ちょっと悔しいけど、子猫はブライト様よりずっと教え方が上手かった。まあある意味当然かもだが。
『良いか? “傲慢の獅子”の力は要するに
『これまであんたはただ力が欲しいとだけ望んでいた。だから
『自分の勝ちとは何か? 勝つにはどうしたら良いか? 力が強くなれば良いのか足が速くなれば良いのか、はたまた時間を稼げれば良いのか? その辺りをなるべく詳しく考える事。そうしたら後は……
その時の子猫の悪い笑みは、まるで御伽噺に出るヒトを誘惑して契約を強いる悪魔のようで。
『明確な力のイメージと支払う代価があるのなら、オレ様が必ずその望みを叶えてやる。お前さんを最強にしてやる……まあご利用は計画的に。払い過ぎて干からびてもお釣りなんか出ないからにゃ!』
「兄さん。あんまり根を詰めすぎないでね」
ある日、訓練でへばって休んでいる時、ユーノに回復してもらいながらそう語りかけられた。
「えっ!? そんなに疲れてるように見えたか?」
「見えるっていうか、わたしが居なかったらもう倒れてるってブライト様が仰ってたよ」
「そうか……へへっ! ユーノにはいつも助けられてばっかりだな! ありがとうよ」
ユーノは村に居た頃より格段に凄くなっていた。打撲くらい数秒で治るし、疲労も少し診てもらえれば吹っ飛んでいく。ブライト様によれば、このまま育てばいずれ手足が千切れても治せるらしい。
「……兄さん。やっぱり戦いに出るの止めようよ。わたし兄さんに傷ついてほしくないよ」
「心配するなって。このスキルは凄いぜ! 使いこなせば誰にも負けやしない。そうすればあの勇者候補だって無傷で」
「嘘……それは嘘だよ。使う度に自分を削っていくスキルを使う時点で無傷じゃない。……やっぱり止めようよ。ほらっ! もう一人のワタシに任せよ! それにわたしも沢山練習したから、どんな怪我させられてもへっちゃらだよ……だからお願い」
ユーノは顔を曇らせて泣きそうな顔をする。でも、
「それこそ嘘だろ? ユーノ震えてるじゃんか。怪我が治せても怖い事は変わらないんだろ? ……アイツが勇者を狙う以上、どんな手を隠しているか分からないから戦わせるわけにはいかない。それにさ」
オレはユーノを安心させるようににっこりと微笑む。
「オレ、今のユーノも勇者の方のユーノも大事な妹だからさ。矢面に立たせちゃ兄貴失格だ。だからこれはどうしても譲れない。ごめんよ」
そう。優しいユーノがオレが傷つくのを嫌がるのは当然だ。でもオレもユーノに傷ついてほしくない。どっちか選べと言われたら、オレの方が傷つく方を無理やり選ぶ。これがオレの……子猫の言う傲慢って奴なんだろうな。
「…………まったく、
ほんの一瞬ユーノの雰囲気が変わったと思ったら、そのまま何も言わずに治療だけ進み、
「……はい。もう良いよ。それと見えないけど傲慢の獅子さんは居るの?」
「居るよ。今もここでニヤニヤ見てる」
オレの腹の上で寝そべっている子猫を指さすと、ユーノはその辺りに向けてゆっくりと頭を下げた。
「お願いします傲慢の獅子さん。どうか、兄さんにあまり無茶をさせないでください。どうか」
『それは宿主さん次第かにゃ。妹泣かすのが嫌なら、精々上手くオレ様を使うこったね』
「任せとけだってよ。だから心配するな!」
オレはユーノにそう伝えながら、子猫を転がしてどかしつつ立ち上がる。
レットがオレとの決闘を望んでいると聞かされたのは、そのすぐ後の事だった。