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燃え滓の男 旅立ちの時


 ヒヨリのカミングアウトだったが、最初は全くバイマンさんも相手にはしなかった。だが、


『もう。仕方ないですねぇ。じゃあとっておきの証拠を見せるとしましょう。……開斗様。申し訳ありませんが、ワタクシが呼ぶまでほんの少しだけ席を外していただけます?』


 何故かそう言われて俺は部屋を追い出され、そのまま少し待っていると、


 カッ!? ドタドタっ!


 一瞬扉の隙間から閃光が走り、中から何かが倒れるような音が響いた。それから更に数秒ほど経って再び中から閃光が走ったかと思うと、『もう良いですよ~』というヒヨリの言葉が聞こえてきたので急いで中に入る。すると、


「……っ!? どうしたんですかバイマンさんっ!?」


 バイマンさんがどこか呆然とした顔で立ち竦み、座っていた椅子は横に倒れていた。そんな中平然とした様子で『お待たせしました~』と片手を挙げるヒヨリの方がどこか異質で。


「ヒヨリ……一体何やったんだ?」

『流石にこのプリティなボディでワタクシ神族ですよって言っても信じてもらえなかったので、ちょっとだけを見せただけですよ。……あっ!? この部屋はその間結界を張っておきましたので、余程近くに居ないとこの事は気づけませんからご安心を』


 本体って、バイマンさんがこんなになるとは余程の事だぞっ!? 慌てて介抱すると、バイマンさんは正気に戻ったのかぶんぶんと頭を振ってしっかり立ち直す。


「ああ。ありがとうカイト殿。それと……これからはヒヨリとお呼びした方が宜しいか」

『別に話し方は今まで通りで構いませんよぉ。さっきの姿は身分証明の為に見せたもの。そう気安く顕現したら問題ですし、ワタクシは開斗様の使い魔のサンライトバットですので』


 ヒヨリがちょっぴりだけドヤ顔をしながらそう返すと、バイマンさんはほんの少しだけ緊張を解く。


「分かった。ではヒヨリ君と。……それでだ。ヒヨリ君が言うには、聖都に行けば他の神族と話をつける事が出来ると」

『あくまでといった感じですけどね。聖都の神族がどういう思惑で動いているか分かりませんし。ただ少なくとも対話くらいはしてくれると思います』


 OK。つまりユーノを助けるには、刻限までになんとかして聖都までヒヨリが辿り着く必要があると。少し光明が見えてきたな。だけど、


「ちょっと待った。確かヒヨリは俺からあまり長く離れられなかった筈だ。つまり」

『そう。当然開斗様も一緒に行く事になりますね。比較的安全なこの村から出て、大急ぎでモンスターが跋扈する森を抜け、機嫌を損ねたら一発アウトの怖~い神族達に面会して勇者様を助け出す。中々の無理難題になりますが、受けるお覚悟はお有りですか?』


 そう言うと、ヒヨリは俺に向けてニッコリと、死にかけていた俺に異世界へ行かないかと契約を持ち掛けてきた時のような良い笑顔を浮かべる。


 と言われても、返す言葉など決まっているんだけどな。そう。




「何を今更。当然だろ?」

『……そこはもうちょっと悩んでくれても良かったんですけどねぇ」





 ◇◆◇◆◇◆


 という事が有り、夜中の間に素早く俺達は計画をまとめた。


 まず今回の計画の肝は、如何にヒヨリと俺が早く聖都に到達して神族と話をつけるかにある。そして交渉はヒヨリに任せるしかないが、それ以外にも問題は山積みだ。


「普通の馬では聖都までどう急いでも四日掛かる。しかも途中の関所まで行くにも、国境となっている森を抜けなくてはならない。これだけでも時間が掛かるが、さらに言えば


 ユーノがここを出立して既に三日。明日には四日である。つまりどう足掻いても今からではユーノ達の聖都入りは止められない。


 しかし七日後にユーノが殺されると予言にあったが、逆に言えばそれまではユーノは聖都に着いても無事な訳だ。なのでもう途中で奪還する手は最初から捨てて、ユーノにちょっかいを出すなと直接交渉する方に全力を向ける。


 そして通行証の問題だが、どうやら国境沿いに広く無許可で通ったらすぐバレる結界が張ってあり、関所を回り道するのは現実的ではない。かと言って届くのを待っていたら時間が削られる。


 そこで最終手段として、




「よ~し準備完了っ! 荷物も積んだし食事も摂った。いつでも行けるぜっ!」

「ライ坊ちゃん。あくまでこれは御公務。初めてのとはいえ、もう少し落ち着かれますよう」

「そうだぞライ。旅はかなりの強行軍になる。今からそれだと体力が保たないぞ」

「分かってるって! ……待ってろよユーノ。今行くぞっ!」




 堂々と使として押し通る事になった。




 それを聞いて最初は頭が痛くなったが、詳しく説明を聞いて見れば存外理には適っていた。


 まず、バイマンさんの貴族位は男爵。これは貴族全体で見れば低い位置に居る。しかし聖都との国境沿いに領地を構える貴族には、幾つかの特権と義務が与えられていた。その一つが、国同士の友好の証として数年に一度、少人数で聖国聖都に挨拶に行かねばならないというものだ。勿論これは制度としてあるので、領主の一行であれば通行証無しでも問題は無くなる。


 聖都滞在中の食費や宿代、移動費など諸々の出費はこちら持ち。しかも一応大使なので、それなりに舐められないような準備も必要となる。なのでバイマンさんは伸ばし伸ばしにしていたのだが、非常時の為この制度を急遽利用する事になったのだ。


 それを聞いた時、最初から通行証など要らなかったのではと思ったのだが、


「だけど、父さんは行けないなんてな」

「仕方ありませんよ。本来次の親善大使の予定は大分先の事でしたし、日程の調整は難しいのです。それでも今坊ちゃんに名代を任せてまで強行するのもユーノお嬢様が心配だからこそ」


 このように、行けるのはあくまで領主であるバイマンさんかその名代、そして護衛や付き添いが少人数のみ。ユーノの命が懸かっていなければ、まだライに名代は早いとバイマンさんは考えていたらしい。


「さあ先生。ヒヨリも乗った乗ったっ! 出発するぜ!」

「ああ。今行くよ」

『は~い。聖都への大冒険の始まりですね!』


 こうして、親善大使団代表であるライを筆頭に、俺やヒヨリや屋敷の使用人による付き添い、そして護衛として以前村の襲撃の際に指揮を執っていた兵士長さんを含めた兵士団。


 合わせて二十名ほどの一団が、聖都へと出発する事となった。


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