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第2-5話 宴(5)

 数日後、ルウルウとジェイドは東へと旅立つ。

 つまりはランダとの別れだ。トーリア城の前で、三人は別れを惜しんだ。ランダのほかに、クリスティアやランダの冒険者仲間たちも駆けつけている。


「お元気で、ランダさん」

「ああ、アンタたちも病気するんじゃないよ」


 ランダはカラッと笑っていた。のいいランダらしい笑顔だった。

 むしろクリスティアの方が涙目で別れを惜しんだ。クリスティアの涙に、周囲の者たちもしんみりしている。


「ルウルウ様、ジェイド様……どうかご健勝で。いつかまた、遊びにいらしてください」

「そうだよ。いつでも遊びにおいで。いつだって歓迎だ」

「ありがとう、クリスティア姫、ランダ」


 ジェイドが礼を言うと、ランダは一転、心配そうな表情になる。


「ジェイド、ルウルウを頼むよ」

「ああ」

「ルウルウ、ジェイドはああ言ってるけどね。なんか気に入らなかったら、雷でもブチこんでやりな!」

「ランダさん、そ、それは……」


 ルウルウは笑ったような困ったような顔になる。ランダらしい冗談だとは思うが、半分本気で言っていそうなのが気にかかる。もしランダが魔法使いだったら、本当にジェイドに雷を打ち込むかもしれない。そんな勢いだった。


「はぁ……落ち着いたら、手紙でも寄越しなよ」

「ええ、きっと」


 東へ向かい、それからどうするか。ルウルウとジェイドのあいだにはまだ結論が出ていない。どう結論づけるか、先送りしているのだ。


「どこからでも、手紙は出しなよ。何通か書いてひとにことづければ、一通くらい届くもんだ」

「ふふ、そうですね」


 ランダがここで待っていてくれる。そのことがルウルウには急に心強く思えた。


「どこに行くことになっても、きっとランダさんにお知らせしますね」

「ああ、待ってる。いつでも、ね」


 ランダとルウルウは抱擁を交わした。ランダはルウルウの背中をポンポンと軽く叩いた。次にジェイドとランダが握手する。手が離れると、ルウルウとジェイドはゆっくりと東の方角へ体を向けた。ゆるやかに歩き出す。十数歩進んで振り返ると、ランダたちが手を振っている。


「さようなら、ランダさん! ありがとうございました!」

「ああ、さよなら! どこへ行っても、アタシたちを忘れるな!」


 山のあいだに響く声で、別れの言葉を交わす。しばらく手を振り合ったあと、ルウルウは行くべき先を見る。ジェイドも同じだ。


 たったふたりで、東へと向かう。目的地はレハームの森だ。ルウルウが師匠タージュと暮らした森へと、向かうことにしていた。朝日に向かって、ルウルウたちは歩んでいく。


 歩き続けると、やがてトーリアの地が見えなくなる。峻険な山道に、太陽の光が降り注ぐ。道端に春の花が咲いている。


「ランダさんに手紙を出すって約束したけど」

「ああ」

「ハラズーンさんやカイルにも、出したいね」

「そうだな」


 ルウルウはジェイドとおだやかに言葉を交わした。

 レハームの森は、まだまだ遠い。そこでどうするのか、ルウルウはすこしずつ考え始めていた。



 つづく

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