ビスティアの事件から数日後、王兄の国葬も終わり、彼が洗脳され、無理やり妹を殺すよう差し向けられていたことが、世界に向けて発信された
兄妹仲を裂く胸糞の悪い事件だった
少し落ち込み気味で帰路についた俺は、家に帰ったとたん泣き叫びながら駆け寄ってくるレナに出くわした
「カズマさん! カズマさぁあああん!!」
この日からだ
世界中で異常な事件が起こり始めたのは
レナの話を聞くと、俺がいない間にこの国でとんでもないことが起こっていた
結論から言うと。突如現れた魔人と大量の魔物により、壊滅的な被害を受けた
幸いにも避難が迅速だったため死者はいなかったが、騎士団はもはや機能しないほどに怪我人が多いのだという
「俺が置いて行った薬は?」
「一般市民を優先して使用したから、騎士団の分は残ってなくて」
「すぐ行く! レナは先に帰ってて来れ」
「分かった! ありがとうカズマさん!」
俺はすぐにありったけの薬をかき集め、空間収納に詰め込んだ
ついでにあらかじめ大量に作っておいた武具も入れておく
被害を受けたってことは、武具も壊れてるだろうしな
もちろんこれらは無償提供だ
俺はファンファン、アネモネと共に帰って来たばかりの家からすぐに出て街へ向かった
街はすでにほとんどの家が倒壊していて、阿鼻叫喚と言った光景だ
ところどころに魔物の死体もある
これで本当に犠牲者がいなかったというのは奇跡だろう
「カズマさん!」
街にやって来たばかりの俺に声をかけたのは、レナ、ミリアだった
「ミリアも無事だったんだな」
「わたくしはレナに助けられたおかげで怪我一つなかったのですが、ハール団長とキール副団長が」
「すぐに薬を飲ませよう。案内してくれ」
レナ達の後をついて行き、簡易式に建てられたとみられる治療院へ入る
中は死屍累々で、とても見ていられる状況ではなかった
多くの騎士、冒険者が床に伏し、もはや死を待つばかり
だが
俺は薬を治療院の者やレナ達に渡し、飲ませるよう指示した
飲めない者はふりかけ、飲める状態まで回復させる
この薬、飲んだ方が効くからな
団長含め何人かに飲ませているとフィルが来た
「カズマさんお久しぶりです」
「やあフィル。君も無事だったんだな」
「はい、私はたまたま隣村で出た魔物討伐に行っていたので・・・」
「う、うう」
「団長!」
ハール団長が目を覚ました
かなりの大けがで意識不明だったが、無事回復したようだ
「カズマ君か・・・。情けない、街一つ守れないのだから」
「そんなことはありません団長! ハール団長やキール副団長が踏みとどまってくれたから、あの魔人も逃げたんです!」
「その魔人ってどんな魔人だったんですか?」
「あれは、ネズミのような魔人だった」
「調べてみます」
俺はエルフの里で書き記した魔人たちの特徴を調べる
ネズミのような魔人
その特徴から一人の魔人がヒットした
「チーパック・チューニー。ネズミ魔物から魔人化したと思われる魔人」
ネズミ魔物は一般人でも狩れるほどに弱い魔物だ
それが魔人化すると街一つを滅ぼせるほどなのか
「やつは大量のネズミ魔物を引き連れて街を襲ったんだ。魔人自身もとんでもない強さだった。だが少し引っかかることがある。奴は、言葉を発さなかったんだ」
魔人の特徴は魔物と違い、知能と言葉を操る
「ただ単に何も話さず襲ってただけってことは考えられないんですか?」
「その可能性もあるが、あの目は、まるで・・・。そうだ、何かに操られているかのような・・・」
そこに突如騎士団員と思われる男性が駆け込んできた
「団長大変です! 世界各国で同時多発的にネズミ魔物が大量発生しています! あまりの多さにどの国も対応に追われています!」
「馬鹿な、世界各国でだと!?」
ネズミ魔物は確かにどこにでもいるが、本当に弱い
一体どれだけの数が襲ってるんだ?
数は力を上回るか
「でもなんでこの国からはすぐに手を引いたのかしら?」
「もしかしたら練習、だったのかもしれませんわ」
レナとミリアが考え込む
「練習だとすると、本番があるってことにならないか?」
あ、そんなこと言うと
ドーン
突然大きな音と揺れがひびいた
「なんだ!?」
外に出ると、街に大量のネズミ魔物が押し寄せてきているのが見えた
「に、逃げるんだみんな!」
すでに俺の薬で全員回復している
これなら逃げれ
ドクンと心臓の鼓動が聞こえた
「あ、あれ?」
急に眩暈がし、意識が消えた
✕✕✕スキル
ヒノカグツチ
「ハッハー!! 母上も、妹弟たちも! 見ていろ、俺の炎を!」
カズマは生命そのもののような炎の塊となり、それは人型を取った
「カ、カズマさん?」
「下がっていろお前ら。俺が守ってやる」
炎は迫りくるネズミたちの前に立ち、表情はうかがい知れないが確かに笑った
「始火狩り(しひかり)」
炎が弾け、その火は全てのネズミに燃え移った
正確に、ネズミのみを包み、あれほどいたネズミは灰になった
「緊急事態っぽかったから勝手に借りたぜ。じゃあな」
カズマについた炎は消え、意識を失ったカズマはその場に倒れた