「ここで戦ってもいいけど、この世界は次に僕が色々やろうって思ってる世界だから、一旦戻らない? 今壊しちゃうのってもったいないからさ」
「は? お前はどこまで!」
わしがとびかかろうとすると、まるで絵本のページをめくるように周りの景色が一変した
「ここは、ウトロナ砂漠か」
「うん、ここなら思いっきりやれるでしょ?」
「ふん、後悔するなよ?」
わしは神獣全ての力を最大に解放した
「へぇ、強くなったんだ」
「もうファンリルも、フェニクスも、リヴァイアも、アルビオナも・・・。みんなおらぬ。わしの力となって消えたからな」
「ハハハ、家族を犠牲にしたんだ。最低だね。アハハハ、あれだけいろんなものを破壊しても、ヒト族の命は奪ってなかった君が、肉親の命は奪えたんだ」
「奪ったのではない。託されたのじゃ」
叔父上も伯母上たちも、そして姉上も
わしがこやつを倒せると信じその命を託してくれたんじゃ
その思いに答える義務がわしにはある
「まあいいや、とっとと始めよう。君が勝つ未来なんてないけど。かすり傷くらいなら負わせられるかもね」
「ふん、いまのわしは全盛期のランスよりも強いぞ。お前が唯一敗北したあのランスよりもな」
「へぇ」
にやけた顔をしてわしをバカにしておるな
じゃが
「フェンリルガルア」
大地の力そのものをセイヴにぶつける
やつは避けもせずにただ笑い、わしの力が直撃した
グチャッという音と共にセイヴの上半身が潰れる
「あっけない。いやわざと受けたな?」
グジュリと体が元に戻っていく
「うん、どんな感じかなって」
ふざけておるが底が知れん
まるであの状態のカズマを見たときのような、圧倒的な威圧感
ランスに負けたころのセイヴは確かに強かったが、ここまでの力はなかったはずじゃ
この数千年で一体何があった? それに世界を渡ったあの力もじゃ
世界を渡るなぞ、この世界にはない力
カズマと同じような力なのか?
「ほらもっと、もっとやってみせてよティアマトー!」
「リヴァイアマノー」
大海の力
それは激流となってセイヴを襲うが・・・
「溺れそうだね。死んじゃうかと思ったよ」
「お前、呼吸をしておらんな? 一体どういう」
「考えてる暇、ある?」
「まずっ」
油断した
奴はこっちに手を翳し、強大な力をこちらに飛ばしてきた
「ぐ、くあぁあ!!」
何の属性も持たぬただの力の塊
しかも奴からすればほんの少しの力であろう攻撃
それがわしの体にぶつかったとたん全身の細胞が壊されるような痛みが走る
「がぁあああああああああああ!!」
痛い、痛すぎる
大けがを負い、死にかけたこともあるが、これほどまでの痛みはかつてなかった
「あ、ああ」
「どう? かなーり加減したけど、物足りないかな?」
「ふん、虫でも止まったのかと思ったわい」
口ではそう強がってみせたが、すでに体は悲鳴を上げていた
たったの一撃、それだけなのにわしはすでに満身創痍となっておった
じゃが、心に火をともし、もう一度立ち上がる
「フェニクスロンディ」
わしの体は燃え上がり、傷を回復させた
「燃えてる。傷も回復してるんだね。面白い」
「アルビオナマハ!」
光が一点に集まり、セイヴを貫く
「穴が開いちゃったよ。ほら、アハハハ」
「く、貴様どこまでわしをバカに!」
「だって力の差がありすぎて楽しくないし。はぁ、神獣全ての力を持ったんだから、あのランスよりも楽しませてくれるって踏んだのに。とんだ見当違いでがっかり」
「なめるな! これはとっておきじゃ!」
神獣の力を結集させ、一つの力へと昇華させる
「テュポーンヴェーレ」
体に神獣の力を纏い、今度は単純な殴り合いじゃ
わしはセイヴの顔面を狙って蹴りを入れる
「お」
セイヴの顔にまともに当たると、奴の頭が砕け散った
「どうじゃ!」
グジュジュルと顔が元に戻る
「ぐが、ぎ、うん、痛いかな? 痛い?と思う」
「な!?」
「それ」
ドゴォという音がし、直後にわしの胸からメキメキという音が聞こえた
「あ、それ」
やつは、わしの胸から核を取り出していた
「へぇ、綺麗だね。七色に光ってまるで宝石のようだよ」
「わしの、核、返」
「えいっ」
バキンと、核が砕かれる
ああ、だめじゃ、こんなところで、わしは
叔父上、伯母上、姉上、母上・・・。そして、カズマ
すまぬ、まるで歯が絶たなかった
消える、わしの命が消える
体から力が、意識が抜けて行く
暗い、寒い、痛い
カズマ、カズマ、死にたくない
お前と一緒に
もっと
「あーあ、終わっちゃった。じゃあねティアマトー。完全消滅おめでとう」
セイヴの気配が消える
わしは最後の力を振り絞り、転移を開始した
カズマ、愛しいカズマ
あやつの顔が走馬灯として流れて行く
崩れて行く体じゃが、それでも何とか転移は出来た
そして、わしはカズマの目の前へと転移した
「あ、アルクさん!?」
カズマの声が聞こえる
伝えねば
全てを
そして託さねば
全てを