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第103話

「彼女たちの言う通り、私はリアラス。かつてこの命と引き換えにダークドラゴンの力を封じた、聖女と呼ばれた美少女です」

 自分で美少女と言っているのは聞き流し、本当にリアラスなのか疑った目で見る

「まあ疑いますよね。でも事実。私はミンティに呼び起された、いわばゾンビです」

「ゾンビ? こんなに綺麗なのに?」

「まぁ綺麗だなんて! あなた、ランスと同じくらい正直な人ですね、フフフ」

 少女に見えるが、彼女は20代前半だったかな? ランスとの間に子供もいるし、現在は子孫もいる

「私がここにいるのは、ミンティに託されたから」

「ミンティに?」

「ええ、その前に魔王オレガと、私達勇者側の話をさせてもらいますね。クーミーン、アロエラ、オレガを呼んできてもらえるかしら?」

「あ、ああ。あとで話を聞かせてもらうぞ」

 二人が魔王を呼びに行く

「魔王オレガは現在力の大半を失い、まともに動ける状態ではありません。ですが話くらいはできますので」

「聖女様あの」

「なんでしょう?」

「なぜ様々な国の偉い人じゃなくて、俺に話してくれるんです?」

「ああ、あなたはまだ気づいていないのですね。ええ、そうでしょうとも。勇者でも英雄でもないあなたに、私は話すのです。なので、あなたは自分が何者なのかを知る必要がありますね」

「俺が、何者か?」

「ええ、異世界からの転生者さん」

「!? 何故そのことを。両親にすらこの事は話していなかったのに」

「オレガも来たようです。彼女を加えて話を続けましょうか」

 二人の魔人に大事そうに抱えられ運ばれてきた少女

 はかなげな薄幸の少女といった印象だ

「ああ、そうか、リアラス、あなたが言っていたのはこの人のことだったのね」

「そうよオレガ。かつての私達の夢。それをきっと叶えてくれる異世界の神が憑いた救世主。神の依り代と呼ばれる存在だと、私は確信しているわ」

「この方が・・・。もっと顔を見せて」

 俺は魔王に顔を近づける

 彼女からは優しい花の香りがした

 じっと俺の目を見る魔王、まるで吸い込まれそうなキラキラとした目が見える

「私はかつて、ヒトとの友好のため、魔人たちの未来のために奮闘していた。それには勇者ランスも、この聖女リアラスも、協力してくれていたわ。でも、それなのにヒトは、私達を拒絶した」

「それは違うわオレガ! 何度も言ってるけど、あれは」

「分かってるリアラス。それでも私は怖い。また裏切られ、仲間を殺され、残虐に私を壊されるのが・・・。確かに彼はランスと同じような優しい匂いがする。彼はきっと私達のために奔走してくれる。でも他のヒト族は? 彼と同じような行動がとれる? 彼の話を聞いてくれる? 私達の話を、聞いてくれるかしら?」

「それは・・・」

「そうよリアラス。ヒトは、一人の声の大きなものによって動かされる。それに」

「ああそうね。そのことも話しておかないと」

 リアラスは俺に向き直り、真剣なまなざしで見つめる

「かつて私達勇者パーティと魔王は、協力し一つの脅威に立ち向かい、その結果、ヒトと魔人との懸け橋は叶ったのです。でも、その脅威は、滅びることなくまとわりつき、ヒトに不信感を植え付けました。それは波紋のように広がり、やがてヒト族全体に感染して行って、私達の静止も聞かずに魔王たちを滅ぼしました」

「脅威? それは一体」

「その脅威の名は闇勇者セイヴ。かつて神竜であったティフォン様を殺害し、娘のティアをダークドラゴンへと変貌させ、その後魔王たちを貶めた、邪悪の権化。それがセイヴという男です」

 衝撃的な内容だった

 ランス以前。勇者はその時代ごとに生まれていたらしい

 現代では勇者が生まれないほどに平和になったが、混沌としていた時代があったのだ

 だが、勇者セイヴという名前は聞いたことがない

 魔王時代を終わらせたと伝わるランスの伝説が有名すぎるのもあるだろうが、俺が読み漁った文献には一度も出て来ていない名前だ

「セイヴは残忍で狡猾。力も強力なのですが、その力が何なのか、一切判明していません。ただ、洗脳魔法に似たものを使い、その洗脳は、一切痕跡の残らないもの、ということだけ分かっています」

 それを聞いて俺はハッとした

「まさか、ビスティアの事件って」

「私もその情報は得ています。王兄のことですね。操られている痕跡がなかったのでしょう? 恐らく復活したセイヴは世界中で暗躍し、何らかの工作活動をしているのでしょう」

「工作活動?」

「チーパックの事件もたぶん、あの男が関連しています。そして、オレガや魔人たちが蘇ったことも」

 何もかもが衝撃的すぎて、俺の頭では処理しきれていないが、正直そうと考えれば合点はいった

 だから俺は、その話をしっかりと受け止めることにした


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