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第101話

 ロイドという魔人、確か書かれていたぞ

 猛毒のロイド・アルカナム

 薬物を自らの体で生成し、それを散布して大量殺戮を行える

 しかし、数千年前の記録には、彼は薬を作り出すことに喜びを見出し、名前も薬師のロイドと書かれている

 つまり、ヒト族を救っていた薬師だった

「お前、本来は薬師だったはず。人々を救っていたんだろう?」

「ああ、それが魔人の未来につながると思っていたからな。馬鹿な俺が間違った判断をしていたせいで、オレガ様は、仲間の魔人たちは死んだんだ!」

 ロイドは体から霧のようなものを発生させた

「吸うなファンファン!」

「む、うぐ」

 今まで無事だったファンファンも、苦しみ始め、やがて目から血を流して倒れもがき始めた

「ファ、ファンファン!」

「なぜだ? 何故おまえに一切効いていない。お前は、なんだ?」

 確かに分からない。俺だけ無事なのはどういう原理なんだ?

 俺は自分の手をじっと見つめる

「まあいい、毒で死なないなら直接殺せばいいだけのこと」

 ロイドは体から精製した薬物を結晶化、そしてさらに固めて剣を作り出した

 相手の力量は分からないが、十中八九俺より強い

「初お披露目だ。俺の最高傑作、包剣断罪」

 包剣断罪

 包丁に似た剣で、三つの魔石を埋め込んである

 ワイバーンの魔石、ミンティの体の一部から出て来た魔石のような石、そしてアルクさんがくれた竜の魔石だ

 それぞれ効果が違うが、合わさることで特殊な剣ができた

 斬り捌くことを旨とした概念のような効果

 悪と決めた相手の罪に応じて効果が増す

「捌き剣術、オロシ」

 これは俺が普段料理してきて培った技術を、なんちゃって剣術にしたものだ

 魚をおろすように相手を切り刻む

「素人剣術だな。だが、洗練されている」

 ロイドの剣と俺の剣が競り合う

「な、なんだこれは!」

 ロイドの剣に俺の剣がめり込んでいく

「うおぉおおお!」

 さらに押してロイドの剣を斬り飛ばした

「馬鹿な、ミスリルと同じ硬度の剣だぞ」

「俺の剣は特別性なんでね」

 これの材質は、アルクさんがかつて狩った竜の鱗で出来ている

 ミスリルよりも硬くしなやかな真っ黒な鱗だ

「せりゃぁあ!!」

 そして俺は魚の兜を割るようにロイドを縦に切り裂いた

「な・・・」

 ロイドは真っ二つになり、左右に分かれて倒れた

「はぁはぁ、俺が、魔人を、倒した?」

 呆けてる場合じゃない。毒にやられたみんなを助けないと!


 幸いにもアネモネは無事で、解毒魔法でなんとか命を繋いでいてくれた

「アネモネ、これを」

 薬を取り出し、三人に飲ませる

「ぐふっ、ゲホゲホッ」

 だめだ、吐き出してしまう

 イリュゥとフェナンの方は何とか飲ませれた

 しかしファンファンは症状が重いのか、飲む前に吐き出してしまう

「仕方ない」

 初めてがこんな感じなのは悪いが、俺は薬を口に含み、ファンファンに飲ませた

 頼む、飲んでくれ」

 コクリと喉が動く

「あ、旦那様、俺・・・。初めてだ! 旦那様好きぃ!」

 いきなり元気になったファンファンは俺に飛びつき、俺の顔が涎でベトベトになるくらいキスの嵐をお見舞いしてきた


 ロイドという魔人の方を見る

 ん? 何かがおかしい

「あ、ぐ、く」

 なんと真っ二つのロイドが動き、その体を合わせ、傷口が再生していた

「貴様、あまりの力の無さに侮っていたが、実力者か」

 傷は完全に塞がった

「な、なんで」

「俺は自身の体に一日一度だけ復活できる薬品を仕込んである。今度は油断しない。次はない」

 そう言うとロイドの魔力が膨れ上がった

「旦那様、俺が戦う。旦那様は妻である俺が守るんだ」

 ファンファンにも新しい大剣を持たせている

 閃なる乙女の大剣

 これもまたアルクさんがかなり昔に、嘘か真か神竜アルビオナの鱗を拾ったというものを譲り受け、それから作り出されたものだ

 俺の剣同様加工はかなり難しかったものの、無事大剣として生まれ変わった

 そしてこの剣には魔石をはめ込まなくても特殊な力がついた

 それはまさにファンファンにぴったりな力と言える

「白熱円業、白火(ハッカ)」

 真っ白な炎が大剣から燃え上がり、本気になったロイドとファンファンが打ち合う

「お前一度俺の毒に負けただろう? ならもう一度だ!」

「無駄だよ。俺の薬は耐性も付けるんだ」

「な!? 俺より高度な薬品作成だと? 何なんだよお前は!」

 二人は高度な攻防を繰り返す

「白波!」

「グリーンファム」

 ファンファンが波のように緩やかな剣技を見せたかと思うと、ロイドはそれを華麗に受け流す

 一進一退の攻防は長時間続くかに思われたが

「うおぉおお! 剛力白夜行(ゴウリキビャクヤゴウ)!!」

 ファンファンは大剣を背中に背負うように構え、体をねじり相手とは反対方向を向く

 その隙を狙って斬りつけようとしたロウドは、目にも止まらぬ速さで大剣による一撃を繰り出したファンファンにより叩き切られ、その傷口から白い炎が吹きあがった

「あがああああああああ!!」

 ロイドは白い炎に包まれ、こちらに向かって腕を伸ばしながら、やがて倒れて死んだ


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