数日後、ルウルウとジェイドは東へと旅立つ。
つまりはランダとの別れだ。トーリア城の前で、三人は別れを惜しんだ。ランダのほかに、クリスティアやランダの冒険者仲間たちも駆けつけている。
「お元気で、ランダさん」
「ああ、アンタたちも病気するんじゃないよ」
ランダはカラッと笑っていた。
むしろクリスティアの方が涙目で別れを惜しんだ。クリスティアの涙に、周囲の者たちもしんみりしている。
「ルウルウ様、ジェイド様……どうかご健勝で。いつかまた、遊びにいらしてください」
「そうだよ。いつでも遊びにおいで。いつだって歓迎だ」
「ありがとう、クリスティア姫、ランダ」
ジェイドが礼を言うと、ランダは一転、心配そうな表情になる。
「ジェイド、ルウルウを頼むよ」
「ああ」
「ルウルウ、ジェイドはああ言ってるけどね。なんか気に入らなかったら、雷でもブチこんでやりな!」
「ランダさん、そ、それは……」
ルウルウは笑ったような困ったような顔になる。ランダらしい冗談だとは思うが、半分本気で言っていそうなのが気にかかる。もしランダが魔法使いだったら、本当にジェイドに雷を打ち込むかもしれない。そんな勢いだった。
「はぁ……落ち着いたら、手紙でも寄越しなよ」
「ええ、きっと」
東へ向かい、それからどうするか。ルウルウとジェイドのあいだにはまだ結論が出ていない。どう結論づけるか、先送りしているのだ。
「どこからでも、手紙は出しなよ。何通か書いてひとにことづければ、一通くらい届くもんだ」
「ふふ、そうですね」
ランダがここで待っていてくれる。そのことがルウルウには急に心強く思えた。
「どこに行くことになっても、きっとランダさんにお知らせしますね」
「ああ、待ってる。いつでも、ね」
ランダとルウルウは抱擁を交わした。ランダはルウルウの背中をポンポンと軽く叩いた。次にジェイドとランダが握手する。手が離れると、ルウルウとジェイドはゆっくりと東の方角へ体を向けた。ゆるやかに歩き出す。十数歩進んで振り返ると、ランダたちが手を振っている。
「さようなら、ランダさん! ありがとうございました!」
「ああ、さよなら! どこへ行っても、アタシたちを忘れるな!」
山のあいだに響く声で、別れの言葉を交わす。しばらく手を振り合ったあと、ルウルウは行くべき先を見る。ジェイドも同じだ。
たったふたりで、東へと向かう。目的地はレハームの森だ。ルウルウが師匠タージュと暮らした森へと、向かうことにしていた。朝日に向かって、ルウルウたちは歩んでいく。
歩き続けると、やがてトーリアの地が見えなくなる。峻険な山道に、太陽の光が降り注ぐ。道端に春の花が咲いている。
「ランダさんに手紙を出すって約束したけど」
「ああ」
「ハラズーンさんやカイルにも、出したいね」
「そうだな」
ルウルウはジェイドとおだやかに言葉を交わした。
レハームの森は、まだまだ遠い。そこでどうするのか、ルウルウはすこしずつ考え始めていた。
つづく