もいるはず。今度からは魚釣りをしてもいいのかもしれない。……いや、魚を待っているあいだにほかの食糧が採れる。でも魚が食べられるとすごくありがたいんだけどな)

 ふと林杏は故郷のことを思い出した。故郷の男児たちは川に釣りに行っていたが、網を持って川の中を歩いて、なにか獲っていたのだ。

(網さえあればなんとかなるか。でも余分に服は持ってきてないしなあ。里に下りて買うこともできない。……取っ手のないカゴを編んで棒とくくりつけて、網っぽくするか?)

 林杏は岩を積みながら考えた。姉は一生懸命に岩を運んでいる。途中から自身で岩を探すのをやめ、姉が運んできた岩でいけすを作った。

(よし、決めた。魚やエビを食べよう。そのための網を編んで作ろう)

 林杏は密かに決心を固め、岩を積んだ。

 なんとかいけすができると、林杏は中にキノコを入れた。

「手を使って汚れを落としましょう。川の流れを利用しながらこすったり爪を使ったりすると、とれますよ」

 林杏はそう言って手本を見せた。姉も林杏の真似をしてキノコの汚れをとる。2人は黙々とキノコを洗った。

 太陽が高くなり、気温が上がってきた。日光が林杏の頭を焼くように照らす。

(あっつい)

 林杏は腕まくりをした。姉を見ると髪を上げることなく、袖の長い服で作業を続けている。額から汗が流れるこの温度で、長袖と長い髪。

(大丈夫かな? まあ暑かったら自分でなんとかするか)

 林杏はキノコを洗い続けた。


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