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夜中の会談 ヒヨリのカミングアウト

 予言板に特大の死亡ルートが刻まれた次の朝。


!? 良いのかっ!」


 朝食の席で、ライは驚きと喜びのあまりフォークを取り落とした。


「行儀が悪いぞライ。ああ。ただし行くのはお前と使用人、そして護衛の兵士合わせて数十名程度だ。なにせ通行証が届いていない上、あまり多く兵を連れて行けばそれこそ国家間の問題になる」

「えっ!? 通行証がないのに行って良いのか?」

「当然良くない。普通は途中の関所で止められて終わる。なので……


 静かにそう語るバイマンさんに対し、ライは驚きの表情を浮かべる。


 何故こんな状況になったのか、それは昨日の深夜に遡る。




 ◇◆◇◆◇◆


「何だってっ!? ユーノが七日後に神族に殺されるっ!?」


 俺は夜中ではあるが、眠っているバイマンさんを叩き起こして事情を説明した。今回ばかりは無礼も何も後回しだ。一刻も早く対応しなければ手遅れになる。


 それを聞いたバイマンさんは、眠気も吹き飛んだのか青い顔をしながら大声を出す。


「声が大きいですっ!? ……はい。それが俺のスキルがこのままではそうなると予言した未来です」


 俺が出来るだけ淡々と予言の内容を語ると、バイマンさんは気を落ち着かせる様に棚から果実水を取り出してグイッと飲み干す。


「……ふぅ。まずは落ち着こう。大前提としてその予言が本当に当たるかどうかだが」

『男爵様。それは今更という話でございますよ。前回もその前も、この予言によって最悪の事態を回避できた事をお忘れですか?』

「分かっているっ!? ……すまない。だが事が事なのだ。前回の半信半疑だった時に比べてその予言の信用度は上がっている。だからこそ、このままでは娘が死ぬと言われれば動揺もするさ」


 立ち上がってヒヨリに食って掛かりかけたバイマンさんだが、すぐに自制して椅子に座り直す。


 これは無理もない。誰だって身内が死ぬと言われれば冷静ではいられない。特にバイマンさんのような家族愛の強い人なら尚更だ。寧ろよく激情に呑まれかけてから自制できたと言いたい。


「だが何故だ? 神族にとって、一部のヒト以外はそれこそ路傍の石と大差ない。わざわざ直接手を下してまで殺す理由がない。……まさか? そんな伝説上の何かかもしれないという理由だけでかっ!?」

「……ヒヨリ。もうここまで来たら隠す必要はないんじゃないか?」

『そうですね。何をどこまで話すかは開斗様にお任せします。ワタクシはちょっとした補足説明をする程度で』


 バイマンさんが憤慨する中、ヒヨリが微妙に険しい顔でOKを出したため、俺はバイマンさんに色々と打ち明ける事にした。勇者の事や、俺が勇者を見守るためにやってきた事などを、ヒヨリについては極力誤魔化しつつだ。


 ユーノを助けるにはバイマンさんの助力が欠かせない。そして、それにはこちらも腹を割って話さなければならない。


「……君には何度も驚かされてきたが、今日のが間違いなく一番の驚きだな」

「信じて頂けるのですか?」

「正直言って、今からでもベッドに入って朝になったら全てが夢だったという結末が一番なのだが……そうも行くまいよ。ならひとまず真実だと仮定した上で話を進めねばどうにもなるまい? それも極めて信憑性の高い仮定だがね」


 額を押さえながらも一応信じる姿勢を見せてくれるバイマンさんに頭を下げながら、俺達は早速これからの事を協議する。だが、


「勇者云々も君達の事も置いておいてだ。最大にして一番に考えなければならないのはユーノの命だ。……死因が神族によるものというのは間違いないのか?」

「はい。予言にははっきりと“七日後。聖国聖都にて、神族の手により勇者が死亡する恐れがある”と記されていました」

「それが問題だな。もうユーノを連れて一団が聖都へ向かってから三日経つ。今から追いかけたとしてもこちらが追いつく前に聖都に着いてしまう」


 それに関しては予言の間が悪かった。せめて聖都の一行が出発する前であれば、まだ出発を遅らせるなり色々と手があったのに。……なりふり構わなければ馬車に細工するとか。


 七日後というからには、ユーノが向こうに着いてもすぐに殺される事はないだろうが、それでもこちらの準備期間が足りなすぎる。


「それに道中で追いついてユーノを奪還したとしても、神族が一度神託を下した以上、聖都の者達は何が何でもユーノを神族の前に連れ出すように動く。場合によってはこれからもずっと追い回される事すらあり得る訳だ」

「そこは……なんとかバイマンさんが伝手があるという王都の方に匿ってもらうなどは?」

「これに関してはあの書状がある以上、国を動かして大規模に手を貸してもらう事は出来ん。出来ても個人的に動いてもらうまでが限界だろう」


 今さらっとバイマンさんの伝手の人が、書状さえなければ国を動かせるというとんでもない発言が出てきたがそれは置いておく。


 前回のゴブリンの襲撃のような分かりやすい危険ではなく、今回の死因は神族。この世界の人を実質的に支配・統治している上位存在が相手となれば、どうやったらユーノの死を覆せるかまるで思いつかない。唯一真っ向から反抗できるのが勇者なのだが、その勇者が今回危ないのだからどうしようもない。


 しかしやらねばならない。それが仕事だから……ではなく、目の前でもうこれ以上子供が傷つく所なんて見たくはないからだ。それが自分の知人なら尚更に。


 どうしようもないが何とかしなくてはならない難題。それに男二人で頭を悩ませていたその時、


『……仕方ありませんか。は~い! お二人共。少々お耳を拝借してもよろしいですか?』


 どこか気楽に、しかし覚悟を決めたような声を上げ、ヒヨリがひょいっと机の上に降り立った。そして、




『あ~……その、諸々の問題ですが、ワタクシが聖都に着けば案外何とかなるかもしれません。なんせワタクシ、でして。ワンチャン話が通じたりするかもですはい』




 それを聞いたバイマンさんが、コイツは何を言っているんだ? という顔をしたのは誰にも責められないと思う。



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