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第2-3話 宴(3)

 数日後――。

 ジェイド、ランダ、そしてルウルウが出立する日になる。目指すはランダの故郷、トーリアである。そこまで厳しい道が続くため、旅の準備は入念に行われた。


 関所まで、ハラズーンとカイル、アシャ、そして幾人かの竜人たちが見送りに来る。


「ほな、達者でな」

「さらばだ、我らの友よ」


 アシャとハラズーンが別れの挨拶をする。

 カイルもルウルウたちの前に進み出た。


「さようなら、ジェイド、ランダ」

「ああ。お別れだ、カイル」

「元気でな。今度はしっかりやりなよ!」


 カイルの言葉に、ジェイドとランダが応じる。カイルは笑ってから、ルウルウを見る。


「さようなら、ルウルウ」


 改めて挨拶されると、ルウルウの心に寂しさが湧き上がってくる。ルウルウの目がうるうると涙で潤んでしまう。


「カイル……!」

「ハハ、泣くなよ~……」


 ルウルウとカイルはたがいに腕をつかんで、別れを惜しんだ。見れば、カイルの瞳にも涙が浮かんでいる。


「お別れなんて、永遠じゃない。きっとまた会えるよ、ルウルウ」

「ありがとう、いままでありがとう……カイル」


 ルウルウはありったけの思いをこめて、カイルに礼を言った。竜人たちがもらい泣きしていた。


「さようなら、ハラズーンさん、アシャ様。さようなら、カイル」


 やがてたがいを離し、ルウルウはジェイドたちとともに旅立った。カイルとハラズーン、それにアシャがいつまでも見送ってくれていた。

 やがて竜人谷の関所が見えなくなる。厳しい道のりが始まる。


「寂しいかい、ルウルウ?」


 歩きながら、ランダが尋ねてくる。ルウルウはすこしうつむいたあと、顔を上げた。


「いいえ、きっと……また会えると思います」

「そうだね、アタシたちは友達なんだからさ」


 ランダが笑う。次は、彼女との別れが待っている。

 ランダはすでに決心しているようだ。自分の因縁を盟友たちに語り、そしてなにを言われようと、故郷トーリアに留まると。彼女がこれからどんな立場になるかは未知数だった。


 トーリアを目指して、ルウルウ一行は旅をした。山岳地帯の道のりは厳しい。深い森と上下する街道を越えていく。途中に里があれば、そこへ泊まった。なければ野宿だ。


 あせる旅路ではない。十日ほどかけて、ルウルウたちはトーリアの街へと至った。トーリアがどこか陰気な城下町なのは、変わっていなかった。午後になれば山陰が街に落ち、薄暗くなってくる。陽気な活気はない――と思われた。


 ルウルウたちは街の酒場へと顔を出した。冒険者ギルドの小さな支部がある酒場だ。ギルド受付の老人に名乗ると、老人はトーリア城へ知らせを走らせてくれた。「義賊ランダ、帰る」という手紙を持った若者が、トーリア城へと向かう。


 ほどなくして、トーリア城から返事が来た。トーリア領主クリスティア・ドーンから、「すぐ会いたい」という返事だった。


 ランダを先頭に、一行はトーリア城へと向かった。トーリア城は、国境を守る要塞のおもむきがある領主の居城だ。そこには、トーリア領主クリスティアが暮らしているはずである。


「ランダ様! よくぞお戻りになられました!!」


 知らせを受けて、トーリア城の奥からクリスティアが足早に出てきた。彼女に仕える家令や家臣たちも続いて出てくる。


「クリスティア!」

「ランダ様! ご無事で……!!」


 クリスティアはランダに走り寄ると、人目もはばからず抱きついた。ランダは苦笑して、クリスティアの背中をポンポンと軽く叩いた。


「ありがとう、クリスティア」

「ランダ様はこれから……トーリアにいてくださるのですよね?」

「それなんだけど……」


 ランダは気まずそうに表情を曇らせた。クリスティアが心配そうな表情になる。


「ふたりで話したいんだ、クリスティア」

「……はい」


 クリスティアは客間にジェイドとルウルウを案内させた。自身はランダとともに、別室へと向かった。


「……ランダさん、大丈夫かな」


 ルウルウは客間で休みつつ、ランダを心配した。

 ジェイドが荷物を点検しつつ、うなずく。


「大丈夫だ。ランダは強いひとだからな」

「そうだね」


 次の出立に向けて、ルウルウとジェイドは荷物をチェックする。そんなルウルウたちのもとに軽食が運ばれてくる。温かいハーブ茶と、ナッツ類を蜂蜜で固めた菓子だ。ハーブ茶の渋みを、甘い菓子が和らげてくれる。小腹が空いていたこともあって、ルウルウは夢中で食べた。


「おいしい……」

「ああ、ほっとする」


 菓子を平らげて、ルウルウはほっと一息ついた。この菓子を、ランダたちは食べているだろうか。甘い菓子で気持ちが落ち着けば、きっと話し合いも上手くいくに違いないとルウルウは思った。


 それからしばし、時間が経つ。


「待たせたね」


 客間にランダが入ってくる。クリスティアもともにやってくる。クリスティアの目元が赤い。どうやら泣いてしまったらしい。


「ランダさん、その……」


 ルウルウはためらいがちに状況を聞こうとした。ランダがニッと笑う。


「ああ、アタシの旅はここまで。これからはクリスティアを支えていくよ」

「ルウルウ様、ジェイド様。本当に……ご苦労なされたことと思います。ランダ様を無事に届けてくださって、感謝のしようもございません」


 クリスティアがルウルウたちに深々と一礼した。

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