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第109話

 目の前に突如現れたアルクさんに俺は驚き尻もちをついた

 彼女はボロボロで、体がところどころキラキラと輝きながら消えていっている

「あ、アルクさん!?」

「ああ、良かった、座標は合っておったか・・・。愛しいカズマ、最後に会えてよかった」

 そう言うとわしはカズマに抱き着きその唇を奪った

「むぐ!」

「すまぬな、全て話す時間はないかもしれぬ。わしは、アルク、そして、ルカで、ダークドラゴンじゃ」

「え!?」

 驚いておるな。じゃがわしは構わず続けた

「すまぬ、負けた。セイヴは強い。神獣であるわしは、全ての神獣の力を得て、挑んだが負けた・・・。お前に託さなければならない自分の不甲斐なさが、憎らしい。頼むカズマ。我が母ティフォンの、我ら神獣の、勇者ランスの、そして、わしの仇を、討ってくれ・・・」

 そこまでじゃった

 わしはもう何もしゃべれぬ

 カズマの不安そうな顔が最後の景色とは、これも、過去の行いのせいじゃな

 じゃが愛しい者の胸の中で、死ねるのは・・・

「好きじゃ、愛しておるぞ、カズマ」


 アルクさん、いや、ルカは、俺の手の中で光に包まれ、やがて消えた

「アルクさんがルカで、ダークドラゴンで、神獣?」

 どういうことか理解が追い付かないが、彼女から感じたあの優しい気配と、長年添い遂げたような親しみやすさ

 それはルカと同じ気配だったんだ

 ルカは、彼女はずっと俺を見守ってくれていたんだ

「旦那様、師匠、いえ、ルカ様は、ダークドラゴンであった過去はありますが、ヒトを守るために奔走していました」

 そんなことは分かっている

 あの優しいルカがダークドラゴンだったって言うなら史実が間違っているんだ

「ええ、ダークドラゴンはかつて私達と共に闇勇者セイヴと戦った友人です」

「じゃあ二人が命を懸けてダークドラゴンを討ったって話は」

「討ったのではありません。託したのです。勇者ランスはセイヴによって致命傷を負い、セイヴもまた大きな傷を負って隠れました。その時にかつて神獣ティアと呼ばれたダークドラゴンに、アルビオナの妹である彼女に、私達の最後の力を託したのです」

「そ、それじゃあ、ルカは、ずっとこの世界を見守っていたってことなのか」

 そう言えばオークの襲撃の時にオークを殲滅したという黒い竜、それも考えてみればルカだったのか

 俺は涙があふれて来るのが止まらなかった

「彼女は旦那様を愛しておりました。どうか旦那様、仇を、お願いします」

「同じ男を愛したよしみだ。俺もそいつを倒したいぞ!」

 二人の言葉に俺は奮い立つ

「ああ、当然だ。家族を奪ったんだ。セイヴはオレが討つ」


 それからルカ、ダークドラゴンについてリアラスから色々と話を聞いた

 彼女は元々ティアという美しい竜の神獣だったそうだ

 神獣アルビオナの妹にして、神獣ティフォンの娘

 女神の力が失われてから、ずっとこの世界を守って来たらしい

 そんなときに事件が起きた

 神獣ティフォンをセイヴに操られたヒト族に殺され、怒り狂ったティアは闇に飲まれ、ダークドラゴンへと姿を変えた

 だが彼女は心まで蝕まれてはおらず、世界中でセイヴの目論見をつぶして回っていたらしい

 それが、ヒト族には災害として映った

 彼女は、ルカは、ずっと孤独な戦いを続けていたのか

 俺と過ごした日々が彼女に安らぎを与えられていたのなら、良かった

 良かった?

 そんなわけない! ルカは、彼女は俺とずっと一緒にいられるはずだった

 彼女の幸せと安らぎを奪ったんだ

「さてカズマよ。もう決意は決まったのであろう?」

「ええイザナギ様」

「ならば行こうぞ。お主の愛しき者を奪った者に鉄槌を」

「はい!」

 こっちには神々がついている

 それならば負ける理由はない

「そしてお前たち、この世界は神と神獣を失ったのだな。だが安心するがよい。神獣たちの魂は我が妻であるイザナミが保護してある。いずれ修復し、再誕するであろう」

「本当ですか!?」

「ああ、だが・・・。ティアとやらは魂までも消滅しておる。二度と戻ることはないだろう。すまぬ」

「そう、ですか・・・。ルカはやっぱりもう」

「すまぬカズマ」

 俺はイザナギ様が俺の中に戻るのを見届けると、席を立ちあがって魔王たちを見た

「これからは協力し合おう。この世界のために」

「もちろんです!」

「はい、魔人たちにも世界中に散ってもらいセイヴの動きを探らせましょう」

「頼んだ」

 こうして魔王たちとの共闘も決まり、セイヴを探し出すために動き出した

 俺はすぐにエルフたちの元へ戻ると一部始終を話して聞かせた

 幸いにも聖女リアラスも同行してくれたため、この話はあっさりと受け入れられることとなった

 そして、シュエリア王都へと戻ると、俺はハール団長にも全てを話した

「とても信じられない話だが、その方が聖女リアラス様本人だということは、エルフたちの証言から間違いないことは分かる」

 こちらも信じてもらえた

 今回のことは王に伝わり、そして世界中に発信されることとなった

「あとは、世界が一丸となってセイヴに立ち向かうだけだ」

 かつてなしえなかったセイヴを倒し、本当の未来を手に入れてやる

 それが、ルカから思いを託された俺のなすべきことなんだ

 俺がこの世界に生まれたのは、多分このためだったんだろうな


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