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第110話

「神獣が一斉にきえただと!? フェンリル様、フェニクス様やリヴァイア様までも・・・。いったい世界はどうなるというのだ」

 その日、世界は大きな悲しみに包まれた

 世界を守っていた神の子達である神獣

 彼らが一斉に姿を消したのだ

 最後に目撃されたのはフェンリナイト王城内

 フェンリルからはこれから起こることに驚かないよう言われていたが、到底許容できる問題ではなかった

 なにせ、世界から神の加護が完全に消えたのだ

 これから世界はゆっくりと滅びに向かうだろう

 その対策会議のため、世界中の王やリーダーたちがフェンリナイトへと集まっていた

「フェンリル様方が集まってから少し後に一体の美しい竜が飛び立ったとの話もあるらしいな。フェンリナイト王よ、その話は本当ですかな?」

「うむ、わしも見ておる。アルビオナ様ではなかったようだが、あの神獣様はいったい」

「それはわたくしがお答えしましょう」

 そこに招待されていないはずの女性がいつの間にか席についてた

「何者だ!」

「まさか魔王の手先の魔人か!?」

「あら、そんな危ないものしまいなさいな」

 その女性の横に立つエルフの女性

「あ、あなたは・・・。まさかルニア様、なのですか?」

「久しぶりですねフェルス。いいえ、今はフェルス王と呼ぶべきでしょうか」

「ル、ルニア様!? 赤の山を見守るあのエルフの族長様ですか!?」

 その場にいる誰もが驚き、そしてそんな彼女が付き従っていると見られるエルフの少女にさらに注目が集まる

「静かになさい。こちらにおわすお方こそ、我が祖母にして、大聖女リアラス様です」

「リ、リアラス様!? お亡くなりになられたはずでは!」

 またしてもさわがしくなる王たち

「わたくしはあなた方の言うようにかつて、ダークドラゴンを封じるためにその魂を捧げました。この体は魔王の配下協力のもとに一時の間、魂の器として機能している人形です」

「魔王の!? リ、リアラス様一体何をおっしゃっておるのです!」

 王たちのざわめきも仕方のないものだ

 歴史では魔王は世界を恐怖に陥れた災悪であったのだから

「魔王は敵ではありません。それはかつてもそうでした。そして私達が命を懸けて封じたと伝わるダークドラゴンもそうです」

 王たちが混乱しているのを無視し、リアラスは続ける

「本当の敵は、歴史の底に葬られた闇の勇者セイヴ。彼こそが、世界の敵なのです」

 それからリアラスは各国の王たちに今までのこと、本当の歴史を語りだした

「ではあの美しい白銀の竜が、ダークドラゴン、いえ、アルビオナ様の妹君であり、神獣ティアマトー様、なのですか?」

「ええ、彼女は母を奪われ、セイヴによって闇に染まりましたが、心まで奪われずにその力を自らのものにしたのです。そしてセイヴを討つため、一芝居討ったというわけです」

 歴史が変わるリアラスの発言に誰もが声を失った

「そして、ティアマトー様もまた、先の戦いで命を落としました」

「なんですって!? では、世界は・・・」

「絶望じゃ」

「皆の者、祈ろう。せめて安楽な最後を迎えれるように」

 暗く沈む中、リアラスは続ける

「ですが、この世界に希望をもたらしてくれる存在が現れたのです」

「希望ですか?」

「はい、彼の名はカズマ。異界の神々の力を持ち、セイヴに対抗できうる存在です」

「なんと!? カズマじゃと!? 我が国を助けてくれた恩人ではないか!」

「我が国もですわ」

 カズマという名前に聞き覚えがあった二人の王

 シュエリア王とビスティア女王だった

「考えてみれば彼は不思議な力を持っておったな。作る料理は強力なバフがかかり、薬品は死の淵に立たされたものを治し、武具を作れば神話に出るような効果を得ておった」

「わたくしも、彼に助けていただきました」

 シュエリア王が騎士たちや国民から受けた報告の数々を話して聞かせ、彼の異常な力を周知させる

「ではその力があれば!」

「勘違いしてはいけません。彼の力はあくまで異界の力。この世界の平和はこの世界の者達で守らなければなりません。ただ、セイヴの力も同じく異界の力。彼はセイヴを倒すと約束してくれました。セイヴが起こす問題は我々で解決し、彼にはセイヴ討伐に集中してもらうのです」

「そうですなリアラス様。神獣様亡き今、この世界は、我らヒト族の手で紡がねば」

「いいえ、ヒト族だけではありません。魔人たちもこの世界に暮らす者。なれば、手を取り合うのです」

 そこに魔王が転移によって現れた

「リアラス様、その方は?」

「この子は魔王オレガ。わたくしの友です」

「なんと! この少女が・・・。いえ、そうですな。我らも認識を改めなければ。共通の敵を倒し、共に、世界の平和を目指しましょう」

 フェンリナイト王は席から立ち上がると、魔王オレガの前に来て手を伸ばした

「正直、私は、私達魔人を恐れて排斥しようとしたヒト族が、怖いです。それでも魔人たちがこの世界に認められるというのなら、協力を・・・。いいえ、手を取り合いましょう。共に世界のために」

 二人は固く握手を交わす。それに倣うように各国の首脳が魔王と、そして魔人と手を取り合い、共に戦うことを誓ったのだった


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