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24.新しい共同生活

 浩然ハオランが満足する頃には、林杏の心臓は破裂してしまいそうだった。腰に手を回されたまま、何度も何度も口づけをせがまれたのだ。心臓はずっと高鳴っていたうえに、唇が腫れるのではないか、とまで思った。

 林杏が落ち着くと、晧月コウゲツのいる小屋まで手を繋いで向かう。フェイ州のときとは違い、心臓がずっと高鳴っている。

「ここだ」

 浩然が扉を開けると、晧月が湯を沸かしているところだった。

「おう、来たか」

 晧月がこちらを見ると、浩然は林杏の腰に手を回して引き寄せた。すると晧月はニヤリと笑った。

「やったじゃねえか、犬野郎っ。はー、やっとくっついたかー。これで安心だぜ」

 晧月が嬉しそうにしているなか、ツォンがこちらにやってきた。林杏の首にまで登ってくると巻きついて、求愛行動をとる。すると浩然が聡に言った。

「おい、蛇野郎。林杏はオレの妻だ。求愛ならほかの蛇にしろ」

 すると聡はシャーッと音を立てながら、浩然を威嚇した。

「こらっ、聡」

 聡の威嚇は終わらない。すると晧月が笑いながら言った。

「そら、聡からしたら、いい気はしねえわなあ。許してやれよ、林杏。おい犬野郎、湯沸いたから茶淹れろや」

「やかましいわ、虎野郎。まったく」

 浩然は出されていた急須や湯呑みに湯を注いで、準備を始めた。床に座った晧月が自身の隣を叩いたので、林杏は晧月の隣に腰を下ろした。よく見ると小屋はきちんと手入れされているようで埃はなく、家具は見当たらない。

「どうやら持ち主がいないみたいだから、使わせてもらってんだ。……よかったなあ、林杏。いやあ、お前さんは好意に鈍いからよ。どう気づかせたもんかって、すごく考えたんだぜ」

「う。お手数をおかけしました」

「でもお前さん、よく自力で気づけたな」

 林杏は正直に荷花に指摘されたことを告げた。すると晧月は「めちゃくちゃありがてえ」と言った。

「まずは林杏の家へのあいさつだな。式はそれからか」

 晧月は床の上に置かれた湯呑みをとり、茶を飲んだ。式。そういえば結婚式の存在を忘れていた。

「林杏、オマエのご両親にあいさつをさせてほしいんだが、いつがいいだろうか?」

 お茶を淹れた浩然が尋ねてきた。

「うーん、畑仕事なんていつでも忙しいですから、どの日でも大丈夫だと思いますよ。どうせ親に仙人になれたって報告しに行くんで、一緒に行きます?」

「いや、さすがにそれは突然すぎるだろう……。まずはお前のほうから話をしてくれないか?」

「わかりました」

「お、いいねえ。夫婦って感じの会話じゃねえか」

 晧月にそうからかわれ、林杏は頬の温度が上がるのを感じながら、目線をそらした。するとなにかが叩かれるような音がして、晧月が「いっでえ」と声を上げた。見ると晧月が座って屈んだ状態で悶えていた。

「こ、晧月さん、どうしたんですか?」

「足がりそうになったそうだ、気にするな」

 なぜか浩然が答える。しかし浩然を睨みつけている晧月は、背中をさすっている。

「お前な……」 

「あの、晧月さん。大丈夫ですか?」

「……おう、平気だ。さーて、じゃあ俺はどこに住もうかねえ」

 晧月は腕を組んで天井を見た。予想外の言葉に、林杏は思わず首を傾げる。

「え、一緒に住まないんですか? 私たち」

「え。いやだって、お前さん、犬野郎と暮らすだろ? さすがによお、新婚の家に住む気はねえよ。俺、めちゃくちゃ邪魔だろ?」

「私は別に。浩然さんはいかがでしょう?」

 林杏は浩然のほうを見る。すると浩然はお茶を飲んでから答えた。

「オレは林杏がしたいほうでいい」

「じゃあ、一緒に暮らしましょうよ、晧月さん」

「え、でもよお……」

「だって、晧月さん毎日来るでしょ? いちいち帰るの面倒じゃないですか。それに晧月さん、寂しいでしょ」

「うぐ」

 林杏の言葉はやはり図星だったようだ。晧月は上を見たり、下を向いたりしながらも、最終的には首を縦に振った。

「じゃあ、3人で暮らしましょう。そのほうがきっと楽しいですよ」

「まったくお前さんは。じゃあ、お邪魔しちゃいましょうかねえ」

「それならもっと広い家のほうがいいな。どこかにあればいいんだが」

 浩然がお茶を飲みながら言った。林杏は小屋を見回す。たしかに3人がずっと住むには、少々手狭に感じる。

「建築関係者に来てもらうにしても、この霊峰はただの人は入っちゃいけねえしなあ」

「それならオレたちで建てるしかないな。時間はかかるだろうが」

「それならよ、この家をもとに建てるのがいいんじゃねえか?」

 晧月の言うように、建設より増築のほうが手間はかからないだろう。林杏は星宇の小屋を思い出した。

「故郷の村長が図面を引けるはずです。友人の小屋の設計図も描いたようなので。今度帰ったときに頼んでみます」

「おう、じゃあそこは林杏に任せるか」

 林杏は3人で同じ建物に住む日が楽しみになってきた。

(そうだ。梓涵ズハンさんのところにも、報告に行かなくっちゃ)

 林杏は頭の中でどのように行き来するか、計算を始めた。


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