(な~んか調子狂うんだよな)
ライが感じた違和感の正体。それはじっと見ていく内に何となく分かってきた。それは、
「なぁ。お前……なんか前会った時と雰囲気が違くないか?」
そう。ライからすれば本当に同一人物かと思うほど、以前戦った時とはアナの雰囲気が違っていた。
ドロドロとした憎悪は鳴りを潜め、代わりに見えるのは強い決意とほんの僅かな憤怒。しかし在るだけで周囲を害する類ではなく、完全に内側へと制御されているそれだった。
「そう見える? ちょっと、自分を変えるきっかけになったヒト達が居たから」
「そっか。良い人と会えたんだな。……ちょっと待った? それってまさか」
「うん。一人はカイト。
微妙にわたしの部分を強調するような言葉に、ライは少しカチンとする。
「はっ! 攫っといてトレーナーかよ。よく言うぜ」
「その証拠に、わたしに全力でやると良いと言って見送ってくれた。そっちがどう言おうと、今はわたしのトレーナー。……少なくともこの戦いが終わるまでは」
後ろの言葉が小さくてよく聞き取れなかったライだったが、それより聞くべき事があった。それは、
「一応聞いとく。先生は無事なんだろうな? 酷い目に遭わせてたりしたら、俺はお前達を許さない」
「酷い目……か。そうね……そうかもしれない」
一瞬その言葉に掴みかかろうとしたライだったが、アナから感じる雰囲気に少しだけ手を止める。
「カイトは酷い目に遭うと承知でわたしを助けた。だから、わたしも彼を助けたい。この戦いで勝とうが負けようが、カイトは無事あなた達の所に帰る。そうジャニスとも約束した」
嘘は言っていない。そうライが感じるほどにアナの言葉は真摯だった。なので、ライも分かったと静かに返す。
「……でもそれはそれとして」
「うんっ!?」
流れが変わったぞと考えるライを尻目に、アナははっきりと宣言する。そう。
「わたしは勇者を倒して新しい勇者に成る。だから……お前は邪魔。カイトが悲しむから命までは取らないけど、ここで仕留める」
「悪いけどそれはダメだね。勇者はユーノで、ユーノは俺の大切な妹だ。妹を守るのが兄貴の務め。お前は心底悪い奴じゃなさそうだけど……ユーノを傷つけようって言うなら止めさせてもらう」
ダンっ!
ライは一歩踏み出してアナを睨みつけ、アナもまたライを睨み返す。
「勝つのは俺だっ!」
「いいえ。……わたし」
『ヒュ~! 開始前からバチバチだなお二人さん。やる気なのは大いに結構だ』
『ワタシも安心したわ。妙な手心を加えるのではと思っていたけど、殺さずとも倒す気持ちはまるで消えていないもの』
いつの間にか戻ってきていた神族二柱に冷やかされながらも、二人はそれ以上は語らず闘志を燃やす。そして、開始に備えて互いに少しずつ距離を取り、
『決闘開始の合図は……そうだな。由緒正しくコイツにするか』
ブライトが取り出したのは一枚の硬貨だった。ご丁寧に表面にはブライトの顔が彫られている。
『コイツを投げ上げて床に落ちた瞬間決闘開始だ。その時俺とジャニスも邪魔をしないようにリングから離れる。後は存分にやりな』
「分かりました」
ライからの返事もそこそこに、ブライトは硬貨を指の上に乗せ、
キイィィンっ!
澄んだ音を立てて、硬貨はくるくる回転しながら高く宙を舞う。すぐ最大到達点を迎え、落下までそうかからない。そんな時、
「一つ、宣言しておきたいのだけど」
手を上げてアナが急に声を上げたので、ここに居る全員は何事かと耳を澄ます。すると、
「
「奇遇だな。俺もそう言おうと思ってた」
アナが静かに宣告する中、それに負けじとライも不敵な笑みを浮かべる。
そう話している間に硬貨は落下を始め、長い長い数秒間の後、
カツン!
ガキイィンっ!
そこに響いたのは二つの音。一つは硬貨がリングに落ちた音であり、もう一つは、
「……ふぅ。初手で決めるのが一番良かったのだけど」
「お生憎様。さっきの言葉がまさかソイツへの合図とはな。最初から息を殺して待っていたって訳か」
『よぉワン公! 久しぶりだな。今はその宿主のお守りか?』
『そちらもな。
開始早々影より奇襲をかけた憤怒の狼の爪を、