目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第90話

 やがて地下深くと思われる場所へといざなわれるようにしてやってきた俺たち

「ここは」

「分かるのか?」

「ボクたちここでたくさん人を殺す訓練を受けたんだ。三号と、一緒に」

 やはり暗殺術を教え込んでいたのか、こんな子供に

 しかもいざとなればターゲットを巻き込んで自害するように教育されている

 許せないな

「人の気配がない。もしかして拠点を移動したのかも」

 ガーディの言う通り、その可能性はあるだろう

 でも俺は不穏な気配を感じていた

 この場所までまるでおびき寄せられたかのようにスムーズに来れた

 暗殺集団ならもっと警戒してしかるべきだろう

 それなのに何もなかった

「何かいます。気を付けて!」

 マナの声と共にファンファンが何かに襲われた

「ぐ、なんだこいつ」

 大剣を即座に抜いてその攻撃を受け止めたファンファン

 姿が見えた

 獣耳を生やした少年?少女?

 どちらか分からないが、驚いている間に視界からまた消えた

 次にダンの仲間のそばに現れる

「ぐあ!」

 剣士の男性が斬りつけられ倒れた

「ドイル!」

 回復職の女性が駆け寄って傷を治そうとしたが、そこを狙われて斬りつけられた

「アンナまで、くそ!」

 ダンは周りを見渡してその子供の動きを見極めている

「きゃぁ!」

 マナの声が聞こえて振り向くと、彼女は太もも辺りを斬りつけられていた

「そこだ!」

 その隙をついてダンは姿を見つけたのか、剣でマナの前方あたりを斬った

 だがあり得ない挙動でそれを回避すると、スタッと部屋の中央に立った

 そこでようやく全容が見えて来る

「その顔・・・、三号、なの? なんでそんな、ことに、その姿はなに!?」

 四号が突然そう叫んだ

 どうやら目の前にいる子供が三号で、四号の言葉から、その子供は姿が変わっていると分かる

「なんで、人間族だったはずなのに、獣人族になってる」

「ここでは人体改造もしてるのか?」

「知らない、知らないよ・・・。ねえ三号どうしたの!? ボクだよ!」

 三号は何も語らず、四号をギロリと見た

「三号・・・」

 そして三号は今度は俺に目を向け、俺の目の前から消えた

「うお!」

 すぐに気配がした右に包丁を向けると、そこに目に見えない何かがあたった音がした

「油断するな! 後ろだ!」

 ダンに言われ後ろに包丁を振ろうとしたが間に合わない

 背中から脇腹にかけてを切り裂かれた感触があった

 冷たいものが腹を通る感触がして、そこから温かいものがどろりと流れ出る

「あ、これ」

 脇腹からあふれ出る血

「旦那様! てめぇよくも俺の旦那様を!」

 ファンファンは怒りで大剣を大きく振り下ろし、地面を穿った

 それでバランスを崩した三号が姿を現した

 俺はすぐに薬を飲んで内臓がこぼれ出そうになっていた傷を回復する

「アネモネ!」

「はい! バインド!」

 アネモネの魔法のおかげで三号の動きが止まった

 俺はすかさず三号の腹部に突きを入れて気絶させる

「お、うお、すごいなカズマ。済まねえが今の薬、仲間にも分けてもらえないか?」

「ああもちろん」

 ダンの仲間二人とマナの傷はそこまでひどくない

 俺の下級ポーションで充分だった

 だが

「三号、なんでこんな姿に」

 四号の話だと三号は四号と同じ人間族の少女だったようだ

 それが今は虎のような耳と尾を持ち、手足には鋭い爪が生えていた

 それはまるで獣人のようだ

「これは・・・、洗脳魔法がかけられています。それと、数分後に自動的に爆発する魔法まで」

「なに!? 危険じゃねぇか!」

「もう解除しました」

 アネモネは三号の様子を確認するとともに彼女に取り付けられていた起爆の魔法まで解除したようだ

 なんかアルカさんに弟子入りしてからすごいんだけどこの子

「獣人になる魔術、いえ、これは、獣人と組み合わせられた、キメラ?」

「四号、他の子供達に獣人は?」

「い、いた・・・。十二号、それに、十五号。あ、そうだ、その耳、十二号の。手や足は、十五、号・・・。やだ、そんな」

「胸糞わりぃ・・・」

 どうやら三号はその獣人の子供達の部位を移植されたようだ

 恐らくその獣人の子供達はもう

「洗脳を解除しましたが、目覚めさせるかどうかは・・・」

「そうか、ショックを受けるかもしれないな」

 自身の姿、そしてその姿になったことによる犠牲

 こんな幼い少女の身には過酷なことだろう

「元の姿に戻すことは?」

「無理です。魂にまで繋ぎ止められては私にはどうしようも、ないのです」

「そうか、すまないアネモネ」

「いえ」

「う、ううん」

 三号が目を覚ましたようだ

「あ、れ? ここは、訓練場だ。あれ? あなた達だれ? 四号! 大丈夫? 怪我してない? あなた達、四号に何したの!?」

 気が強い子のようだ

 そして彼女は四号に向けて伸ばした自分の手を見る

「え、何この手・・・。十五号、じゃない、私の手? なにこれ、なんで」

「三号! 大丈夫、大丈夫だから!」

「四号、あたしどうしちゃったの? なんだか耳も変、暑い、体が熱いよ」

 三号は自身の身に起きたことを理解し、絶望の表情でガクガクと震え始める

 四号はそんな彼女をしっかりと抱きしめた

「アネモネ、三号と四号を頼む。俺たちは先に進んで、この悲劇を止める」

「はい旦那様、お気をつけて」


 二人をアネモネに任せると俺は大量の薬を飲みほした

 アネモネの探知はここからは期待できない

 探知の薬も飲み、訓練場と呼ばれるこの場所からさらに奥へと進んだ

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?