「えっ!?」
「な、何をいきなり」
急な展開に皆目を白黒させているが、ブライト様はいたって真面目な顔で話し続ける。
『言っとくが本気だぜ。お前さんがバイマンの息子だっていうのもそうだが、さっきの圧にきちんと耐えた事も評価してる。お前さんならオレの良い暇潰しになりそうだ』
『ちょっ!? ちょっと待ってくださいっ!?』
そこへ割り込んだのはヒヨリ。慌てた顔をしてブライト様の前に立つ。
『いきなり何の話ですか? 今回の話し合いはあくまで勇者の件についての筈。それを急に』
『別に趣旨から外れちゃいねぇぜ。要するに超越者さんよ。お前さんはオレが勇者にちょっかいを出すのが気に入らない。それと……そこのお前。名前なんだっけ?』
そこで今度は俺に話が飛んできたので、俺は落ち着いて自分の名前を名乗る。すると、
『そうそうカイト! そんな名前だったな。それでだ。そこのカイトのスキルで出た予言。それに神族の手で勇者がヤバいって出たのが問題なんだろう? ならこうしよう。まずは提案を聞くだけでいい。それだけで“オレとオレの手の者は、聖都に居る限りここに居るお前達と勇者に対して、反撃と訓練以外で一切の危害を加えない”と誓おう。これでどうだ?』
「なっ!?」
俺は急いで予言板を確認する。すると、問題の文章がはっきり分かるほど薄くなっていた。
『どうだ超越者? これなら文句はあるまい? これ以上を求めるなら提案を飲んでもらうが……話を聞く気になったか?』
「おう! 話を聞くだけで良いんだろ? ならなった!」
『ライ君っ!?』
ヒヨリが返事を返す前に、ライがさっきより和らいだ表情で話を聞く態勢を取る。ユーノの安全が保障されつつあるという事であれば、ライもブライト様相手に嚙みつく必要がないからという事だろう。
『ほら。本人は乗り気だぜ! クククっ。じゃあ話を詰めようじゃないか!』
そこからブライト様が提案したのは、一見かなりこちら側に都合の良い内容だった。
一つ。俺達は数日後に聖都で行われるユーノを勇者としてお披露目する式典に出席する事。ただしその後であればユーノを含め、すぐにでも元の村に戻って良い。その際ユーノは親善大使団の帰路に同行しても良いし、後日聖都側からまた一団を募って送らせても構わない。
一つ。今回ライを誘いこそしたが、別に今は
一つ。ライにはブライト様からの課題を定期的にこなしてもらう。その課題は時と場合により様々だが、明らかに達成できない課題を出す事は出来ない。
一つ。以上の提案を飲むのなら、ブライト様はこれからは村へ勇者やライ目当てにちょっかいをかける事はない。
大まかに言えばこのような感じだが、当然その内容にヒヨリや俺達は時々確認を入れる。だが、
『結局ユーノちゃんをお披露目するのは外せないんですか?』
『ああ。それにこのお披露目は、勇者に先にオレが唾をつけておく事で他の神族、もしくは他の力ある何者かから守るという意味合いもある。要するに後ろ盾って奴よ。まあそれでも喧嘩売ってくるようなバカは嫌いじゃねぇがな』
「本当に諸々終わったら坊ちゃんとお嬢様は村に帰れるのですね?」
『そこはず~っと聖都に居ろなんて無茶ぶりはしねぇよ。色々とやる事もあるだろ? それにバイマンの奴に説明も必要だ。……クククっ。アイツがこれを聞いてどんな顔をするか楽しみだな』
「課題というのは? 流石に子供に命の危険があるようなものをさせるのは」
『ククッ! まあそう焦るなよ。流石に絶対安全サクサクプレイなんてのは保証出来ねぇが、少なくとも初めの内はそこそこ優しい課題にしてやるさ。最低限オレが楽しめそうな内容でな』
「定期的というのは大体どのくらいの周期で?」
『これは敢えて曖昧にしてある。一応お隣さんの国だからな。呼び出しはするが月一で来いとは言わねぇよ。多くても二、三ヶ月に一度。もしかしたら年一って事もあり得る。まあその辺りはオレの気分と状況次第ってとこか』
といった具合に、一つ一つ最低限ではあるがきちんと質問に答えていくのはブライト様なりの誠意と取るべきだろうか?
その他小さな質問を幾つも出し合い、提案の穴を一つずつ埋めていき、
『大体こんな所か。神族がここまできちんとした交渉をするのは滅多にない事だぜ? さあライ・ブレイズ君。諸々踏まえて答えな。この提案……受けるかい?』
「……ブライト様。最後にこちらからも条件があるんだけど」
『ククッ。まさか神族相手に更に要求を吹っ掛けるかよ。不敬もここまでくると一周回って興が乗る。良いだろう。言ってみな』
どんな要求を吹っ掛ける気かと、俺達は戦々恐々としてライの言葉を待つ。そして、ライの出した要求は、
「そのお披露目までの間にユーノに会わせてくれ。出来れば事前に申請しているオーランドさんに便乗する形で。それでユーノに訳を話し、本人が良いって言ったらオレも提案を受けるよ」
『良いだろう! その程度ならお安い御用だ。なるべく上手い事説得してくれや。勇者のお兄ちゃんよ!』
こうして、波乱の交渉は一応の決着を見たのだった。