ここは一体どれほどに深い場所だのだろう
もう何百メートルも潜っている気がする
曲がりくねることで現在自分がどこにいるのかも分からない
侵入者の方向感覚を狂わせ、暗殺者自体の居場所も分かりにくくしているのだろう
だが段々と奴らの居場所に近づいていると感じる
探知の薬の効果なのだろうか?
これはエルフの薬製造方法に書かれていたものを取り込み、俺の元々作っていた薬の効果を上げたものだ
そのおかげなのだろうか? 何かが下に潜んでいると理解できた
「近い。戦闘の準備を」
道中もやはり何もしかけてこない
ここまでおぜん立てされているかのようだ
まるで挑んで来いとばかりに
「舐めてやがるな。俺たち程度なら小細工なんぞ必要ないってか?」
そうなのかもしれない
相手は今まで尻尾を見せなかった暗殺集団だ
実力もそれなりだと考えられるし、なにより戦力が分からない
地下から漏れ出る気配は強く邪悪だ
震えるほどに
俺じゃあ絶対に勝てないが、ここにいるのはSランクの猛者たちだ
俺はサポートに徹し道案内をするしかない
「もうすぐだ。見えて来た」
大きな扉が見える
そこからは何かの気配がする
一つなのか、それとも複数なのか
まるで増えたり減ったりしているかのようなあいまいな気配だ
「開けるぜ」
ダンが先陣を切って扉を開けると、そこには一人の男が立っていた
「なんだ、釣れたのはこの程度か。でも、いいや、三人、かな?」
男はそう言うとダン、ガーディ、マナを見る
そして何の気配もなく三人の前に立った
それぞれ離れて位置に立っているのにもかかわらず、男は三人それぞれの前に立ったのだ
分身なのだろうか? だがそれぞれに実体があるように感じる
その分体は三人を一撃で昏倒させた
「やめろ!」
俺は斬りかかったが、実態があるはずの目の前の男は、まるで斬りごたえが感じられず、霞を斬っているかのようだった
「君、そんなに弱いのに何でここにいるの?」
「弱いなんてこと、俺が一番わかってるさ。でも俺でも出来ることはある」
俺は懐から閃光を放つ薬品を取り出して地面に投げつけた
ファンファンにはこういった時すぐ目を閉じるように言ってある
俺の意図に気づいて目を閉じ、彼女は三人を救い出した
「何だただの目くらましか。警戒して損しちゃったよ」
ドチュッという音が胸辺りからした
ドクンと心臓が一度鼓動し、動かなくなるのが分かった
今までは何とか生き残って来たが、これは、ダメだとはっきりわかったんだ
目を覚ますとカズマさんが刺されているのが見えた
剣や刀などではなく、手から黒い刃のようなものを生成し、敵はカズマさんを刺殺したんだ
英雄と称えられて私は調子に乗っていたのかもしれない
カズマさんは始めから人当たりが良くて、失礼なダンにも優しく接していた
そんな彼を、私達は守れなかったんだ
だらんと力なく宙ぶらりんになっているカズマさんを、男はごみでも捨てるかのようにポイと放った
ドサッという音とともにカズマさんが地面に転がった
「旦那様ぁああ!!」
ファンファンがカズマさんにかけより泣いている
「聖剣解放! ヴァレンティア!」
聖剣ヴァレンティア
その性質は魔剣に近く、敵の血を吸いその能力を高めていく
「ダンさん、ガーディさん、なんとかあいつを抑えてください。一太刀でも浴びせれれば、私が絶対に倒します!」
「よし分かった! ガーディ、お前たち! やるぞ!」
鶴翼の陣形をとって男を取り囲むと、男はニヤッと笑った
「そんなことしなくても、何が起こるのか知りたいからさ、一太刀、浴びてやるよ」
男は私の目の前にいつの間にか立っていた
そして私は剣を振るって男の腹部を深く切り裂いた
「吸え、ヴァレンティア」
男の血を吸い、ヴァレンティアは成長する
「血のように赤いヴァレンの星よ。導け! 光となって! 流星の閃き!」
ヴァレンティアは赤く妖星のように輝いて男を喰らうように切り裂いた
男は真っ二つになって転がる
「やった、のか?」
「胴体が上下泣き別れして生きている人間はいないでしょう」
男はピクリとも動かない
どうやら勝て・・・
「期待外れだなぁ。昔にはなかった聖剣だから面白い効果でもあるのかと思ったけど、ただの能力強化か。ごまんと見て来たよ」
おかしい
声がする
男は確かにそこで倒れて死んでいるのに、どうして?
「フフ、ヒトが驚く顔ってのは、なんでこう、滑稽なんだろうね」
男の声は真後ろからした
「まあでも身体能力的にはなかなか。やはり使おう。君と、そっちの二人・・・」
ドグンと何かの鼓動が聞こえる
ドグン、ドグン
心臓の鼓動?
それはカズマさんから聞こえた
ドクドクと、激しく脈打ち、やがて彼の周囲を得体のしれない光そのもののような気配がする何かが包む
「ふぅむ、どうにもカズマの肉体は貧弱が過ぎるな。まったく、力を使えば良いものを。きゃつめ、面白がって力を使わせておらんな?」
「カ、カズマ、さん?」
「下がっていろ子らよ。世界が違おうとも、ヒトは我が子ら。守ってやろう」
「何を、言って」
「天来の火栄」
カズマさんが炎に包まれて、まるで逸話に聞く精霊イフリートのようになる
「私が使えぬは妻の力のみ。さてお前、ヒトではないな?」
「見抜いちゃいます? 異界のナニカ」
「炎羅」
何もない空間をカズマさんが焼く
「あつっ! ハハハ、これまで見破るなんて増々もって面白い。あんたなに? その男、どう考えても下級も下級だったはず。何の力もない小姓、多少鍛えただけのゴミ」
「ははは、言うな。我が宿主に対して・・・。だが、この私が、我が子らが、認めた逸材ぞ。無礼千万。常ならば国ごと沈めるものを、ここには子らがおる。貴様一人の命で・・・。貴様命をどこへ置いている?」
「ちっ、なんだよあんた。そこまでわかるって何者だよ」
「奉納されし神楽舞、子らの願い祈りを我が力と変えよ。神遊び」
何かが、何か分からないけれど柔らかな光が全てを包み込んだ
光に目が慣れて様子が見えて来る
「逃がしたか。子らよ、すまぬがカズマを頼んだ」
「は、はい」
その誰かはカズマさんの体から抜け出たのか、カズマさんが気を失い倒れた
「カズマさん・・・」
くそ、手ごまは増やしておきたかったんだけどなぁ
あれはなんだ?
異界から来たのは間違いないが、数万年前もあんなのはいなかったぞ
女神が呼んだか?
いや、ここの女神にもうそんな力はない
だけどまあ、面白くはなりそうだ
カズマって名前だったかな?
ティフォンの時みたいに、楽しませてよ