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第1-2話 帰還、そして(2)

 魔王を打倒したいま、これからどうするのか。

 答えがあるようでいて、ない問いかけだ。皆が一瞬、考え込む。


「我は竜人谷ルーガノンへ戻るぞ」


 口火を切ったのは、ハラズーンだった。


「神官も王も、なるのはつまらん。だが果たさねばならぬ責任だ」

「ハラズーンさん……」


 ハラズーンは神官となるべく育ち、いまは冒険者だ。しかし竜人たちの王に望まれてもいる。魔王を倒したいま、竜人の王になるべく故郷に帰るときが来たと言える。


「冒険者としての人生はおもしろい。実におもしろかった!」


 ハラズーンは快活に笑った。


「だがここいらが潮時だ。我はルーガノンの王となる」

「ああ、それがいいだろう」


 ハラズーンの言葉に、ジェイドが同意した。ハラズーンはカイルに視線を向ける。


「カイル、おぬし、ルーガノンへ来ぬか?」

「え?」


 突然の申し出に、カイルがぱちくりと目を丸くする。


「ずっと考えておったのだ。我は王なぞなったことがないゆえな。我の補佐官として、エルフの王がいてくれれば心強い!」

「で、でも……それは……」


 カイルが困惑したように下を向いた。

 カイルはずっと、ルウルウたちを裏切ってきた身だ。そんな彼を、ハラズーンは信頼すると言ってくれている。


 カイルがわずかに顔を上げる。


「いいのか、な……?」

「おうよ、王よ! 道化師でない働きを期待しておるぞ!!」


 ハラズーンがカラカラと高笑いをする。


「ありがとう……」


 カイルの目から、ポロポロと涙があふれる。喜びの涙だった。

 ルウルウも嬉しい気持ちになった。


「よかった、よかったね、カイル……」

「うん……」


 カイルの涙が、皆の気持ちをほぐすようだった。ルウルウはランダに視線を向ける。


「ランダさんは……どうするんですか?」

「アタシはトーリアに戻るよ。クリスティアが待ってる」


 ランダの故郷にして因縁深い土地、トーリア。ランダはそこに帰ることを決心した。信頼する友たちがいて、顔も知らなかった父親がいたはずの土地へと、帰るのだ。


「クリスティアに全部話して、それから身の振り方を決めるさ」


 ランダがそう言うと、ルウルウには願う心が生まれていた。クリスティアがランダのことを疎まず、従来の友情をもって接してくれたらいい――そういう思いだ。


「きっと、クリスティア様はランダさんを受け入れてくれます」

「そうだといいけどね」


 ランダは苦笑した。

 ハラズーンがジェイドとルウルウに視線を向ける。


「剣士、それに魔法使いよ。そなたらはどうするのだ?」


 ハラズーンがジェイドとルウルウに尋ねる。


「そうだな。ギルドのおやっさん……オーブリー殿には、挨拶に行かないとな」


 冒険者ギルドの支部長オーブリー。ルウルウとカイルに冒険者の身分を与えてくれた人だ。彼はハーリス山北西の街で、いまも支部長として活躍していることだろう。


「アシャ殿にも会ってみたい」


 ハーリス山の麓で出会った、ハーフエルフの老賢者アシャ。彼女にも、魔王消滅の顛末を聞いてほしいものだ。魔王を嫌っていた彼女は、さぞ粗暴な言葉を使って喜ぶに違いない。


「そのあとは、どうするんだい?」

「……わからない」


 ジェイドは首を横に振った。


「正直なところ、なにも決めていない」


 このジェイドがなにも決めていない、などと言うのは珍しい。決めていたことが消えてしまったのかもしれない。ルウルウにはそう感じられた。


 ジェイドがルウルウを見る。


「ルウルウ、君は……なにかしたいことあるか?」

「わたしは……」


 尋ねられて、ルウルウは自分を顧みる。みずからもまた、答えを持たない身だ。だから言えることは、ひとつしかない。


「わからない」


 師匠たるタージュは消えた。彼女と過ごした家ももはや失われた。


「わからないや……」


 ルウルウはそう言って、寂しそうに笑った。

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