赤の山の色は元に戻らない
恐らくロイドだけではないだろう
今まで確認されている魔人は、ミンティ、アロエラ?、クーミーン?、セリ、チーパック?、そしてこのロイド
そのうちミンティは自壊し、ロイドは倒した。チーパックも能力が解除されたことから誰かが倒したと思われる
俺が知っている限り他に魔人は確認されてはいないが、十二人の魔人がいることから、残りは6人か
確認されていないのは、妖術使いのハッカ、三姉妹のバジルーシャ(この一人で3人分)、悪妖精ペパロ、そして生誕のローズマリーか
ハッカ、バジルーシャ、ペパロの能力は書かれているけど、ローズマリーはただ能力不明とだけ書かれている
数千年前でもあまり姿を見せず、いつの間にかいなくなっていたらしい
ただ、魔王オレガを慕っているのは他の魔人同様に確かなようだ
俺はロイドの遺体を抱え上げ、赤の山麓に丁寧に葬って、ファンファンに巨石を運んでもらい、そこにロイドの名前を書いた
これでオレガに気づいてもらえるだろう
魔人は魔王は確かに恐怖の対象で、かつて多くの人々を殺戮したと伝わっている
だが、本当にそうだったのだろうか?
少なくとも聖女リアラスの手記にはそんなことは書かれていないし、魔人たちはお互いを思いやり、魔王オレガを信頼していた
ヒトと変わらない感情を持ち、支え合い思い合っているように俺には見えた
本当に、魔人や魔王を倒すことが正しいのだろうか?
歴史なんてものは書いた者の意志でゆがめられることがある
数千年前の出来事が、本当は違っていたら?
魔王たちは意図的に貶められたのだとしたら?
そんな考えが浮かび、俺は彼らの話を聞きたいと思った
その考えも、俺の剣がロイドを完全に倒しきれなかったことにある
俺の剣は罪を裁き捌く
ロイドが倒せなかったということは、罪がないということになる
だから、再び赤の山へ
「ファンファン、これから俺はもう一度、あの山へ、あの城へ向かう。危険だから、待っててくれても」
「何言ってんだ旦那様。妻が寄り添わなくてどうするよ。アネモネ、エルフたちのこと、たのんだぞ」
「ええ、ええ、主様。ご無事をお祈りしています」
そして俺たちは再び、赤の山の地を踏み、登り始めた
剣のおかげか、この地の魔物も簡単に斬り伏せられる
まあ俺の剣は罪を裁く剣だから、普通の剣の威力しかない
だがファンファンの剣の威力はともかく絶大だ
この辺りの魔物が問題にならないほどに
そして赤の山にある魔王の居城へとたどり着いた
今度は正面から堂々とだ
門番はあの時と同じように立っている
「ん? お前確かセリ様が連れて来た魔人、か? 逃げたと聞いていたが戻ってきたようだな。外の世界はやはりお前には酷だっただろう? ん? その人間は何だ_」
「この人は俺の旦那様だ」
「な!? 人間を夫にするだと? 我ら魔人が人間に、ヒト族に何をされたか知らないわけではないだろう?」
「知らないさ。このファンファンも俺も、その数千年前には生まれてないんだ。だからこそ、本当のことを知りたい。あんたたちと分かり合えるとまでは思わないが、何も知らずにただ敵として対峙するわけにはいかないんだ」
「変わった人間だな。普通なら俺たち魔人を見れば逃げるか向かってくるのにな・・・。分かった。ひとまずは入れ、どうせ二人だ、幹部の方々には勝てないだろう」
門番の魔人は意外なほどあっさりと通してくれた
そして俺は、城のあの広いエントランスへ
「そこで待っていろ」
門番は奥へと入って行った
そして数分が経ち、なんとミンティと一番親しい二人の魔人、アロエラとクーミーンを連れて戻って来た
「いい度胸だなお前。あたしらの前に堂々と立つその根性。覚悟はできてるみたいだから殺す」
「ふふ、私達の手でミンティの仇が打てるなんて思わなかったわ」
二人とも身長が2メートル以上あり、クーミーンに至っては3メートルはありそうだ
クーミーンの方の臭いが鼻を突き、むせかえりそうだ
「はぁ、クーミーン、この方、本当に話に来ただけのようです」
「だろうな、殺気がねぇ。あれだけの力を持ってるんだ。戦いに来たんなら、多分門番のブートが無事なわけないからな」
「ミンティのことは許せねぇが、だが、あいつは遅かれ早かれ死んでいた。お前が楽にしてくれた。今ではそう考えてる」
「話と言うのは何ですか? 場合によってはオレガ様に会っていただきます」
「ありがたい・・・。俺は、君たちは本来友好的な一種族なんだって考えてる」
「・・・。続けろ」
「確かに歴史には魔王や魔人は悪逆の限りを尽くし、人々を恐怖に陥れたと伝わっている。でもおかしいんだ。詳しい被害報告がない。どの文献にもだ。それに」
俺はリアラスの手記の一部を二人に見せる
「聖女リアラスはお前たちを一言も悪く書いてはいない」
魔王オレガ・ノーティラウス
優しい魔王
本来争いは好きではないが、魔人が悪として殲滅されそうになっていた時代に自ら立ち上がった女性
素体はなく、ある日突如として生まれたと思われる
ミンティ・ビレオロン
別名教授と呼ばれる小さな少女型魔人
素体は蜘蛛の魔物だが、普段は手足は四本
どもり口調で、魔物を簡易的に魔人に変えれる技術を持っている
アロエラ・クルルポラット
大柄でミンティを可愛がっている女性型魔人
戦闘時は膨大な魔力を持って古代魔法(現大魔法)を連発する魔法使い
クーミーンとは喧嘩ばかりしているが、認め合って背中を預ける程度には信頼している
素体は亜竜魔物
クーミーン・ポットフライ
一つ目で腕が左右で四本ある女性魔人
風呂に入るのが嫌いで、常に臭い
仲間思いで、積極的に仲間を守るため生傷が絶えない
戦闘時は四本の腕をいかした剣を使う
言動から頭が良くないと思われがちだが、実は理知的で、剣を振るうときは冷静になり、静かな剣を振るう
素体は超大型の蠅悪魔(ベルゼブブと呼ばれるモノ)
単眼なのは他の目が悪魔時代に全て潰された為
ハッカ・クラマハクコ
寡黙な男性型魔人
刀を使う侍のような姿に六本の尻尾を持つ
素体はワコクと言う島国の狐魔物
見た目は女性と見間違えそうなほどに美しい
能力は妖術
セリ・パルルスフォイン
洗脳にかけて大魔法を凌ぐほどの威力を誇る魔人の魔法使い
素体は蜻蛉魔物の少女で、トンボの羽を持ち、かなり長い腕を持っている
戦闘能力は皆無だが、魔物などを操って戦闘させる
バジルーシャ・ロロララリリ
魔王オレガの右腕で、オレガを非常に慕っている
冷徹そうな見た目、話し方だが、他の幹部魔人たちとは仲が良く、仲間思い
素手に魔力を乗せることによる徒手格闘術が得意
素体はケルベロス魔物で、普段はロロという長女の顔が主導権を握っているが、おっとりとした次女のララ、元気なリリという顔も持つ一つの体を共有する三姉妹
ペパロ・モルガナ
悪妖精の魔人
黒い蝶の羽を持っている
能力は治癒で、特大の治癒魔法を使える
性格は陰険だが、オレガのことを好きすぎるため、少し好きが暴走気味
そのほかの魔人のことは嫌いで、たまに毒を盛ることがある
チーパック・チューニー
最弱のネズミ魔物から進化した魔人の男
ネズミ魔物を率いて戦うが、本体も強く頭がいい
一人称はチー
能力は窮鼠で、自分より強い相手と対峙したときのみ一撃必殺の技を扱えるが、一日に一度きりの大技でもある
ロイド・アルカナム
植物魔物から魔人になった男性
ヒトと魔人の橋渡しのために一所懸命に働いていたが、ヒト族に裏切られてしまった・・・。ごめんなさい・・・
能力は薬品生成
ローズマリー・イェルエナ
無口な女性で、顔の上半分が髪に隠れて見えないが、素顔は非常に美人
魔人たちのまとめ役で、バジルーシャが右腕なら彼女は左腕
能力は不明
俺は彼らのことが書かれたページを見せる
「これは、リアラス・・・」
「ええ、そう。あの手記はずっと残っていたのね」
ふいに彼女たちの後ろから少女の声が聞こえる
「リアラス!」
「え、リアラス? その手記の、聖女リアラスなのか!?」
突然現れ、美しい白い装束を纏った可憐な少女
彼女が、聖女リアラスなのか? そんなはずはない
だって彼女は、数千年前の
訳の分からないまま、彼女はゆっくりとこちらに歩いてきた