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ライ 不思議な子猫におちょくられる


(一体ここはどこなんだろうな?)


 オレは目の前の子猫に目をやりながらそんな事を考えていた。


 白い様な黒い様な、熱い様な寒い様な、広い様な狭い様な……そんな場所。いつの間にこんな所にと思いつつ、何があったかと思い出そうとするが頭がぼんやりする。こいつじゃないもっと無機質で、それでいてドロドロとした何かに語り掛けられていたような……というか、


「お前何なんだ? 喋る猫なんて見た事ない」

『今言ったぜ? 傲慢の獅子と呼ばれてるにゃ! まあ肩書みたいなもんだけどね!』

「傲慢の獅子?」


 オレはもう一度じっと目の前の奴を見て……うん。やはり獅子というより子猫だ。鈴が鳴るような声は可愛いけど、微妙に尊大そうな奴だな。


『すぐに分かるさ。……にしてもオレ様がこんな姿になるなんて、当代の宿はとんだへっぽこらしいにゃ~』

「何? へっぽこ?」


 目の前の子猫は欠伸をしながら急にそんな事を言い出した。オレがムッとすると、子猫はしょうがないなという顔をする。


『オレ様の姿は宿主の力量によって変わる。オレ様が子猫の姿って事は、あんたもまだまだ未熟な子猫へっぽこって事。お分かりぃ? や~いへっぽこ~!』

「何だよそれ……このぉっ!」


 オレは捕まえてやろうと手を伸ばすが、子猫は身をくねらせてするりと避ける。むきになって次々手を伸ばすけど結果は同じ。


『にゃ~っはっはっは! こんな子獅子ちゃんも捕まえられないなんて、やはりへっぽこにゃ~!』

「このっ! また言うかっ!?」

『……ったく。見てられないね』


 トンっ!


 急に子猫が向きを変えたかと思うと、オレの顔面目掛けて逆に飛び掛かってきた。うわっ!? 猫キックだっ!?


 咄嗟に顔を庇って尻餅をつくと、子猫はそのままお腹に乗っかって鋭い視線を向けてくる。


『あのさぁ。宿主さん。あんたはをきちんと自覚する所から始めな。自分の出来る事。目標までの道程とそこに到達するまでの精密なイメージ。それらをぜ~んぶ理解して、初めてオレ様が手を貸すに値するんだぜ。それが分からず無理やり手を伸ばそうとするからここでも現実でもこんな情けない目に遭う。……少なくとも、宿にゃ』

「……っ!? お前、父さんを知ってるのか!?」


 オレがたまらず問いかけると、急に目の前の子猫の姿がどこかぼんやりしていく。


『そろそろ時間か。次会う時はもちっとオレ様の宿主にふさわしい奴になるんだにゃ! にゃ~っはっはっは!』

「おいっ! 待てよ!」


 子猫が高笑いをする中、オレはまた気が遠くなりながらも必死に手を伸ばして、





 ◇◆◇◆◇◆


「……待てって言ってんだろっ!?」


 ぎゅむっ!


 オレはその手に何かを掴んだ感触を感じてニヤリと笑う。そして微睡みから意識がはっきりとしていく中、獲物を確認するべく目を凝らして、


「ようやく捕まえたぞ! この……げぇっ!?」

『何を捕まえたって?』


 気が付けば、ベッドに横たわったままオレはを鷲掴みにしていた。慌ててその場に平伏しようとして、


「申し訳……あぐぅっ!?」


 突然激痛が走り、オレはその場で声を漏らしながら固まる。よく見ると身体中包帯でぐるぐる巻きにされ、顔にも何か張り付けられていた。


『ククッ! 結構。もう二、三日寝たきりかと思っていたが、予想より動けて何よりじゃねぇか!』


 そう言って笑うブライト様だったが、流石にこのままではいけないので痛みを我慢して一礼する。すると、


『良いだろう。本来なら神族の顔を鷲掴みなんて不敬は即処罰ものだが、その悶えっぷりと礼を忘れなかった事で許してやる。……ところでだ。お前その様子じゃ何か不思議な夢でも見たんじゃねぇか?』

「えっ!? ……はい」


 どこか確信を持ったようなブライト様の問いに、オレは今見た夢の内容を話した。


 不思議な空間で何かに囁かれている中、新たに現れた子猫が自分を傲慢の獅子だと名乗った事。


 自分が子猫の姿なのはオレが未熟だからと言い、その後も散々おちょくってきた事。そしてオレの事を宿主と呼び、父さんを先代と呼んでいた事等だ。


「それで捕まえようとしたら目が覚めちゃって、重ね重ね申し訳ありませ」

『ククッ! クハハハハハハ! あの傲慢の獅子がまさか子猫になぁっ! それは愉快だ! 是非とも見てみたかったハハハっ!』


 突然上機嫌に笑いだしたブライト様に、オレはちょっと押し黙る。食事会の時から思っていたけど、この神族様結構な笑い上戸らしい。でもこのままじゃ話が進まないので、ある程度落ち着くまで待つ。


『ハハハ。ああ悪い。最近はこうしてそれなりに楽しみが増えて嬉しくてな。……さて。お前さんの見た夢だが、そりゃあ夢であって夢じゃない。ライの内側で目覚めた、あるの影響だな』

「スキルが……自我を? というよりオレにスキルが!?」

『ああ。間違いない。お前さんの宿したスキルこそ』


 そこでブライト様はニヤリと嗤い、一瞬の溜めを置いて続ける。それは、




『その名も“傲慢の獅子ライオンズプライド”。かつてバイマンの奴が“獅子の誇りライオンズプライド”と改名、調整した大罪スキルの一つ。たかだか不敬の極致と言えるスキルだぜ!』

「不敬の……極致?」




 良く分からないけれど、どうやらオレの中に居たあの子猫は良くも悪くも凄い奴らしかった。



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