チーパックはやはり窮鼠を使って来た
じゃが、こやつの動きは単調で読みやすい
Cランクの冒険者以上である程度の戦闘経験があれば難なく避けれるじゃろう
殴りつけを難なくよけると、チーパックの拳がわしの後ろの砂浜にめり込んだ
そこでわしは認識が甘かったと思い知らされたのじゃ
めり込んだ拳を中心に砂浜が弾けて砂の一部がわしの左腕に少しかかった
その左腕が突然腐り落ちたのじゃ
「なんじゃと!?」
その腐食はわしの左手から腕、肩へと上がってくる
「くっ」
わしは肩口から左腕を斬り落とした
「今の爆撃で巻き上げられたものに当たってもダメなようじゃな」
これは近づけぬ
自身の手を見、チーパックは砂を掴んでこちらに飛ばしてきた
「まさか今まで自身の力が変わっていることに気づいていなかったのか?」
砂の攻撃を近距離転移で避けるとわしは奴の真後ろに現れて蹴り飛ばした
「ぐ、ああ!!」
じゃが、その足がはじけ飛んだ
「まさか能力を発動しておらんでも効果を発揮しておるとはな」
左腕と右足を失ったが、この程度どうということもない
すぐに再生が始まると、ほれ元通りじゃ
「ふぅ、仕方ないのぉ。神獣であったわしの力の一端、見せてやるか」
わしは人型のまま竜の力を解放した
竜に戻ってもいいが、この辺りに被害が出てしまうからのぉ
ここは確かドワーフの国の近くじゃ
すぐ近くにある鉱山地帯には採掘をしとるドワーフもおるからの
「さて、貴様はもはや元には戻らんと見てよいのかのぉ? それならば、今一度死を与えてくれようぞ」
オレガはこやつの行動を把握しておるのか? まあどうでもよい
「エルドラ」
黄金に輝く拳
それを思いっきりチーパックにねじり込むようにして撃ち込んだ
バキバキと肋骨の折れる音
わしの腕は・・・。ふむ、少し腐食しておるがこれならば問題ない
胸に大きな穴を開けて倒れ込むチーパック
目からは光が消えている
いや、元々光はなかった
恐らく殺害されてから死体をあやつられていたんじゃろう
チーパックの死体はピクリとも動かなくなり、周りのネズミもいつの間にかいなくなっておった
この死体はオレガに返しておくかのぉ
あやつは悲しむじゃろうが、真の敵は別にあると教えねばなるまいて
わしはチーパックを連れて行こうと死体を抱え上げた
その瞬間じゃった
チーパックの目がギンと見開かれ、わしの顔を手がガッシリとつかんだ
「まずい!」
油断した
わしは顔を腐らされ、頭部がドロドロと溶け落ちるのを感じた
むき出しになる頭蓋
顔から上が溶け、骨がむき出しになったのじゃ
幸い骨に阻まれ脳にまで達さなかったようじゃが、激痛で思わず足をついてしもうた
その隙を突かれてわしの胸をわしづかみにするチーパック
そこから核を狙おうということか
じゃが分かっておれば対処はできる
腐食の耐性魔法をすんでのところで展開することが出来た
「ふぅ、貴様、わしの美しい顔をよくも」
唇も溶け落ちておるから話にくいが、すでに再生を始めておる
口元、目、頭の肉が再生し、毛髪がスラリと伸びた
「初めから死体じゃもんな。再度操られれば動くか。わしの慢心ゆえの負傷。心してかかるとしよう」
チーパックは虚ろな目でわしを見据え、とびかかて来た
手からは窮鼠とは違う得体の知れない力が漏れ出ておった
効果は窮鼠と似て非なる、それでいて強力なものじゃ
「お主、その力はなんじゃ?」
「・・・」
「やはり答えんか。催眠、ではなさそうじゃな。さっきから解除を試みとるが反応せんからのぉ」
セイヴがかつてやっていたことと同じなのじゃろうか?
チーパックの拳が迫る
考えておる暇はなさそうじゃ
「星魔法、メテグラ」
隕石を局所的に降らせる魔法じゃが、まあこれは当然のように避けるか
こやつ、かなり強化されておるな
まるで落ちてくる場所を予知しておるようじゃ
「星魔法、ティアドロップ」
涙のように落ちる星
周囲一帯が吹き飛ぶが、これは避けれまい
巨大爆発が起こり、目視でチーパックが飲み込まれるのが見えた
もはやひとかけらの細胞すら残っておらんじゃろう
ふぅとため息を一つついた
恐ろしく強かった
わしは腐食した手を見る
再生はしておるが、遅い
どうやらそう言った能力を阻害する効果もあるようじゃ
厄介じゃのぉ
魔人たちが全員セイヴに操られれば、この世界は完全に壊れるかもしれん
わし一人では防げぬからなぁ
カズマなら一人で防いでしまいそうじゃが、あやつに負担はかけとうない
わしはひとまず赤の山へ向かうことにした
「まだ改良が必要だなぁ。他の魔人を使うかな? それともAランク以上の冒険者? なんにせよ実験はいろいろと必要かなぁ」
セイヴは重なった別世界からこの世界を見ていた
ティアの探知に引っかからなかったのはそのためだった
セイヴには次元を渡る力がある
その力がなぜ彼に宿っているかは不明だが、その力を使い、暗躍を繰り返しているのだった
セイヴの強大すぎる力がその力になったのか、誰かに与えられたのか
セイヴ本人にしか分からないことだ
「それにしてもティア、君は本当に邪魔ばかりしてくれる。でもそれがこの世界の住人を苦しめるんだ。いっそあの時滅びていた方が良かった。そう思うだろうね彼らは」
グニャリと歪む顔
悪意に満ちた笑顔
その笑みだけで普通の者は死ぬだろう
そしてセイヴは別の次元へ移動した
見つからぬよう、慎重なセイヴは一か所にはとどまらないようにしているのだった