『着いたわよぉ。ここが戦いの舞台』
「……ふ~ん」
ジャニスに連れられたその場所を、アナは一見興味ない素振りを見せながらも注意深く観察する。
おおよそ半径20メートルほどのリング。一般人同士の使用を想定するとかなり広い。しかしそれより特異なのは、
「リングが
『正確には箱型の力場ね。この壁はそれこそ神族の一撃でも短時間なら耐えられる強度がある。アナタ達が全力で戦っても周囲に影響を与えない為の物よ』
リングを囲う薄緑の半透明の壁。軽くジャニスが弾くと波打つように動く様を見て、アナは目をぱちくりさせる。
そのまま少し色の違う場所から入ると、既にリングの反対側でライとブライトが待っていた。そして、
『いよいよだな。勝てそうかライ?』
「勝てそうかって? 勝ちますよ!」
『アナ。準備は良いかしら?』
「……うん。勿論」
最後にそれぞれの神族に付き添われ、戦う二人がリングへと上がる。
コツン。コツン。
スタスタ。スタスタ。
リング中央へ歩む二人と二柱。その歩みに淀みはなく、迷いもなく、狙うは……勝利のみ。
(……んっ!?)
互いに向かい合った時、ライはほんの少し奇妙な違和感を感じた。だがそれを口にするより前に、
『これより、勇者の守り手ライ・ブレイズ対勇者候補アナの決闘を始める。立会人はこの俺、七天主神ブライトと』
『同じく七天神ジャニスが立ち会うわ』
二柱の神族の宣言が開始される。
『ルール説明だが……まあ単純だ。互いにやり合って、降参するか明らかに戦闘続行がキツい強烈な一撃を喰らわすか、まあ気を失っても負けかな』
『付け加えるのなら、武器も魔法でも何でも使用可能よ。勿論……
暗に大罪スキルもアリと認めているジャニスだったが、それはもう互いに織り込み済みである。ライもアナも、細かな能力は不明だが相手が大罪スキルを持つ事は知っている。そんな中、
『ああ。一つ言い忘れてたが、お前らリング内にこれが浮かんでいるのに気付いたかな?』
ブライトが急に何かを懐から取り出した。それは薄紅色の手のひら大の球体で、その言葉にライが周囲を見回すとあちらこちらに同じ物が浮いている。
「これは何ですか?」
『ああ。実はこれを通して、
「はぁ? 配信って……良く分かんないですけど、この様子が聖都で流れてるって事ですかっ!?」
声を上げるライと僅かに眉を上げるアナ。二人を尻目に、ブライトはどこか楽しそうに両手を広げる。
『何せこの前の式典の時に、ウチの市民達に特等席で見せてやるって言っちまったからな。お前さんがそこの勇者候補に目にもの見せる瞬間をよ! という訳で頑張んな! 見応えのある試合を期待するぜぇ』
そう言って手をひらひらさせるブライトに対し、ライは微妙に顔を歪ませて歯ぎしりする。
『俺の方からはおおよそこんな所だが、ジャニスからは何か言う事は?』
『特には何も。これはあくまでアナが勇者に挑む前の前哨戦だもの。強いて言うのなら一つ確認を。……この戦い
その言葉に一瞬周囲の雰囲気が重くなる。だが、ブライトからの返事は至って軽く、
『特に罰則はねぇよ。その場合
ズンっ!
次の瞬間、強烈な圧がジャニスに向けて叩き込まれる。発信源は勿論ブライトだ。
『不慮の事故やダメージが積み重なってならまだしも、明らかにマズい状態になったらそもそもストップをかけるね。そこのライ君は俺の大事な玩具の一つだ。勝手に壊してくれるなよ』
『そうね。なら、そのように』
故意に壊そうとするなら止めるという明確な意思を叩きつられるものの、ジャニスはそれくらいの圧は来るだろうなと分かっていたから平然としたもの。
そうしてフフフと口元だけで笑い合う二柱だったが、
「……ねぇ。話が終わったのなら」
「さっさと圧を解いてくれませんかねぇっ!?」
『おっと。こりゃ悪かったな』
余波とはいえ神族の圧を受け、微妙にダメージを受けながらも
『さ~てそろそろ決闘開始だが……最後に当事者同士で話す事はあるか? 内緒話がしたいってんなら、そこの女神様をちょっとだけ抑えといてやっても良いぜ』
『あらあら。ブライトったら。そんな理由付けをしなくったって、ワタシはいつでも席を外して二人っきりになって良いのに』
ジャニスがどこか頬を上気させて悶える中、ブライトはそうじゃねぇよとツッコミを入れながらライ達に尋ねる。すると、
「それじゃ、良い機会だから少しお願いできますか? 二、三聞きたい事があって」
『良いとも。じゃあ三分ほど席を外すから、その間は中継もストップをかけてやるよ。じゃ、ごゆっくりお二人さん! ジャニス行くぞ!』
『ふふっ! アナ。つい逸って一足早く仕留めてしまわないようにね』
「そんな事しないけど」
そう言ってパチリと指を鳴らし、どこかへと姿を消す二柱。そして残ったライとアナはというと、
「よぉ。この前の式典ぶりだな」
「……ええ」
どこかぎこちない会話から始まった。