目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

ライ 傲慢の獅子と向き合う その一


 ガッ! ガッ!


 大神殿の一室。主に聖護騎士団の模擬戦に使われる訓練用の部屋で、


「うおおおおっ!」

「はああっ!」


 二人の少年が、刃を落としただけの鉄剣で切り結んでいた。


 片や勇者の守り手にして勇者の兄ライ。片や側役として再び勇者に付き従うレット。


 かつて再現のようなこの戦い。ライは何故こうなったのか良く分かっていなかった。


 分かっているのは、これに負ければレットが代わりに勇者の守り手としてアナとの戦いに臨む事。レットがかつてない気迫で向かってくる事。そして、



『おっと。右前方三歩先の足元。注意が足りてないにゃ~宿さん?』

(分かってるよっ!?)



「『土槍』っ!」


 忠告と揶揄いの混ざった声に心の中で返事をしながら、忠告通り床からの土槍を躱しつつ、自分が少しこの戦いでズルをしているという事だった。




 ◇◆◇◆◇◆


『ライ。お前さんには“傲慢の獅子”を最低限扱えるようになってもらうぜ。といっても複雑な訓練じゃない。要するに……!』


 ブライト様が俺にさせたのは、ひたすら能力のを繰り返すという事。


『他の大罪スキルはともかく、“傲慢の獅子”だけはオレも心得というか……まあ。慣れるまで発動は手を貸してやるよ。止めたい時はお前が止めようと思えば自然と止まるさ』


 最初は手を貸してくれる優しい神族様だと思った。でもそうじゃない。なにせ合図と共に来る発動はいつ、どこで、どんな時に起きるか分からなかったからだ。


 剣の訓練の時も、いつか村へ戻ってから必要になる勉学中も、食事や休憩中に至るまで、寝ている時以外本当にいつ来るか分からない。


 そして一度発動したら、自分で気を張って止めない限りスキルは全身の力を吸い上げていく。俺がふらふらになって倒れるまでの制限付きだけど。


 初日は気が付けば倒れていた。少しずつ慣れてきても、少し制御を間違えたらやっぱり倒れた。


 何度も何度もユーノに泣きながら治療されて、その度に申し訳なさでいっぱいになった。その上、


「えっ!? 先生とヒヨリが行方不明だって!?」

『ああ。多分ジャニスに攫われたのだとオレは見ている。アイツは一見破滅主義者だがそれはそれとして計算高い。さしずめ式典襲撃と次の一戦を邪魔されないようにってとこだろうよ。……心配するな。利用価値がある奴をアイツはそうそう殺したりはしない。極論お前さんが勝てばそれも丸く収まるかもな』


 頼りになる先生と友達が姿を消して、消えた二人を探す合間に報告に来るジュリアさんや、父さんに頼まれて手を貸しに来てくれた冒険者パーティー『鋼鉄の意志』。そんな人達の前でもお構いなしにぶっ倒れて、必死に成功させても疲れ切った状態で他の事もやらなきゃいけない。


 自分で決めた事だけど、心が折れそうになった事も一度や二度じゃない。でもその度にユーノの顔を見て踏み止まる日々が続く、そんなある日の事だった。




『にゃ~。調子はどうだい? へっぽこな宿主さん』




 以前夢の中で“傲慢の獅子”と名乗った子猫が、突然目の前に現れたんだ。でもそいつは他の人達には見えていなかった。


『そりゃそうさ。オレ様が見えるのは、繋がっている宿主と神族や超越者だけ。勇者ユーノは……そうだにゃ。勇者の姿だったら見えるだろうね』


 そう言ってそいつは毛繕いしながらクスクス笑う。


『オレ様が見える時点で宿主さんとの繋がりは大分強い。ここから先は無理やり神族に使われるんじゃなく、お前が扱わなきゃにゃ~。……嫌なら止めたって良いんだぜぇ? 別にオレ様宿主がお前じゃなくても別に』

「いいや。……やるよ」


 その時、オレは初めて明確な自分の意思だけで“傲慢の獅子”を発動した。出来る気がしたから。


 身体を薄らと赤い靄が覆い、力が溢れる感覚の中、オレは目の前の子猫にはっきりと宣言する。


「オレは勝たなきゃいけない。勝ってユーノとアナを戦わせず、先生とヒヨリを助け出す。その為にお前を使いこなさなきゃっていうんなら、ここで尻込みなんてしてらんないよ」

『……へへっ。良いだろう。。そしてその為なら自分がどうなろうと他人からどう思われようと突き進む自分勝手さ。その傲慢さこそ“傲慢の獅子”の宿主にふさわしい。どこまでやれるか見ててやるにゃ』

「ああ。見てろよ! 見事お前を扱いきってやるからな!」


 ニヤリと嗤う子猫に、オレはそう啖呵を切り…………そのまま力を使い果たしてぶっ倒れた。





『カッコつけるのは良いけどさぁ、まずはもうちょい長持ちさせような』

「……分かってるよ」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?