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同時刻。聖都では二人の戦いが中継されていた。
ブライトが街中に配置したモニター。それを食い入るように見守る市民達は手に汗握り、また一部の有識者、実力者は二人と共に戦う大罪の獣に注目している。
まあおおよその所、市民達の目はモニターにくぎ付けだった。そんな中、
聖都“輝ける栄光亭”の一室。ジャニスの拠点にて。
「突入っ!」
バンっと扉を開き、そこに大勢がなだれ込む。
それはブライト直参の兵や親善大使団の護衛、はたまた依頼を受けた『鋼鉄の意思』のメンバーと様々。
だが、その目的は一つだった。
勝敗がどうあれ、ジャニスが開斗を気に入ってしまった以上素直に帰さない可能性が存在した為、ジャニスが戦いを見守っている間にこっそり救出するというブライトの判断であった。だが、
「……変だぞ。誰も居ないっ!?」
そこは、
同時刻。聖都。大神殿の一室。
『うふふ……こんにちは。護衛も居ないなんて不用心でなくて?』
その部屋の主に対し、いつの間にかやってきたジャニスは悠然と微笑んだ。
『あら? 声も出ないの? かわいらしい事。まあもっとも、ブライトの手勢がワタシの拠点に乗り込んでくるタイミングを計ってこちらに来たのだけどね』
椅子に座り、白いフードを被って顔を隠し、モニターから目を逸らさない部屋の主に対して、ジャニスはどこか嗜虐的な笑みを浮かべる。
それもその筈。モニターには確かに、戦いをリングの外で見守るブライトとジャニスの姿があるのだ。
『不思議に思っているみたいね。あれは分身。戦いにブライトが見入っている間にこっそり入れ替わったの。といってもあちらも力の総量が少ないだけでワタシなのは変わらないけれど』
『何故ここにと思っているのかしら? それは勿論アナタが狙いよ勇者様。……と言っても命を取るつもりはないわ。そんな事したらブライトも黙っていないでしょうし、アナのエモノを取るのも少しかわいそうだもの』
『ワタシはちょっと、ちょっとだけ細工をしておきたいだけ。それも勇者ではなく、ヒトとしてのアナタの方に。うふふ……じっとしていて。すぐに終わるわ』
実際ここまでは全てジャニスの思惑通りだった。
試合を注視するブライトと観客達。自らの
それもこれもみな、ここで勇者と邪魔者無しで接触するため。開斗達を取り返されるのは惜しいが、勇者に手を加えられるのなら悪い話ではない。
正攻法で最悪アナが勝てずとも、それはそれとして手を打っておくための布石。
それら諸々を含めて伸ばしたジャニスの手は、
ガシッ!
『お~っと。お触りは厳禁だぜぇ』
ニチャアと擬音が付きそうな嫌な笑みと共に、
『なっ!?』
『遅い』
素早く身を翻そうとするジャニスを掴んだまま、ブライトはもう片方の手を軽く振って何かを呟く。すると、
『ようこそ。俺の庭へ』
『……まいっちゃったわね』
眼下にはまるで豆粒のように遠くに見える聖都。あのたった一瞬でここまで跳んだ事に、ジャニスも驚きを隠せない。
『どうして分かったの?』
『良い女の事は何でもお見通し……と言いたい所だが、ちょっとしたご注進があってね』
『……そう。あのトレーナーさん達ね』
懐から見覚えのある紙の束をちらつかせるブライトに、ジャニスはハッとして苦笑する。そう。それこそは以前開斗がブライトに託した、ライ達への手紙の束だった。
『俺は最初、試合に乱入か何かすると踏んでお前さんから目を離さないつもりだったが、まさかそれも陽動で勇者を直で狙うつもりだったとはな。だが、こうなっちゃあどうしようもねぇよ』
パチンと指を一鳴らし。自分とジャニスを囲う様に無数の光の玉を出現させてブライトは不敵に笑う。
『“闇と影を司る者”。“深淵を揺蕩う華”。お前さんの能力が厄介なのはよ~く分かってる。だがな、ここにはてめぇお得意の闇も影もありゃしねぇ。……ここなら邪魔も入らない。久々に二人っきりで
『酷い
聖都の上空。もっとも天に近い場所で、二柱の神族が激突した。