数日後――。
ジェイド、ランダ、そしてルウルウが出立する日になる。目指すはランダの故郷、トーリアである。そこまで厳しい道が続くため、旅の準備は入念に行われた。
関所まで、ハラズーンとカイル、アシャ、そして幾人かの竜人たちが見送りに来る。
「ほな、達者でな」
「さらばだ、我らの友よ」
アシャとハラズーンが別れの挨拶をする。
カイルもルウルウたちの前に進み出た。
「さようなら、ジェイド、ランダ」
「ああ。お別れだ、カイル」
「元気でな。今度はしっかりやりなよ!」
カイルの言葉に、ジェイドとランダが応じる。カイルは笑ってから、ルウルウを見る。
「さようなら、ルウルウ」
改めて挨拶されると、ルウルウの心に寂しさが湧き上がってくる。ルウルウの目がうるうると涙で潤んでしまう。
「カイル……!」
「ハハ、泣くなよ~……」
ルウルウとカイルはたがいに腕をつかんで、別れを惜しんだ。見れば、カイルの瞳にも涙が浮かんでいる。
「お別れなんて、永遠じゃない。きっとまた会えるよ、ルウルウ」
「ありがとう、いままでありがとう……カイル」
ルウルウはありったけの思いをこめて、カイルに礼を言った。竜人たちがもらい泣きしていた。
「さようなら、ハラズーンさん、アシャ様。さようなら、カイル」
やがてたがいを離し、ルウルウはジェイドたちとともに旅立った。カイルとハラズーン、それにアシャがいつまでも見送ってくれていた。
やがて竜人谷の関所が見えなくなる。厳しい道のりが始まる。
「寂しいかい、ルウルウ?」
歩きながら、ランダが尋ねてくる。ルウルウはすこしうつむいたあと、顔を上げた。
「いいえ、きっと……また会えると思います」
「そうだね、アタシたちは友達なんだからさ」
ランダが笑う。次は、彼女との別れが待っている。
ランダはすでに決心しているようだ。自分の因縁を盟友たちに語り、そしてなにを言われようと、故郷トーリアに留まると。彼女がこれからどんな立場になるかは未知数だった。
トーリアを目指して、ルウルウ一行は旅をした。山岳地帯の道のりは厳しい。深い森と上下する街道を越えていく。途中に里があれば、そこへ泊まった。なければ野宿だ。
あせる旅路ではない。十日ほどかけて、ルウルウたちはトーリアの街へと至った。トーリアがどこか陰気な城下町なのは、変わっていなかった。午後になれば山陰が街に落ち、薄暗くなってくる。陽気な活気はない――と思われた。
ルウルウたちは街の酒場へと顔を出した。冒険者ギルドの小さな支部がある酒場だ。ギルド受付の老人に名乗ると、老人はトーリア城へ知らせを走らせてくれた。「義賊ランダ、帰る」という手紙を持った若者が、トーリア城へと向かう。
ほどなくして、トーリア城から返事が来た。トーリア領主クリスティア・ドーンから、「すぐ会いたい」という返事だった。
ランダを先頭に、一行はトーリア城へと向かった。トーリア城は、国境を守る要塞のおもむきがある領主の居城だ。そこには、トーリア領主クリスティアが暮らしているはずである。
「ランダ様! よくぞお戻りになられました!!」
知らせを受けて、トーリア城の奥からクリスティアが足早に出てきた。彼女に仕える家令や家臣たちも続いて出てくる。
「クリスティア!」
「ランダ様! ご無事で……!!」
クリスティアはランダに走り寄ると、人目もはばからず抱きついた。ランダは苦笑して、クリスティアの背中をポンポンと軽く叩いた。
「ありがとう、クリスティア」
「ランダ様はこれから……トーリアにいてくださるのですよね?」
「それなんだけど……」
ランダは気まずそうに表情を曇らせた。クリスティアが心配そうな表情になる。
「ふたりで話したいんだ、クリスティア」
「……はい」
クリスティアは客間にジェイドとルウルウを案内させた。自身はランダとともに、別室へと向かった。
「……ランダさん、大丈夫かな」
ルウルウは客間で休みつつ、ランダを心配した。
ジェイドが荷物を点検しつつ、うなずく。
「大丈夫だ。ランダは強いひとだからな」
「そうだね」
次の出立に向けて、ルウルウとジェイドは荷物をチェックする。そんなルウルウたちのもとに軽食が運ばれてくる。温かいハーブ茶と、ナッツ類を蜂蜜で固めた菓子だ。ハーブ茶の渋みを、甘い菓子が和らげてくれる。小腹が空いていたこともあって、ルウルウは夢中で食べた。
「おいしい……」
「ああ、ほっとする」
菓子を平らげて、ルウルウはほっと一息ついた。この菓子を、ランダたちは食べているだろうか。甘い菓子で気持ちが落ち着けば、きっと話し合いも上手くいくに違いないとルウルウは思った。
それからしばし、時間が経つ。
「待たせたね」
客間にランダが入ってくる。クリスティアもともにやってくる。クリスティアの目元が赤い。どうやら泣いてしまったらしい。
「ランダさん、その……」
ルウルウはためらいがちに状況を聞こうとした。ランダがニッと笑う。
「ああ、アタシの旅はここまで。これからはクリスティアを支えていくよ」
「ルウルウ様、ジェイド様。本当に……ご苦労なされたことと思います。ランダ様を無事に届けてくださって、感謝のしようもございません」
クリスティアがルウルウたちに深々と一礼した。