魔王を打倒したいま、これからどうするのか。
答えがあるようでいて、ない問いかけだ。皆が一瞬、考え込む。
「我は
口火を切ったのは、ハラズーンだった。
「神官も王も、なるのはつまらん。だが果たさねばならぬ責任だ」
「ハラズーンさん……」
ハラズーンは神官となるべく育ち、いまは冒険者だ。しかし竜人たちの王に望まれてもいる。魔王を倒したいま、竜人の王になるべく故郷に帰るときが来たと言える。
「冒険者としての人生はおもしろい。実におもしろかった!」
ハラズーンは快活に笑った。
「だがここいらが潮時だ。我はルーガノンの王となる」
「ああ、それがいいだろう」
ハラズーンの言葉に、ジェイドが同意した。ハラズーンはカイルに視線を向ける。
「カイル、おぬし、ルーガノンへ来ぬか?」
「え?」
突然の申し出に、カイルがぱちくりと目を丸くする。
「ずっと考えておったのだ。我は王なぞなったことがないゆえな。我の補佐官として、エルフの王がいてくれれば心強い!」
「で、でも……それは……」
カイルが困惑したように下を向いた。
カイルはずっと、ルウルウたちを裏切ってきた身だ。そんな彼を、ハラズーンは信頼すると言ってくれている。
カイルがわずかに顔を上げる。
「いいのか、な……?」
「おうよ、王よ! 道化師でない働きを期待しておるぞ!!」
ハラズーンがカラカラと高笑いをする。
「ありがとう……」
カイルの目から、ポロポロと涙があふれる。喜びの涙だった。
ルウルウも嬉しい気持ちになった。
「よかった、よかったね、カイル……」
「うん……」
カイルの涙が、皆の気持ちをほぐすようだった。ルウルウはランダに視線を向ける。
「ランダさんは……どうするんですか?」
「アタシはトーリアに戻るよ。クリスティアが待ってる」
ランダの故郷にして因縁深い土地、トーリア。ランダはそこに帰ることを決心した。信頼する友たちがいて、顔も知らなかった父親がいたはずの土地へと、帰るのだ。
「クリスティアに全部話して、それから身の振り方を決めるさ」
ランダがそう言うと、ルウルウには願う心が生まれていた。クリスティアがランダのことを疎まず、従来の友情をもって接してくれたらいい――そういう思いだ。
「きっと、クリスティア様はランダさんを受け入れてくれます」
「そうだといいけどね」
ランダは苦笑した。
ハラズーンがジェイドとルウルウに視線を向ける。
「剣士、それに魔法使いよ。そなたらはどうするのだ?」
ハラズーンがジェイドとルウルウに尋ねる。
「そうだな。ギルドのおやっさん……オーブリー殿には、挨拶に行かないとな」
冒険者ギルドの支部長オーブリー。ルウルウとカイルに冒険者の身分を与えてくれた人だ。彼はハーリス山北西の街で、いまも支部長として活躍していることだろう。
「アシャ殿にも会ってみたい」
ハーリス山の麓で出会った、ハーフエルフの老賢者アシャ。彼女にも、魔王消滅の顛末を聞いてほしいものだ。魔王を嫌っていた彼女は、さぞ粗暴な言葉を使って喜ぶに違いない。
「そのあとは、どうするんだい?」
「……わからない」
ジェイドは首を横に振った。
「正直なところ、なにも決めていない」
このジェイドがなにも決めていない、などと言うのは珍しい。決めていたことが消えてしまったのかもしれない。ルウルウにはそう感じられた。
ジェイドがルウルウを見る。
「ルウルウ、君は……なにかしたいことあるか?」
「わたしは……」
尋ねられて、ルウルウは自分を顧みる。みずからもまた、答えを持たない身だ。だから言えることは、ひとつしかない。
「わからない」
師匠たるタージュは消えた。彼女と過ごした家ももはや失われた。
「わからないや……」
ルウルウはそう言って、寂しそうに笑った。